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2,000,000,001光年の孤独

ふかふかの絨毯が敷き詰められたホールの会場で、入場の列に並びながら兄と一緒にはしゃいでいた。生まれて初めてプラネタリウムへ家族で行った時、弟はまだいなかった。

その日、わたしと同様に初めてのプラネタリウムへ訪れた人が多かったのだと思う。心躍る空気に包まれた空間が、わたしの心の高鳴りを一層に押し上げた。

扉が開けられると大勢の来場者がぞろぞろと各自の席を探し始めた。コンサートホールのような会場で、階段がずっと下の方のまで伸びていて一番下には平べったいステージのようなものが置かれていた。
会場の中段ほど、通路側から母、わたし、父、兄の順で一度着席した。すぐに兄が席を立ち階段を降りていったのでわたしもその後をくっついて行った。
何人か同じ年頃の子達がステージの脇にセットされた大きなスピーカーの周りでかけっこして遊んでいて、わたしはその大きなスピーカーに近づいた。会場のBGMがそこから発せられ、ボワンボワンと異常に振動している音の動作に気づき耳を当てると、体の奥まで音が鳴り響くのを確認した。
すごい!そんな顔で振り返ると、兄も他の子達もすでに席に戻りかけていた。

はじまる!高鳴る胸の鼓動の分だけ階段を駆け上っている途中で、ゆっくりと会場の照明が落ちてきて、わたしはみんなの座っている場所がわからなくなってしまった。あれ、と数段階段を上り下りしたところで、両親がわたしを呼び止める声が聞こえホッとする。
その瞬間、可能な限り大きくそして精一杯声を抑えた父が、わたしを叱りつけた。
わたしは大変愚かな過ちを犯し、非常に恥ずかしい行為をした。と言う内容だった。
もしかしたらアナウンスで「ご着席ください」とか「ステージ前のお子様お戻りください」とか着席を促すアナウンスがあったのかもしれない。わからないけれど、もしそうだとしてもワクワクの真っ只中のわたしの耳には届いていなかった。

真っ暗な宇宙の中で、あの子の目に満天の青白く輝く星は綺麗に写らなかった。誰かに迷惑をかけようなんて微塵も思っていなかったのに。火星にだけでも味方がいたらよかった。確かに宇宙は歪んでいる。あの子は泣くのを我慢して、それでも流れる涙が暗闇の中だったら誰にも見つからないと安心したんだ。

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