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パンチライン百科事典 p.30 -AMERICA HAS A PROBLEM-

 Kendrick Lamarのペンがまた話題です。先週2023年6月19日にBeyoncéがサプライズ的にリリースした新曲、『AMERICA HAS A PROBLEM』に収録されているKendrick Lamarのあるラインが少し注目を集めています。恐らくこの話題を作るきっかけとなっているのは、Kendrickが昨今しばしば問題になっているAIによるラッパーのクローン生成問題を上手いこと弄りながら、自分のスキル自慢へと昇華した点かと思われます。ちなみにこのAIによるラッパーのクローン生成問題とは、AIが特定のアーティストの声を使って、別アーティストの楽曲を勝手にカバーさせるといった問題です。DrakeEminemRihannaKanye West等のビッグアーティストはやはりAIからの人気もかなり高く、Kendrickももちろん各種AIから引っ張りだこのようです。笑
 今回は、そんなAIからの攻撃をKendrick Lamarはどのようなペンの動きで捌いたのかについて説明していきたいと思います。


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Kendrick Lamar - AMERICA HAS A PROBLEM 1:04〜

Even AI gotta practice clonin' Kendrick
The double entendre, the encore remnants

たとえAIでもKendrickを真似る練習をしなければならない
ダブルミーニング、アンコールの名残り
1:04〜

 AIと言えば、冒頭でも述べたように、一度学習さえさせてしまえば何でも、誰でも、一瞬で真似てしまえるというような印象があるのではないでしょうか。ただ、真似る相手がKendrick Lamarとなれば、話は変わってくるようです。"Even AI gotta practice clonin' Kendrick"(たとえAIでもKendrickを真似る練習をしなければならない)にある通り、「AIが人間の仕事を奪う」と言われるほどの最新のテクノロジーであってもKendrickと同じようにラップするためには練習という非常に人間らしい行為を強いられるそう…なんという皮肉でしょうか。デジタルに対してアナログで殴り返してくる感じ、かなり鈍痛を伴うはずです(笑)。恐らくここでの彼は、「それだけ自分のラップは複雑で、一朝一夕で完璧に真似出来るようなものではない」ということを主張しているのだと思います。実際に、Kendrickと言えば、リズムや音程だけではなく声色までを自在に操り、凄く多彩なフローで魅せてくれるアーティストですので、彼のラップを学習する難しさというのは皆さんも何となく想像が付くのではないでしょうか。そして実は、このラインにはもう1つの意味が含まれていると考えられます。正に、続く"The double entendre"(ダブルミーニング)が示唆している通りですね。皆さんはヒップホップとNBAを繋ぐスーパースター、Allen Iverson(通称A.I.)というバスケットボール選手をご存知でしょうか。

Allen Iverson

彼は色んな意味で本当に話題が尽きないスポーツ選手だったのですが、その彼の印象的なシーンの一つとして、あるインタビューでの「ただの練習(Practice)だろ!?」という発言があります。

これがどういう発言なのかを簡単に説明すると、Allenが現役時代、彼がバスケットボール選手として注目して欲しかったのは試合だったのにも関わらず、当時、メディアやコーチ陣から練習のことばかりを取り上げられていました(特に練習に行かなかったことがあることを詰められてましたね)。そして、それに対して憤りを感じた彼は、「ただの練習だろ!?」というような発言をインタビュー中で繰り返すことになるのですが…後日、この発言の部分だけがメディアに切り取られ、様々な場所で拡散された結果、Allenと言えば練習嫌いな選手という印象が生まれてしまい、この「ただの練習だろ!?」という発言は彼の練習を軽視する発言として誤解されることとなりました。つまり、少し説明が長くなってしまいましたが、Kendrick「AIでさえ練習しなければならない」というラインにはこの文脈を踏まえた上での「A.I.(Allen Iverson)でさえ練習をしなければならない」という意味が掛かっていたということですね。ナイスバスケットボールライン!何度も言いますが、こういう引用は大好きです。
 そして、最後の"the encore remnants"(アンコールの名残)に関してですが、若干言葉足らずではあるものの、ここには「現状のAIのコピー能力ではライブのメインパートはもちろんのこと、アンコールパートすら担えない、むしろアンコール後の残り香くらいの雰囲気か醸し出せない」というようなAIに対する辛辣なディスが込められているのではないかと感じました。KendrickからAIに向けたトドメの一撃ですね。
 この一連のラインは、Kendrick Lamarのペンの鋭さがスマートに発揮された素晴らしいラインだと思います。「時事ネタ(AI)」「知識(NBA)」を含みつつ「スキル自慢」をするという3種盛りを2行の中にスッキリ収めているわけですから。これは個人的な意見ですが、AIのことは気にし過ぎているとどうしてもアーティストとしての余裕のなさを感じてしまう気がするので、これくらいのスッキリした口撃が割と正解だったのではないでしょうか。最小限の動きで最大限のダメージをってやつですね。


P.S. Allen Iversonをきっかけにバスケを始めた人は多いですよね。案の定僕もその一人です。笑



written by じょん

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