漢方四方山話


前書き

この本は、私がフェイスブックにあれこれ書き込んだエッセイを纏めたものです。私自身は高齢者医療における漢方が専門で、それについては「高齢者のための漢方診療」(丸善出版)に纏めましたが、今回のものは私が暇な折々に漢方について勝手気ままに綴ったので、系統だってはいません。教科書やテキストでは無く、あくまでエッセイです。だから対象者も医師のみならず、健康や漢方に関心がある人なら誰でも読めるように書いたつもりです。高齢者のための漢方診療については既に前著があるのですが、そちらは医者向けに書きましたので、今回は一般の人でもわかるように触れました。つれづれに読んでみて下さい。

1.風邪の初期の漢方薬の使い方。
1) まず傷寒(しょうかん)か温病(うんびょう)を見分ける。傷寒は寒気がする。温病はほてる。温病の薬は医療用エキス製剤には無く、薬局でクラシエの銀翹散(ぎんぎょうさん)を飲ませる。ただしクラシエの銀翹散は非常に弱いので、一回に9包飲ませなければいけない。
2} 傷寒は寒気がする。これに2種類ある。汗が出ないのと出るのである。前者は傷寒の中の傷寒、後者は傷寒の中の中風(ちゅうぶう)である。
汗が出ず悪寒がする者には麻黄湯を、汗がじくじく出て風が当たると寒気を感じる程度(悪風)なのは桂枝湯を与える。汗は出ないが悪寒と言うほどでは無く風に当たると寒気がするという中間型には葛根湯を与える。すべて一回3包飲ませ、飲んだら布団か厚着をして横になる。実際の体温がどれほど高いかは問題では無い。悪寒して無汗なら麻黄湯。悪風して汗ばむのは桂枝湯。悪風して無汗なら葛根湯だ。つまり葛根湯は傷寒と中風の中間である。くり返すが、エキスで治す場合は、一回に3包飲ませなければならない。ただし西洋医学の風邪薬と違って、上記の薬は皆3回分で良い。2,3時間ごとに3回。これで治る。治らなければ貴方の診断が間違っているのである。
これらの薬は初期に飲まなければならないから、患者に使い方を教えてあらかじめ常備薬として家庭に置いておくのが良い。具合が悪くて病院に来てからでは間に合わない。

2.拗れた風邪の漢方

風邪の引き始めの漢方について説明したが、風邪の引き始めに医療機関を受診する患者は実際には少ない。拗れたから医者に掛かるのだ。
拗れ方に二通りある。
一つは、高熱が何日も続くもの。これは今であれば新型コロナや肺炎を鑑別しなければならない。最初から漢方の頭で診てはいけない。
新型コロナでも無い、肺炎でも無いのに高熱が続くなら、これは陽明病である。陽明病の代表的な治療法は下痢を起こさせることで、程度に応じて大承気湯、小承気湯、麻子仁丸などがある。
麻子仁丸は効果が穏やかなので通常の便秘に下剤として使っても良いが、漢方をきちんと勉強していない人が大承気湯などを処方してはならない。まあ、ツムラ大承気湯エキスは相当効力を弱めてあるので心配は要らないが、その代わり通常量では全く効かない。私はかつてムンプスワクチンの副反応で髄膜炎を来した症例に大承気湯を使って著効を得たことがあるが、ものすごい下痢を起こすので、ほとんどICUに近い管理が必要になる。またツムラ大承気湯エキス顆粒(医療用)でなんにも効かなかった人に生薬の煎じ薬で大承気湯を出したら、下痢で脱水になって点滴したこともある。こう言う薬は外来で使うものではない。
拗れ方のその二。熱が上がったり下がったりして、本人も熱っぽかったり寒気がしたりしてにっちもさっちも行かなくなるもの。これは少陽病である。このとき使うのが小柴胡湯なのだ。咽頭痛があれば小柴胡湯加桔梗石膏を用いる。
少陽病の症状は多彩であって、原典の傷寒論にも「全ての症状が揃う必要は無い」とある。ただ往来寒熱、つまり寒気がしたりほてったりをくり返すのは特徴的だ。日本漢方ではこれに胸脇部を押すと痛いという「胸脇苦満」を加えるが、必ずしも常に現れる症状では無い。胸脇苦満は急性炎症期より、慢性疾患に小柴胡湯を転用するときに一つの目安になると思う。
これらの段階を過ぎると消耗期に入るのだが、それはまた別に記す。


3.足がつるのに芍薬甘草湯
足がつるのに芍薬甘草湯が効くというのは整形外科医には広まっていて、よく処方される。だが嘆かわしいことに、1日3回一回一包30日分、などという処方をしばしば見かける。芍薬甘草湯は甘草の含量が多いので、こう言う出し方をすると低カリウム血症を起こす。一方この薬は極めて即効性が高いから、「攣ったら2包」という頓用が正しい。
中には「夜中かならず攣る」という患者がいる。こういう人には眠前に一方飲ませてみると良い。攣らなくなることが多い。
ともかく芍薬甘草湯をフルドーズで定期処方してはいけない。

