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阿久根を旅する取材インターンシップ#4

はじめに

鹿児島大学のインターンシッププログラム「課題解決型インターンシップ」の受入企業として、2023年8月24日~9月2日までの10日間にわたってインターンシップを実施しました。

テーマは「阿久根を旅する取材インターンシップ」。

創業1939年の老舗塩干加工業を主とする弊社、下園薩男商店は、阿久根で水揚げされたウルメイワシを加工した「丸干し」をAEONやスーパー向けに販売しています。

私たちは「今あるコトにひと手間加え、それを誇り楽しみ、人生を豊かにする」という理念のもと事業を展開し、自社製品の製造工場、ショップ・カフェ、宿泊施設を併設するイワシビルや山猫瓶詰研究所を運営しています。

今、資源をどのように「言語化」するかが課題になっている阿久根を、学生目線で取材し、記事を書いてもらいました

参加してくれた鹿児島大学生の4名のそれぞれの視点から書かれた阿久根、そして私たち下園薩男商店の様子をお楽しみください。

今回は最終回第4弾です。
これまでの記事はこちらからご覧いただけます。



イワシビルのたい焼き。インターン期間中に4尾食べました。
美味しかったと家族に話したら食べたいというので購入した所、4尾全て妹(甘党)が平らげていました。

夏休みと無鉄砲

長い長い、大学生活初めての夏休みが目に入り始めた6月の末のこと。
折角の夏休み、どんなことをしようかとわくわくしていたさなか、私はあることに気が付きました。
私はサークルにも入っていないし家族旅行の予定もない。数少ない友人たちは期末試験が終わればそれぞれバカンスへ旅立つらしいし、課外もなければ一緒に過ごす恋人もいない。

もしかして私このままじゃ、とんでもなく暇な夏休みを過ごすことになるのでは?
 
危機感を覚えた私は、何か良いイベントはないかと大学のHPを漁りまくり、偶然この課題解決型インターンシップを見つけました。企業選びも浅慮の連続で、昔からまちづくりには興味があったし、阿久根市は自分の地元(薩摩川内市)とも近い。水産加工業の知識は全くないが下園薩男商店様と言えば阿久根生まれの祖父が大好きな会社だ、よしここにしよう申し込みボタンぽちっとな。といった具合。

白状すると、私がこのインターンシップに参加した経緯はこのようなもので、つまり、ぜんぜん何も、何一つ深い考えや目標を持たないまま参加を決めました。
振り返ればなんとも失礼極まりない話だったと猛省しているところです。

企業理念と目的


インターンシップ初日、はじめに、社長からの企業説明、社長の人生や考え方についてのお話を頂きました。これまで社長という立場の方からお話を聞く機会などほとんどなかったので、ものすごく緊張しました。

はじめに聞いたのは「今あるコトに一手間加え、それを誇り楽しみ、人生を豊かにする」という企業理念。インターン事前学習でこの企業理念を知った時、一手間を楽しむってどういうこと?人生の豊かさにどう繋がるの?と思っていました。
お話の中の、下園薩男商店にとっての目標は企業としての利潤を得ることではなく、取り組みの過程でうまれる地域や会社の「らしさ」やそれまでの過程が内包する楽しさだという言葉に、自分の考えががらりと崩れました。

取り組みとは自分の人生を定義し充実させるための1つの手段に過ぎないという考え方は、「合格するために勉強する」「お金が欲しいからアルバイトをする」といったその後何をしたいのか、という目的を欠いた目標ばかりを持っていた自分に内省を促すものだったのです。自分の人生をどのように生きたいか、ということは難しい命題ですが、インターンを通じてその糸口を見つけたいと感じるお話でした。

またもう一つ社長のお話をきいてとても感じたのは自分の、また時によっては他人の人生に起こるすべての出来事がチャンスに繋がっているのだなということ。
社長の趣味であるカレー作りがスパイスを扱うという類似点を持ったクラフトコーラ作りに結びついたり、西野カナさんファンの社員さんが商品開発を担当されたことで若者の心をもひきつけるおしゃれな小魚ナッツが出来上がったり。
一見ビジネスには関係なさそうに思えることであっても考え方次第でチャンスになるのだ、と感じました。この考え方の変換が社長をはじめ、下園薩男商店に携わるすべての方々が大切にされている「一手間」なのかもしれないと感じています。

