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連綿と続く伊勢海老漁

僕が1年1ヶ月滞在していた和歌山県の三尾集落。そこは海辺の寒村、高齢化が進み、今や年金をもらってる漁師たちが年中、季節に合わせて魚を獲っています。

そんな三尾の漁業の花形と言えるのが伊勢海老漁です。冬場にかけて盛んになる三尾の伊勢海老漁は他の漁業や、別の地区の伊勢海老漁とも違った特徴があります。その特徴をあげながら、和歌山の漁業を紹介します。

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特徴①古くから続く管理漁業

この三尾の浦は万葉集に唄われている(すなわち奈良時代には集落があった)歴史ある集落である。伊勢海老漁も古くから伝わっており、工野儀兵衛翁が三尾から初めてカナダに渡った明治年間には代表的な漁獲物になっていたようです。

そんな伊勢海老漁ですが、古くから漁業資源を大切にする管理漁業を行っていたことで有名です。

毎年、入江の中の伊勢海老を網で捕まえるときに「バンク」という禁漁地区を設ける。そこで伊勢海老を育たせて次の年も漁獲高が減らないようにしていたのです。「バンク」は銀行のバンクなのではないかと言われています(この村はカナダに移民で出稼ぎにいったことはあります。その歴史については前のnoteをお読みください。)

大きさも、昔から片手で収まってしまうような伊勢海老は再度放流するようにしており、最近の漁業資源管理を先取りしていたような形になります。

今は、高齢化が進んでいますが、沖と丘(網をまく場所が沖合なのか近場なのか)のグループに分かれて、グループで漁を行います。ほとんどが三尾の漁師さんで、漁師さんの親戚で隣町から手伝いに来るような人もいます。伊勢海老漁は一家で手伝うもので、旦那さんが漁船に乗って網を回収しにいって、奥さんや親戚が港の周りで網から伊勢海老を外すべく待ち構えているのです。

特徴②悪化する海中環境に何とか耐える。

ここ数年、日本の漁業は「オワコン」となりつつあります。釣れてた魚が釣れなくなる。生えてた海藻がなくなる。磯物もほとんどなくなる。殆どの側面で漁業が漁業として成り立たなくなっています。
原因も多岐に渡り、海水温上昇、河川の護岸により下流に肥沃な土砂が流れなくなったこと、海岸線に火力発電所が建設されて土砂の流れが変わったことなどなど…枚挙にいとまがありません。

かつての三尾は夏はアワビ、冬は伊勢海老、間で船を出してタチウオやサワラを釣るというスタイルでした。しかし、今ではアワビは市場に流通するレベルでは取れないほどまで漁獲高が減ってしまいました。魚も釣れなくなり、コロナ中で値崩れを起こした時はとてもじゃないが出漁しても油代も回収できないような状況でした。

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しかし、伊勢海老はなぜか何とか耐えています。漁獲高が増えてはいませんが、微減で推移しているそうです。

伊勢海老は、小さな穴を見つけるとそこに隠れる形で生息します。海藻を食べて、おとなしく眠っています。今の三尾の入江には沢山の防波ブロック(テトラポッド)が眠っています。その隙間は伊勢海老にとって「格好の住処」なのでしょう。
そして、地元の漁師さんが資源管理を意識した漁業を行なっていたこともいい影響を与えたのかもしれません。


特徴③昔から続くもの。

伊勢海老漁は、細かい部分では変わっていったものの、今でも昔から変わってないことは沢山あります。網の結び方と干し方は港が護岸される前から変わってませんし、伊勢海老を網から外すときの引っ掛ける鍵爪のような道具も昔と寸分も変わりません。
掟なども昔から決まっていました。雨の日は休む、満月の日は伊勢海老が岩陰から隠れるから、無理をしない。

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そういった当たり前とされたルールが、科学的に合理的かどうかもないにも関わらず、最適な形に変化しています。

そこには、「慣れてないとできないこと」がふんだんに隠れています。マニュアルなどで言葉にできない「なんとなく」のニュアンスが伊勢海老漁を支えています。

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伊勢海老漁は朝4時ごろ、真っ暗な時から始まります。伊勢海老漁が終わるのは7時半ごろ、うっすらと空が明るくなってきます。空を見上げると海老網に引っかかった魚を狙ってトンビやタカが30匹ぐらい飛び回っていた。



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