4.甘草の薬効
先に甘草の悪口を色々書いたが、勿論甘草にも意味があって使われているのである。
代表的なのは、胃薬。胃腸の調子を整えないと、何を治療するにも始まらないという考えが漢方にはあって、その為に使用する。
次に甘草はその名の通り甘いので、飲みにくい漢方薬を飲みやすくするために使われる。
第三の、あまり知られていない効果として、甘草は清熱薬、つまり抗炎症剤としても使われる。桔梗湯などに大量に入っているのがその例である。だから「甘草が低カリウムを起こすなら、甘草抜きでやれば良い」とは行かないのである。


5.認知症の精神症状(BPSD)に抑肝散

BPSD というのは、認知症の患者が訳もなく怒ったり、暴言、暴力、幻覚、妄想などを引き起こすことを言う。BPSDに抑肝散というのは私たちの報告以来あまりにも有名になってしまったが、抑肝散にも甘草が1日量で2g入っているので、低カリウム血症を起こす人は起こす。甘草による低カリウム血症は近位尿細管のチャネルの個人差によるので、起こす人は起こすし起こさない人は起こさないのである。
そもそもBPSDの薬を出しっぱなしにしてはいけない。BPSDというのは1,2週間単位で寛解。増悪をくり返すので、だいたい2週間を目安にして、落ち着いたら一度止めてみる。再発したらまた出す。BPSDの本質は認知症における不安なので、ここを取り除かないと薬物だけでは根治しない。よくメジャートランキライザーを出しっぱなしにしている症例を見かけるが、あれは危険である。
われわれが抑肝散のレビー小体病(DLB)の幻視に対する効果を見た研究では、効果は顕著だったが6%程度に正常値を割る低カリウム血症を認めた。DLBの幻視の原因は不安では無いから、長期に使わざるを得ないが、そういう時は一月に一回は必ずカリウムを測る必要がある。
DLB以外の認知症のBPSDに抑肝散も含めた薬物治療を漫然と続けてはいけない。悪化したときは薬物を加え、安定したら減薬して、根本である不安の解消に努めるべきである。


5.「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン」
 これはちょっと難しい話になる。2015年、日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン」を10年ぶりに更新した。その中で、漢方を含む東アジア伝統医学については、委員の理解が乏しいこともあり、全体リストとしてでは無く、「第12章・漢方薬・東アジア伝統医薬品」として独立した章として取り上げることになった。私はその作成委員を担当した。
大規模なシステマティック・レビューとすったもんだの議論のあげく、我々は高齢者に推奨出来るだけのエビデンスの質が担保されており、かつ推奨度が中等度以上の漢方薬として以下のものを選んだ。
① 抑肝散は認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性)に伴う行動・心理症状のうち易怒、幻覚、妄想、昼夜逆転、興奮、暴言、暴力、徘徊に有効である。ただし意欲減退、鬱、引きこもり、食欲不振、悲哀などの症状には無効である。
② 半夏厚朴湯は誤嚥性肺炎の既往を持つ患者における嚥下反射、咳反射を改善させ、肺炎発症の抑制に有効である。
③ 大建中湯は脳卒中後遺症における機能性便秘に対して有効である。また腹部術後早期の腸管蠕動運動促進に有効である。
④ 麻子仁丸は高齢者の便秘に有効である。
⑤ 補中益気湯は慢性閉塞性肺疾患における自他覚症状、炎症指標及び栄養状態の改善に有効である。
一方で、以下の生薬含有製剤について有害事象について注意を喚起した。
① 甘草を含む処方は低カリウム血症とそれによる様々な病態を生じうる。
② 麻黄はエフェドリン含有生薬であり、アドレナリン様作用を有する。
③ 附子は本来、不整脈、血圧低下、呼吸困難などを引き起こす毒性を有するため、適切に修治加工されたものを用いる。
④ 黄芩を含む処方は間質性肺炎を生じることがある。一般的に稀な有害事象であるが、インターフェロンとの併用では発症頻度が増加するため併用は禁忌とされる。
⑤ 山梔子を含む処方を数年、あるいは10年以上使用し続けると、 静脈硬化性大腸炎を生じる恐れがある。
有害事象について注意喚起した処方を併せると、日本の医療保健で認められる漢方薬の約8割に達する。
このリストを、漢方シンパは「漢方が始めて西洋医学のガイドラインに独立した章として載せられた」と宣伝し、アンチ漢方は「ほらこんなに有害事象がある」と強調するが、それはどちらも間違いで、
「漢方もれっきとした薬なのだから、きちんと効果効能・有害事象を理解して使って下さい」という意味である。そしてこのリストの行間には、中国伝統医学に比べて日本漢方のエビデンスは非常に少ない。漢方もっとしっかりしろ、と言う意図が含まれている。中医学、つまり traditional Chinese MedicineでPubmed検索すると10万を超える英論文が出るのに、kampoはたった二千しかないからだ。その乏しいエビデンスの中でも、「どうにかこれなら物になるだろう」というのが上記のリストだと理解して欲しい。
漢方もっと頑張らないと行けない。

