井口直人×岩沢兄弟《複写真機 <!– コピーーーーー機 –>》を千葉市美術館の展覧会で展示するまで。作品制作をめぐるメモ。
この夏、千葉市美術館「とある美術館の夏休み」展に作家として参加しています。
展示しているのは、コンビニでコピー機を使い、自分の姿やそのときどきの気になったものを写す活動を20年間毎日続けてきた井口直人さんとのコラボレーション作品。
井口直人×岩沢兄弟《複写真機 <!– コピーーーーー機 –>》と名付けた「装置」であり「コラボレーション作品」がどのように生まれたのか、試行錯誤の過程を少し振り返ってみます。
▲完成した作品の紹介動画
2022年初頭、コピー機と遊んでみる。
きっかけは、千葉市美術館つくりかけラボで「キメラ遊物園」がはじまったあたり。千葉市美術館の学芸員さんから相談があり、「井口直人x岩沢兄弟として、夏の展覧会で作品をつくってほしい」とのこと。その時期から制作の構想をスタート。
当初は「来場者がコピー機を使って井口さんの体験をしたくなるような仕掛け」を期待されていた様子。作るべきはそこなのか、井口さんの活動を見ながらもう少し考えたいなと感じた。
ただし、コロナ禍もあって、井口さんが通う愛知県の福祉施設まで伺うことがすぐには難しい。なのでまずは、お店にあるコピー機や事務所のスキャナーなどで、遊んでみることからスタート。
立体物のコピーは面白い。コピー中に蓋を開けたままにしているとモノから後光が差す! これは遊んじゃダメって言われるやつだからこそ、楽しい。
ただ手や物はイメージ通りに複写出来るが、顔は意外と難しい。思い切りというか勢いみたいなものが必要。ぐしゃっとスキャナに貼り付かないと写りにくい。
井口さんのセルフポートレート的コピー撮影は、井口さんの長年の技術あってこそ。初めての人がやっても「追体験」とは言えないのではないか。この時点で、ありきたりな体験コーナーにするだけではダメかもなと思い始めた。
井口さんの行為に着目して想像してみる。
コピー体験の場合の、機器手配について下調べをしつつ、オペレーションなども検討。小銭の回収や管理など、導入ハードルが上がっていることを知った。両替の手数料って高いですね。
次に、コピー機そのものから離れて、井口さんが行っている、コピー中にものや手を震わせる行為に着目して考えてみることに。
スリットスキャン表現の例を探したり、思い出したりする。岩井俊雄さんの作品《アナザータイム,アナザースペース》や《マシュマロスコープ》も映像体験としては近いかもしれない。InstagramやTikTokなどでもスリットスキャンエフェクトは人気があるらしく、色々と見る。
井口さんは毎日コピーを取っているけど、自分たちの日常に置き換えてみるとどんな体験なのだろう? 毎日、顔を見るものとして「鏡」。あとは、建物入口にある「体温測定装置」も顔を見つめる装置だ。「証明写真機」や「スマホ」もそう。不思議な装置を使った新しい日常とも言える。
2022年4月、井口直人さんを訪ねる。
4月、念願かなって井口さんが通う、社会福祉法人さふらん生活園を訪問することができた。一緒にコピーを取ったり、コンビニコピー機の様子を見せてもらったりする。
実際会うと刺激の量が違う。井口さん本人から語ってもらうことは難しかったけれど、行為の様子や振る舞いなど、受け取れる情報量が凄い。
さふらん生活園の水上施設長からも色々とお話を伺った。コピー機を使った井口さんの制作については、スタッフとのやりとりが表現方法の変化に繋がっていたことがわかってくる。
たとえば、カラーコピーだとトナーの減りが早いのでスタッフが2色カラーや単色カラーを促したそうだ。色の選択は井口さんに確認する。コピー中にものを動かしてみるのも、スタッフの方のアイデアらしい。それで揺れている表現も生まれたのか。
スタッフの方とともに見つけた方法。そのなかで、井口さんのこだわりとカチッとハマると日常の行為に組み込まれていく。
表現活動なのか、こだわりによる表出なのか。好きなものを残すのは喜びのようだが、コピーすることへの切迫感みたいなものもあるようにも感じられた。どうなのだろう。
「井口さんは美術館に飾ってもらいたくて作ってるんですかねー?」「どうなんですかね?」「でも、人と一緒にコピーを取ったり、注目されるのは嫌いじゃないみたい」というような会話もスタッフの方とする。
井口さんと会えたことで、やっとスタート地点に立った気持ちに。
日常行為? ハミ出し行為? 他者の眼差しを想像してみる。
井口さんにとっての日常の行為であるコンビニコピー機での顔面コピー。けれど、それを目撃した人からすると日常からハミ出した行為に見えるだろう。
違和感のある行為に向ける眼差し。それは、奇異の目? 怯え? 違和感? 驚き? 興味? 好奇心?
わたし達がコンビニで井口さんがコピーする様子を見たときの「目」はどうだったろうか?
そんな問いかけを来場者と共有したい。そのためには井口さんの行為を見つめる他者の視線をズラすような体験が必要かなと思い始めた。
そこから、モニターを箱の中にしまいこんで覗き見る形や、コピー機を回転させてみる形などを検討しはじめる。ちょっと極端で拡大解釈な素振りをする時間。
リアルタイムの画像処理方面についても、スリットスキャンエフェクトを公開していたインタラクションエンジニアの新井恒陽さんに協力してもらえることになり、実現方法についての話し合いもスタートする。
展示用の装置は、いくつかのテストを経て、コピー機のガラス面にモニターを埋め込む形で落ち着く。パソコン用のモニターをバラして組み込む作業、メンテナンス時にモニターの操作パネルが動作するかや、電源投入時の挙動など作り出すと悩むことが具体的になってくる。制作は、兄と土田誠さんが主に担当。
アイデアとメディアを美術館空間に落とし込む。
美術館で展示するにあたり、空間構成も考える。
コピー機(※実際はプリンターを改造したコピー機風の装置)を中心に据えつつ、コンビニ内にも設置されるようになってきた液晶ディスプレイ、監視カメラ、監視カメラ用のモニターなどを要素として検討。
コンビニを再現したいわけではないが、鑑賞後にコンビニに立ち寄った際に、店舗の見え方が少し変わってくれると良いなと考えながら、配置を構成した。
6月、カメラ機材など周辺機器も揃い、コンピューターも接続し、動作テスト。新井さんにも動作テストに立ち会ってもらい、アプリケーションは少し改修。
7月、展示会場への搬入。機器内部での配線やケーブルの配線なども隠さない形にしたので、必要な箇所については、オリジナルのケーブルを音響エンジニアの池田匠さんに依頼し、現場で作ってもらった。ケーブルを流れるデータの種類によって色分けをしている。
プログラムの設定値などを微調整し、無事、展示初日を迎えることが出来た。
(が、しかし、その後、コンピューターが止まってしまうことがあり、展示スタート最初の週末中にも調整を行うことになった。その期間に作品を見れなかった来場者の皆さん、ごめんなさい)
3つの眼差しを生む《複写真機 <!– コピーーーーー機 –>》
完成した《複写真機 <!– コピーーーーー機 –>》は、鑑賞する行為とその様子を見つめる行為と、その両方を見つめる視点という3種類の視線が生まれる仕掛けを施した。ぜひそこを感じてもらえたら嬉しいです。
▼詳細情報は公式ページからご覧ください。
(文・いわさわたかし/岩沢兄弟)
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