彫刻といきもの


本当に、自分でも本当におかしなことを言っている自覚はあるのですが、私は「イワシの丸干し」と聞くと「バルサ材の彫刻」を想起する人間でした。
その要因は分かっていて、丸干しをあまり食べない私にとって乾燥した魚に意識的に触れた数少ない経験の一つが小学4、5年生の図工の授業で「バルサ材」を使って煮干しの彫刻を作ったことだから、というものなのですが。
何がいいたいかというと、私にとって丸干しというのは何だか人生(魚生?)を感じられない無機質なつくりもの、というイメージがあったのだということです。
 
そんな奇妙としか言えない丸干しへのイメージを抱きながらインターンシップ二・三日目、市場の見学をさせて頂きました。どこを見ても魚魚魚、、、恐らく人生で一番魚を見た二日間だったと思います。(驚くべきことに地元の漁師さんは少ないほうだとおっしゃっていましたが。)
トロ箱いっぱいに詰められた魚たちは目が澄み切っていて、先ほどまで泳いでいたことを直に感じるような引き締まったからだをしていました。スーパーのパック詰めでは簡単には感じられない新鮮な生命力です。
競りが始まると、市場の空気がぴんと引き絞られたように感じました。競りの様子も圧巻でしたが、もっと印象的だったのは、イワシを競り落とした後の様子です。鮮度を保っていち早く工場まで届けるために、フォークリフトやその他機材をフル稼働して魚を急速冷蔵されており、一分一秒を惜しんで作業される姿に商品へのこだわりを感じました。
また、実際に漁師さんに話を伺うこともできました。潮の読み方や網の張り方、餌の使い方などなど、脈々と受け継がれてきた経験則によるいわゆる「勘」と、船のソナーや魚群探知機、正確性が向上した天気予報の活用といった「技術」との合わせ技で現在の漁が成り立っているというお話が特に印象的でした。
これもきっと漁業をよりよくするための一つの「一手間」の形なのだと思います。水産業を取り巻く活気と、命を扱うに当たったその厳かさに圧倒された時間でした。
 
この日は市場体験の他に工場でのイワシの加工作業も体験させて頂きました。人生初のエアーシャワーを浴びていざ工場内へ!ウルメイワシの目抜き作業を経験させて頂きましたが、さすが“潤目”イワシというべきでしょうか、一度マスコット的可愛さを感じてしまうと、目抜き作業は慣れるまで少々躊躇いがありました。
串の持ち方からご指導頂きましたが、うまく刺さらない!魚種の区別がつかない!サイズの感覚がなかなか掴めない!など、まさに悪戦苦闘の二日間でした。
水産加工業は一分一秒でどれだけ成果を挙げられるかが勝負。この時間や品質保持のシビアさは、利益を生み出すことだけではなく、魚を無駄にせずいただく命への責任を持つことにもつながることだと感じます。

イワシビルで頂いた朝食。大羽いわしは脂が乗っていてご飯が進むし、食べ応えも抜群。美味しくて骨も残さず頂きました。(私は魚を頭からばりばり食べる派)味噌汁に入っていたえのきが印象的でした。また食べたい。

一日潮と魚と、生き物のにおいをかいで、命に対して誇りをもって仕事をされている方々と出会う中で、自分の中の「バルサ材の彫刻」が物語をもって、息を始めたような気がしました。無機質だなんてとんでもない。これからは、丸干しはたくさんの人のたくさんの想いを受けて丸干しとして自分の手元に届いているのだという実感をもって丸干しを食べられると思います。
魚に対する敬意と、それに信念をもって仕事されている方々への尊敬を抱いた経験でした。

珈琲と旅

脇本の海水浴場。水が澄み切っていて海の底が見える。

4日目は、脇本にある「ともまち珈琲」を訪問しました。
私たちが滞在している時間だけでも常連さん、地域の方、旅の途中でふらりと立ち寄られた方などなど、様々なバックグラウンドをもつ方々が和やかな会話と共に珈琲を楽しんでいて、そこを訪れるだけで縁が結ばれるような、様々な立場の人がフラットな立場で交流できるような、地域密着型カフェの密さ、温かさを実感しました。