6.八味地黄丸

ツムラの7番に八味地黄丸という薬がある。適応を見ると、「疲労、倦怠感著しく、尿利減少または頻数、口渇し、手足に交互的に冷感と熱感のあるものの次の諸症」とあり、病名として「腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧」となっている。

実はこの漢方エキス製剤の適応症というのは昭和36年の法律制定以来ほとんど変わっていないので、全く当てにならない。腎炎と糖尿病と坐骨神経痛と高血圧に効く薬など、あるはずが無い。

しかし上の適応症をざっくり全体的に眺めてみると、どう見ても健常成人のそれでは無い。高齢者が年齢を重ねるに従って生じてくる種々の症状、症候と考えれば、ある程度合点がいくのでは無かろうか。つまり八味地黄丸の適応症は、「加齢によるフレイル」である。昭和36年にはそんな概念は無かったので、こういうわけの分からない記述になっているのだ。

西洋医学に老年医学が出来たのは20世紀も後半のことで、それまでは歳を取って衰えるのは仕方が無いと放置されてきた。それが今ではフレイルという概念、老年期症候群という概念が生まれ、人は加齢と共にフレイルになり、やがて老年期症候群となって亡くなっていくと考えられるようになった。

一方中国伝統医学では、紀元前に書き始められたとする「黄帝内経(こうていだいけい、フアンディネイジン)に人が歳を取るとどうなるかという議論がある。そこでは人は加齢と共に
• 顔はやつれ、歯が抜け、髪も抜ける
• 耳目が遠くなる
• 免疫低下
• 健忘、易怒、不眠多夢、昼夜逆転。甚だしければ認知症
• 味覚変化、食欲不振、少食、便秘
• 腰、膝などの痛み痺れ、四肢心熱、あるいは冷え。甚だしければ脊柱弯曲、振戦、歩行不正、姿勢保持困難
• 陰萎
などが生ずると書かれている。現代の目から見ても、非常に適切で要を得た記述である。そしてこうした状態に使う基本的な薬が、八味地黄丸であり、膝関節症があれば八味地黄丸に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)を足した牛車腎気丸を使う。

ところが、である。こう言う考えが生まれ、八味地黄丸が作られたときの人の平均寿命は50に達していなかった。日本で平均寿命が50を超えたのは、やっと高度経済成長が始まってからである。だから漱石の小説に「50の老人」という記述が出てくるし、サザエさんのお父さんの波平さんは54だ。波平さん54なんですよ。それで当時の定年は55で、その歳から年金が出たわけだ。57才の自分と比べると、いやはや、なんとも言う言葉が無い。

話が逸れた。でまあ、人生50年と仮定して冒頭にあげた八味地黄丸の適応症を見ると、だいたい50代から60代に始まる症候、症状であることが分かる。つまり八味地黄丸はフレイルの薬だと言っても、実は一番奏効するのは50代、60代なのだ。今の年寄りは元気だから、70代でも適応はあるが、80代になるとちょっと怪しい。

要するに八味地黄丸は、50の坂を越えて、「俺も歳を取ったなあ」という人に使うと良いのである。ツムラの手帳の効能効果に拘る必要は無い。あんなものエビデンス無いんだから。患者さんが「最近歳の衰えが」と言ったら八味地黄丸だ。


出し方だが、地黄が胃もたれを起こす人がいるので、最初は朝晩一包ずつ出してみる。それでなんでも無かったら、朝晩2包ずつにする。50〜60代だとまだ働いている人も多いので、飲み忘れを防ぐために昼は出さない。

と思っていたら先日外来で、「最近私も歳を取りまして」という女性がいた。今お幾つですか、と訊いたら「90です」。参りましたと言うほか無い。こう言う時代の高齢者の漢方には、新しくそれにふさわしい薬を作ってきちんと治験してやるべきだ。

