コントな文学『親子』
夜間の定時制高校に入学した頃から反抗期が始まった。
俺は親父や他の奴らみたいに陰気臭い生き方をするつまらない大人にはなりたくなかった。
そして何よりも普通が嫌だった。
普通とは違う特別な存在になりたかった。
いつか必ず何者かになれるという思春期特有の根拠の無い自信だけがあった。
*
見た目から普通な自分を変えたかった俺は筋トレとプロテインで肉体改造を始めた。
コンプレックスだった色白の肌は太陽が苦手の為、日サロに通って黒くした。
半年後、色白で華奢なカラダからタンクトップが似合う褐色の肌の爽やか細マッチョになった。
そして、生まれてはじめて親父に殴られた。
「どこの世界にタンクトップ着た色黒細マッチョのドラキュラがいるんだバカ野郎」
「考え方が古いんだよ、クソ親父」
*
高校卒業後に上京して10年間、東京で色々頑張ってみたけど、結局は何者にもなれなかった俺は地元に戻って夜勤で働ける工場に就職して結婚し息子ができた。
仕事と育児に追われる普通の日々が過ぎて気付けば息子は高校生になっていた。
「どこの世界に十字架のタトゥー入れたドラキュラがいるんだ、バカ野郎」
「考え方が古いんだよ、クソ親父」
胸に大きな十字架のタトゥーを彫るというドラキュラとしてはあまりにも非常識で革命的な息子とのやりとりに、かつての自分と父親が重なった。
新しい何かをしたい思春期の子供の気持ちが俺には分かる。
分かるけど…
今は、思春期の子供の親の気持ちも分かる。
「新しいとか古いとか関係ねぇよ。
親のスネかじってる高校生の分際でタトゥー入れるなんて許せねぇんだよ、バカ野郎」
俺は、はじめて息子を殴った。
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