お話を伺った松木さんと鈴木さんは、種々の職種、国での生活を経験された非常にフットワークの軽いアクティブな方々で、旅=視点の変革、という言葉そのままに柔軟で、チャレンジを恐れない前向き姿勢がとても素敵でした。ともまち珈琲はそんなお二方だからこそ作り上げることのできる空間だと感じます。
人と人をカフェという場所でつなぎ、発信する、という「ともまち珈琲」流のまちづくりに、自分の中のまちづくりの形が変容した一日でした。

もうひとつ。私は阿久根市となりの薩摩川内市に生まれ育ち、「なにもない」田舎であるそこを早く出ていきたいと思いながら生活していました。
お二人は海外や、関東などの大都会で生活されていたのにどうしてこんな田舎に移住を決めたのか疑問だったのでその理由を尋ねたところ、「なにもないから、それがいいから移住しようと思ったんです」とのこと。
これはこの後お話を伺った地域おこし協力隊のお二方も仰っていたのですが、「なにもないからこそ、なんでもできる気がする」という考え方は、阿久根で話を伺う中で何度か耳にしました。
まだ私は「なんにもない」の価値を心から理解することができず、その考え方に不思議な気持ちを抱いていますが、もっと旅をして、人に出会って、見聞を広めてもう一度この考え方に出会った時、今よりも理解を深められたらいいなと思っています。

 まちの灯台とまちづくり

「まちの灯台あくね」では、社長の石川さんをはじめ、地域おこし協力隊の方々にお話しを伺うことができました。海のまちを連想させるし、遥か遠くにあるようでいてすぐ傍にある灯台の明かりのような阿久根の町のしるべ、という情景が浮かぶようで素敵な名前だと思いました。
「リノベーション」という手段を使ってもとあるものの価値を残し、次の新しい価値を作り出す、という考え方は下園薩男商店の企業理念と同じ根を持っていて、二人が共鳴し、ともに活動されている理由を垣間見たように思います。
 私はこれまで、「まちづくり」とは地域住民の生活の向上を目的として行われるものだと考えていました。しかし実際にまちづくりに取り組まれている方々のお話を聞く中で、この考え方は的を射ていないような気がしてきました。まちづくりといってもその取り組みの捉え方は年代や職種、趣味によって大きく異なるものだし、その意義は個人の価値観によって変容するものだからです。
地域おこし協力隊の福嵜さん、桐野さんの「人と人が出会うことそのものもまちづくりになりえるのではないか」という言葉がとても印象に残っています。自分のやりたいことをしていたら偶然それがまちづくりに繋がったり、まちづくりという取り組みの先に自分の人生の意義を見出すことができたり、うまく言語化できなくて歯痒いのですが、まちづくりとは自分が考えているよりももっと範囲が広くて、もっと自由であるものなのではないか、というような。
自分の中の「まちづくり」の理由や定義を根幹から考え直すきっかけになりました。

 考えたことと考えたいこと

インターンを通じて、様々な事を見聞きし様々な価値観を知り、「今あるコトに一手間加え、それを誇り楽しみ、人生を豊かにする」とはどういうことなのか考え、自分にとってのまちづくり、自分が人生でどんなことをしたいのかについて考えました。
「一手間」は、人によって、また場所によってその形は無限にあるのではないでしょうか。それは商品開発であったり、ものごとの捉え方だったり、人との出会いや美しい景色と出会うことだったり、人生の様々な瞬間に訪れる様々なチャンスを、自分の手でつかみ取り人生の糧とすることだと思います。
 
私はこのインターンシップで、自分の人生に自己分析や新たな価値観の受容、命への感謝といった多くの「一手間」を加えられたように思います。今回得ることのできた気づきや内面的な変化は、きっかけはどこにでも転がっているのだと感じます。それでも「こうありたい」という自分の理想に近づくためには、自分や自分を取り巻く環境の可能性を信じて挑戦していかなければならないのだと思ったのです。
 「一手間」を加え、大事にするきっかけをくださった方々に、心からの感謝を。
そして、読みにくく、まとまりのない長文をここまで読んで頂き本当に、本当にありがとうございました。

トートバックに一目ぼれして回し続けたイワシビルオリジナルガチャガチャ。どれもかわいくてお酒落なのでコンプしたくなったが断念。復刻されたらすぐに回しに行こうと決意。

阿久根を旅するインターンシップのほかの体験記は以下のマガジンからご覧いただけます。

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