7.冷え症

冷え症、と言うのがあって、これがなかなか厄介である。
何しろ、現在のICD10には「冷え症」という疾患は無い。次に出るICD11で漸く国際的にも疾病と認められるようになる。と言うことで今現在では疾病で無いのだから、その治療法も何も研究されていない。ICD11が普及すれば変わってくるかもしれないが。
ICDに載ろうが載るまいが、手足、特に下半身が冷える人は多い。漢方やその源流である中医学(私の専門は中医学だが)は「冷え症」を昔から病態と捉えていて、その治療法を編み出してきた。
一口に冷え症と言っても、その原因は様々である。オパルモン出して全然効かない冷え症多いでしょう?原因をしっかり診断していないからだ。
診断していないと言っても、これまでICD10まではそもそも「冷え症」という疾病が無かったのだから、診断のしようが無い。ICD11が普及すれば冷え症が疾病である以上、どういう冷え症なのか、と言うような研究が進むだろうが、今はまだその状態に達していない。
中国伝統医学では、冷え症は下記の原因で起こるとされている。
1. 老化によるもの
2. 女性の更年期や閉経以後のホルモン状態によるもの
3. 若くても体力が不足しているもの
4. 情緒不安定によるもの
これらによって冷え症は生じる。だからその原因によって、治療法は異なる。
とは言え、冷え症なのだから、身体を冷やすような日常生活をしてはいけない。夏、クーラーの効いた部屋にいなければならないのなら、腹巻きをして厚手の靴下をはかなければいけない。冬場は身体を温めるような食べ物を摂ること。勿論唐辛子がきいたものでもいいが、辛みが苦手な人はショウガを切って陰干ししたものを鍋などに加えると良い。ショウガは生姜と書くでしょう。あれは八百屋で売っている「生のショウガ」である。生のショウガに身体を温める作用は無い。それをスライスして陰干しすると、非常に個性が強い、「乾姜(かんきょう)」、つまり干したショウガになる。生の生姜は魚の臭み消し、腐敗防止に使われるが、乾姜は身体を芯から温めるのに使うのである。どちらもれっきとした生薬だ。
今回は薬の話にたどり着かなかった。しかし昔から中医学では「名医は未病を治す」と言い、日頃の心がけで健康を維持するのが名医なのである。拠って冷え症に悩む人はまず上記を実践すること。薬についてはまた次回。

8.冷え症の薬その1:加齢に伴う冷え症

前回はショウガで話が終わってしまったので、今回は薬の話。
さて、中国伝統医学では、冷え症は下記の原因で起こるとされていると書いた。
1. 老化によるもの
2. 女性の更年期や閉経以後のホルモン状態によるもの
3. 若くても体力が不足しているもの
4. 情緒不安定によるもの
これらによって冷え症は生じる。だからその原因によって、治療法は異なる。
1. 老化によるものは、ある程度どうしようも無い。しかし私は昔、夜に足が冷えて眠れないという80代の女性に八味地黄丸を出した。まだ経験が浅かったので、一回一包1日3回で出してしまった。そうしたらその晩、高血圧緊急症で救急搬送されてしまった。
参ったなあと思い、別の薬にしたが、当の本人、あの薬を飲むと確かに血圧は上がったが足の冷えはなくなって気持ちよかったと。それで息子が隠した棚から息子夫婦が寝静まるのを待って、あのツムラのエキスを2,3粒、ペロッと舐めたそうである。そうしたら血圧も上がらず冷えも収まって丁度良い。と言う話を次回外来でされて、息子さんが怒り出してしまって対応に苦慮したという落ちが付いている。
ウェブでは一回の話は短くしなければならないので今回はこれくらいにするがともかく加齢にともなう冷えのファーストチョイスは八味地黄丸だ。ただし高齢者には眠前一包から始めて様子を見ながら増量すること。

9.女性の冷え性その1

今回は女性特有に冷えについて。女性は若い頃から冷え症の人が多い。これについて中国伝統医学(中医学)では、女性は生理で大量の血を失うから冷えると考えている。血というのは、全身を巡り体温を保つ液体なので、それが毎月どっと失われるとどうしても冷え症になる。
血が失われるのだから、血を補えば良い。その基本薬は四物湯だ。だが中医学には気と血はセットであるという考えがあり、血を補うのなら気も補えという話になる。それは十全大補湯だ。
いやいや、単に補うだけではダメだ、補ったら巡らせなければいけないという考えもあって、そこで出てくるのが当帰芍薬散だ。これは血を補うだけで無く、巡らしもする。ただし気血を補う能力そのものは四物湯や十全大補湯より弱い。月経による冷えだけならこれだけで良い。当帰芍薬散の適応症を説明するのに、竹久夢二が書いたような女性だという人がいる。こういうのを口訣と言って、日本漢方は重宝がるが、私は好きじゃ無い。好きじゃ無いが、この表現は実に的を得ている。
更年期障害だ、更年期以後の障害の一つだとなるとまた別の薬になるが、今回はここまで。

10.女性の冷え性その2:桂枝茯苓丸
えー、桂枝茯苓丸はそもそも冷え症の薬じゃありません。終わり。
なんだけれども、現実にはよく冷え症に使われている。元はと言えば、この薬は何らかの女性器の腫瘤に用いるものだった。下腹部に腫瘤を触知し、痛み、それに関連して月経不順、月経困難をともなうときに使ったのである。当然こう言う状態では性ホルモンが乱れているから、上半身がのぼせ、下半身が冷えると言うこともある。そこからどうも冷え症の薬と言うことになってしまったようだ。
桂枝茯苓丸で女性器の腫瘤が治るとは思えない。しかし腫瘤によるものであっても無くても、月経不順や月経困難症にともなう冷えのぼせの病理は同じだろうから、現代ではそういう時に用いる。つまり、月経不順も月経困難も無いのに冷えるという人は本来適応で無い。冷え症に桂枝茯苓丸を使ってみたけど効かないなあと言う人は、そこを確かめると良い。


11.女性の冷え性その3:女神散と加味逍遙散
先ほどは本来女性器に腫瘤があって女性ホルモンが乱れて、と言う話をして桂枝茯苓丸の説明をしたが、腫瘤なんか無くてともかく更年期障害で月経不順で冷えのぼせがあるのは女神散(にょしんさん)だ。この場合、冷えは二の次で上半身がのぼせる方が酷い。更年期の冷えのぼせのファーストチョイスと思って良い。
加味逍遙散とどう違うか。加味逍遙散は、情緒不安定、精神的ストレスが加わっているときに使う。そう言う状況下で月経不順が来て上半身がのぼせて下半身が冷えるなら加味逍遙散だ。昔私が東北大の漢方内科にいた時講師だった関隆先生は、女性と言うとこれを出していた。多分歩留まりが良かったんだろう。しかし情緒不安定、精神的ストレスが病態に絡んでいなければ、適応では無い。きっと彼の外来にはそうした女性が多く集まったのだろうと思う。
追記。更年期症状に精神的ストレスは必ず絡む。だからどちらが元なのかという話である。更年期が先なら女神散だし、精神的ストレスが元にあるなら加味逍遙散だ。実際は、この区別は難しい。

12.男性で冷え上せというのは少ない。が、いないわけではない。これはもう間違いなくストレスである。中間管理職で上から売り上げを煩く言われ周囲とも孤立しどうしたこうした。そんな人だ。だからそう言う人は状況が変わらない限りあまり良くならない。ただ受け止め方で多少は変わってくるので抑肝散を出す。一回二包、朝晩2回。
しかし長いことストレスで痛めつけられていると、気力体力の根本のようなものが失せてくる(中医学用語なら腎虚になる)。従って抑肝散に八味地黄丸を足す。朝晩2回、一回一包。抑肝散でストレスを受け止められるように一息つかせ、八味地黄丸で元気を付けてやる。まあ先ほども言ったように、状況が変わらなければ根本解決には到らないが、どうにかしのげるようになることは多い。
なお男性に拘ることは無い。私は以前女性経営者の患者にこれを出して良かったことがある。女だてらにバリバリ働くのは、凄いストレスのようだ。


13.慢性疲労症候群に漢方は効くのか?
慢性疲労症候群に補中益気湯というのはよく聞くが、実際に効いた症例は乏しい。まあ私が大学時代やっていた漢方内科は、心療内科などが持て余して送ってくる症例が多かったが、そのバイアスを加味しても補中益気湯や十全大補湯が効いた例は記憶に無い。
一例だけ、柴胡桂枝乾姜湯が劇的に効いたことがあるが、私は柴胡桂枝乾姜湯の薬効薬理をきちんと理解出来ておらず、ダメ元で出したので何故効いたか説明出来ない。柴胡桂枝乾姜湯というのは精神的ストレスが絡むときに使うから、その人は本当の慢性疲労症候群では無かったかもしれない。本来の慢性疲労症候群に効く漢方薬があるかどうか、私は知らない。

14.小柴胡湯

小柴胡湯で間質性肺炎が起こるというのは国試勉強で一度は習っただろう。しかし小柴胡湯の効果については誰も知らない。副作用だけ覚えて何の薬か知らないというのは、ちょっと変では無かろうか。

小柴胡湯の作用は2つある。
1つは、傷寒(今の新型コロナみたいな感染症)が少し進行して、発熱し、熱は上がったり下がったりをくり返し、胸脇部が張って苦しい。その他にも傷寒のこのステージ、つまり少陽病には咳だの食欲減退、目がくらむなどいろいろな症状があるが、全部揃うことは少ない。熱感と悪寒がくり返す、往来寒熱というのは一番特徴的だと思う。こう言う、きわどい中間地点にあるときに短期的(一週間は超えない)に出す。これが本来の小柴胡湯の使い方。

もう一つはストレスにやられたときの代表薬。ゆううつ、いらいら、怒りっぽい、口が苦い、脇腹が痛む、寝付きが悪いなどストレス性の症状に、元気がない、食欲が無い、疲れやすいなどストレスで体力が落ちてしまっているのに使う。

かつて小柴胡湯は肝炎の薬だと勘違いされて、爆発的に処方された。ちょっとALT, ASTが高いだけで「はい小柴胡湯」と処方された。これは「肝」の「勘違い」である。元々中医学では、上に挙げたストレス性の病態を、肝鬱化火というのである。西洋医学の肝臓の話では無い。中医学の肝は情動と自律神経系を統合したような概念だ。脳の機能の一種である。そこがやられてコントロールが乱れているのが「肝郁化火」である。これも上記のような症状があるときにだけ使う。何年も出しっぱなしにするものではない。

医療の現場では、こう言うストレスを抱えるスタッフは多い。高齢者向けの薬では無いが、ああ、あのスタッフ相当ストレス溜まってるな、と思ったら1,2週間出してみれば良い。その程度なら間質性肺炎の心配はまず無い。出し方は例によって一回二包、朝晩二回。

15.補中益気湯

補中益気湯には二通りの使い方がある。

1つはともかく元気がない、疲れやすい、四肢が怠い、動作がおっくう、眠くなる、頭がぼーっとする、息切れなど、何しろ元気がなくなってしまったとき。中医学では中気下陥という。

もう一つは慢性にくり返す微熱で精神的・肉体的疲労にともなって発症するもの。中医学では気虚発熱だ。

先日誰かがフレイルに補中益気湯と言っていて、ひえーとひっくり返ってしまった。加齢に伴うフレイルに補中益気湯は使わない。それは八味地黄丸だ。

昔、更年期障害のおばちゃんが補中益気湯を出されていたことがあった。精神科の医者が出したそうである。なんの薬と説明されました?と訊いたら元気が出る薬だと。おいおいおい、である。その人は更年期障害でのぼせたり冷えたりしているのだから、補中益気湯で元気を出そうとしたってそうは行かない。既に説明したように女神散などを使うべきである。

実はこの薬、李東垣(りとうえん)という名医が作ったのだが彼がこの薬を作った理由は今とは異なる。昔、李東垣が住んでいた金がモンゴル軍に攻められて籠城戦になった。その時城内で疫病が流行したという。その疫病には、それまで知られていたどの薬も無効だった。そこで李東垣は、これは籠城で食料が乏しく、胃腸が弱って体力が無いから疫病に勝てないのだと考え、それでこれを作ったのである。つまり感染症の薬だった。体力を付けて疫病に打ち勝とうというのが本来のこの薬の由来である。

ただ、李東垣が作った補中益気湯は、感染症による炎症を抑えるために柴胡の量などが今のエキスよりずっと多い。日本のエキス顆粒では、上に説明した効果しか望めないのである。

16.四君子湯と六君子湯

六君子湯は割と頻用される漢方薬だが、本来は四君子湯という漢方薬のバリエーションである。四君子湯が人参、白朮、茯苓、炙甘草という4種の生薬から成るのに対し、六君子湯はそれに陳皮と半夏が加わる。四君子湯は胃腸が弱い人の基本薬だ。疲れやすい、元気がない、食欲不振、消化が悪い、泥状あるいは水様便、手足の無力感など、要するに胃腸が弱く消化吸収が上手く行かないので全体として体力が落ちている人に使う。

それに対して六君子湯は、そこに陳皮と半夏が加わり、胸やけ、胃もたれがする、悪心、嘔吐などをともなうときに使う。逆流性食道炎にも使われるが、今は逆流性食道炎には西洋薬で胃酸を抑えるのが主流であまり使われない。だが中には、胃酸の逆流は無いのにまるで逆流があるのとそっくりな胸やけ、胃もたれ、悪心などを呈する人がいる。こういう人は、胃酸が逆流していないのだから、幾ら胃酸を抑えても症状はなくならない。胃酸が逆流していないのにどうしてそう言う症状が起こるのかよく分かっていないが、六君子湯がよく効く。

17.四物湯、十全大補湯など

先に四君子湯の話をした。四物湯もちょっと冷え症で触れたが、あまり説明しなかった。四物湯というのは当帰、川芎、芍薬、熟地黄からなる。この四種はいずれも血を補う生薬だ。では漢方で血が足りないとはどういう病態かというと、目がかすむ、めまい、ふらつき、頭がぼーっとする、顔色が悪くつやが無い、唇が荒れる、毛髪につやが無い、爪が脆くつやが無い、等々、要するに「つやが無い」のだ。採血で言う貧血の有無にかかわらず、「見た目が貧血」のことである。


これと胃腸を補って元気を付ける四君子湯を併せると、八珍湯という薬になる。八珍湯自体のエキスは無いが、更に黄耆と桂皮を足した十全大補湯というのならある。四君子湯と四物湯の効果を併せたものだと思えば良い。黄耆は更に免疫力を付け、桂皮は気を巡らせる、つまり四君子湯で戻った元気を全身に巡らせるために入っている。しばしば癌の化学療法の回復期に使われる。

18,よく分からないけど漢方で治っちゃった人の話

80代の寝たきり男性だった。老人病院に長期入院(まあ老人ホームみたいなもの)していたが、夕方になると下っ腹がぷうーと膨れてくる。特に左側の下っ腹が膨れて苦しがる。下剤をかけても、浣腸をしても効かない。総合病院の消化器科で内視鏡をやって貰ったら、S状結腸が異常に長いという。どうにかならないのかと訊いたが、長すぎるものはどうしようも無い、まさかこの歳の寝たきりで手術も出来ないし、と言うつれない返事。仕方ないから毎日摘便だ。スタッフだってうんざりである。


どうしたら良いでしょうとスタッフに詰め寄られ、私も名案が浮かばないまま、えい、便秘なんだから麻子仁丸だ!と所謂病名漢方で麻子仁丸を出した。そうしたら、なんとこれまで何をしても出てこない便とガスが正常に出るようになったのである。本人もスタッフも大助かり。首をかしげているのは私本人。日頃「病名漢方はいかん」と偉そうにのたまっていたのに、苦し紛れに「便秘に麻子仁丸」としたら良くなってしまったという、嘘のような本当の話。


なんで治ったんだろうなあ?


19.東洋医学ってなんだ?

あるところから、「高齢者医療への東洋医学」と言うタイトルで講演を頼まれた。そこで私はこう答えた。


タイトルは、「高齢者医療における中医学の応用〜エビデンスとガイドライン」とさせて下さい。


というのは、私はかねてから「東洋医学って、なんだ?」という疑問を持っております。世界地理で言う「東洋」は「アジア」とほぼ同義語で、ウラル山脈からボスフォラス海峡を結ぶ線から東は東洋です。そこには大小様々な伝統医学が存在します。ユナニもアーユルヴェダもチベット医学、タイ医学、ジャムー、中医学、韓医学、漢方など、その他にもあるでしょう。私がお話しするのはその中のせいぜい中医学と漢方だけです。またもし中国語で「東洋医学」というなら、それは中国から見た海の東、つまり日本漢方のことになってしまいます。しかし私の話は主に中医学なので、それも不適切です。ですからタイトルは上記でお願いします。


20.大建中湯

大建中湯は、人参(八百屋さんで売っている人参じゃ無くて、薬用人参)、乾姜(冷え症のところで話した、ショウガの陰干しした奴)、山椒(あの鰻に振りかける山椒)、膠飴(要するに飴)という非常にシンプルな薬だが、外科で術後イレウス予防、あるいはイレウスになったときの治療薬として頻用される。今のところ腸の蠕動運動促進作用があると分かっているのは山椒らしいが、こう言う由緒正しい薬(出典は金匱要略だから、もう1800年も経っている)は徒や疎かに弄るべきでは無い。ちなみに大建中湯は最近術後イレウス予防効果について「二重盲検ランダム化比較臨床試験」という厳密な臨床治験で効果が検証されている。


あるとき消化器外科の先生から、「大建中湯はやはり一回2包飲まないと効きませんか」と訊かれたので、「私は一回9包飲みますよ」と答えたらぎょっとされた。私は大腸癌で腸も切っているし、元から過敏性腸症候群なので、時々腸の動きが悪くなり、ガスが張るのである。そういう時、大建中湯エキスを9包熱湯で溶かして飲むと腸が動く。これは水で飲んでもだめで、やはり熱湯に溶かしてフウフウ言いながら飲まないと行けない。


ツムラ大建中湯エキス顆粒(医療用)エキスを一回二包飲むと1日量が15gになるが、実はこのうち10gは膠飴(こうい)、つまり飴なのである。なんで飴が入っているのか、中医薬学の教科書にはもったいぶった説明があるが、私は昔こう言う病人はものが食べられなくて栄養失調になったのだろうと考えている。それで、即効的に吸収されてエネルギー源となる飴を混ぜたのだというのが私の意見だ。


と言うわけで、一回二包を1日3回飲んだとしても、飴以外の生薬としては、乾姜5g、山椒2g、人参3gから抽出した乾燥エキス1.25gしか入っていない。お腹がガスでパンパンな時に、これじゃあ効くわけが無い。そもそもこの乾姜5gのgというのがくせ者で、原典には5両と書いてあったのである。そして1800年前の1両は14gだったから、5両は70gなのだ。だから上にも書いたように二重盲検比較試験で証明された以上、予防なら今の量でも効くが、今まさにガスが溜まってパンパンで動かないという時に一回二包なんか飲んでも効くはずが無い。私が9包飲んで少しもおかしいことは無い。


21.え?新型コロナ掛かった?


さて、今回は旬の話題、新型コロナです。と言っても最後に落ちが付きますが。


一昨日、ちょっと37℃の熱が出たんですよ。でも葛根湯を3包飲んで寝たら、昨日の朝には平熱36.4℃に下がっていたんですね。やれやれ、助かったと思ったら、昨日の夕方4時頃からまた寒気がしてきて、37.4℃。しかも乾性咳嗽と咽頭痛をともなう。


やばいじゃないですか。で、今日の発熱外来を予約して、昨日からさっそく漢方治療を始めました。私が選択したのは五虎湯合小柴胡湯加桔梗石膏です。ツムラで言うと95と109。って私ツムラのMRじゃありませんけど。


五虎湯というのは、実は55番の麻杏甘石湯に桑柏皮という咳止め生薬を足しただけです。ですから基本は麻杏甘石湯です。麻黄、杏仁、甘草、石膏の4種の生薬から成るから麻杏甘石湯。傷寒論の処方です。ここで麻黄は基本咳止めとして入れられています。風邪の引き始めのところで話した麻黄湯の時は散寒発表薬と言って、身体の入り口に取り憑いた寒気を起こす「邪」、つまり病気の原因を散らす役割でしたが、麻杏甘石湯はもっと進んだ、気管支炎や肺炎などに使いますので、麻黄は咳止めです。麻黄ってエフェドラ・ハーバというのです。そこから抽出されたのがエフェドリンです。だからしっかり鎮咳作用、気管支拡張作用を持ちます。杏仁も咳止め。かつ、補助的ですが清熱と言って解熱作用もこの処方では期待されています。ここに入っている甘草は胃薬では無く、清熱作用です。つまりこれも抗炎症剤。そして石膏は強力な解熱薬です。つまり咳止めと抗炎症剤を4種類集めたわけ。


しかし私はそれに小柴胡湯加桔梗石膏を併せました。これは小柴胡湯がベースで、喉の炎症を抑える桔梗と、上に出てきた解熱薬石膏を足したものです。そんなに高熱ではありませんから、小柴胡湯だけにして石膏は麻杏甘石湯の分だけでも良いかなと思いましたが、咽頭痛があったので桔梗を入れたかったのです。こういうときエキス剤は不便です。足し算は出来るが引き算が出来ない。桔梗を入れようと思うとおまけに石膏が着いてくる。桔梗と甘草だけの桔梗湯ってのもあるんですが、我が家にはおいてなかった。ま、妥協しましょう。


って本筋は桔梗石膏の話では無く、何故小柴胡湯を併せたかです。それは私が自分の状態を「少陽病期」と弁証したからです。少陽病期というのは感染症が初期からじわじわ身体の奥に進みかけて、奥に入ろうとするその一歩手前の状態です。特徴は往来寒熱と言って、寒気がしたり熱感がしたりをくり返すというものです。それに日本漢方の先生は胸脇苦満、つまり脇腹を押すと痛いというのを特徴として上げますが、中医学では重視しません。他にも少陽病期の症状は様々あるのですが、傷寒論の著者張仲景(チャンチョンジン)も「常に全ての症状が揃うわけでは無い」と書いていますので、往来寒熱だけ覚えたらいいです。勿論今は体温計というものがありますので、実際熱を測って熱が上がったり下がったりをくり返すと理解しても構いません。


少陽病期の薬は小柴胡湯一本です。そしてここで食い止めないと、感染症は深部臓器を冒し始めます。つまり気道感染だったら肺炎になるわけです。だからもう全部めんどくさい人は、「気管支炎は少陽病期、そこで治さないと肺炎になるぞ」と覚えてしまっても・・・良いのかな。ちょっとそこまで言うと乱暴な気がするけど。


ともかく少陽病期で食い止めなければ行けません。だから私は麻杏甘石湯に小柴胡湯を併せたのです。勿論例のごとく「両方3包ずつ」です。傷寒論の時代の一両が14gで、と言う話は先日大建中湯でしましたね。だから多くなくてはいけません。


昨日三回立て続けにそれを飲んで、今朝起きたら熱は36.4℃、平熱に下がっていました。しかしオミクロンは安心出来ません。まだ咽頭痛はあるし、乾性咳嗽はむしろ昨日より強くなっています。勿論発熱外来に行きました。PCRの結果は2時間後と言われ、帰りがけにそこのドクターから「咳強いようですから抗生剤出しましょうか?」と言われ、私はにっこり笑って「いえ、小柴胡湯と麻杏甘石湯を下さい」と言いました。幾ら咳が強くても、乾性咳嗽で、しかも新型コロナというウィルス性感染症を強く疑うのに抗生剤を出してはダメですよね。それにそう言う先生は大抵多剤耐性になりやすいクラビットとか、腸管から全然吸収されないフロモックスを出すのがお好きです。実は私ちゃんと家の薬箱にサワシリンとオーグメンチン、ケフレックスを用意してありますので、もし細菌感染が疑われたらそっちを使えば良いのです。ま、これはイワケン先生の領分ですね。


で、最後の落ちです。PCRは陰性でした。まあ一回だけで諸手を揚げて良かった良かったとは言えませんが、一安心であります。


今度のオミクロン株は、診ておられる先生も多いと思いますが、ちょっと軽い寒気と微熱だけの桂枝湯で済むものから、激しい咽頭炎で小柴胡湯加桔梗石膏に麦門冬湯を併せた方が良いものから、症状は種々様々なようです。一人一人病状に合わせて漢方薬を決めるという、漢方本来の治療が求められています。何でもかんでも五虎湯合小柴胡湯加桔梗石膏ではありません。でも咽頭炎と気管支炎を合併する人がいたら、試してみて下さい。


さて最後に講演会のお知らせです。僭越ながらこの私が、「高齢者医療における中医学の応用:エビデンスとガイドライン」と題してウェブ講演をいたします。エビデンスとガイドラインですから、四方山話ではありません。がっつりEBMで行きます。鍼灸師会の講演会なのですが、100名の枠に限り、他の職種も参加出来るそうです。ご興味のある方は下記サイトでお申し込み下さい。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf-rQeuIjvGDPE-3dkk-qb2zLxbhmEhkHJpmBCRDaoZnb8Hhw/viewform?fbclid=IwAR2S5ovoEEsSAobu13Io55WZns_8HS_-92cMxGKOFIKbL3ORtuMdvr_1LZA


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