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【前編】ひじきが黒くてパサパサしてることに疑問を持たない僕ら。

ひじきってパサパサで、給食に入っている海藻っぽいやつ。でもそれって当たり前に存在しているけど、ひじき自体のことやひじきが食卓に並ぶまでの話は多くの人が知らなかったりして。

追記:「後編」アップロードしました。両編お読みいただけるとひじきマスターになれます(料理ができるとは限らない)

当たり前のことを見過ごしていた自分

僕が居候していた和歌山県美浜町三尾での日々の備忘録を書こう書こうと思っていながら、あっという間に1年が過ぎようとしている。居候生活を始めた日から2年以上が経ってしまった。これ以上忘れないうちに、書き記しておかなくてはいけない。

皆さんはひじきを食べたことがあるだろうか。僕も小学生の頃から給食にひじきがよく出てきたし、ガキの頃でいえば、ひじき=毛のイメージで下ネタかのように連呼してバカ笑いしていた苦い記憶が思い出される。

しかし、生まれてからの20年僕はあの黒い棒状の食べ物が「どうやら海藻らしい」と聞いていたものの、どこに生えている海藻をどうやって作るかを知らなかったし、考えたこともなかった。

三尾での1年間で、僕は「当たり前のことを見過ごしていた自分」にたくさん気づき、恥ずかしかったり、驚いたりしました。三尾の特産品であるひじきの話をしながら、ひじきがどうやってできるのかという「当たる前にあるもの」の姿を見つめます。

ひじきの口開きという聴き慣れない言葉

三尾に住み始めたのは2019年の8月中旬だった。滞在し始めた頃から「三尾のひじきはとても美味しいらしい」という噂だけ聞いていたが、なかなか食べる機会にも恵まれなかった。しかし、年があけて4月になるとある地区放送が聞こえるようになった。

「今年のひじき漁は4月の6日11時に解禁いたします。」

居候していた隣の公民館から80代後半にもなる漁業組合長の少しダミ声のようで力強くピシャリとした声が村中に響き渡る。春の風物詩であるひじきの口開き(解禁日のこと)だ。

三尾の漁業組合は結束力が強いらしい。主な解散品がアワビや伊勢海老という高級食材で密漁が横行してしまいかねないからだ(夜は交代で見回りをすることもある)。いろんな漁の解禁日も明確に組合で決めている。組合員になってないものは漁をする権利はない。組合員の中で平等に取り始める取り決めや口開き日の決定が三尾の漁会(漁業組合)の大きな務めであり、持続的に海の環境を守るための工夫であったのだろうか(密漁は重罪です、絶対にやめてください)。

そしてその4月6日、10時半ごろにひじき漁が行われると言われていた海岸に行ってみると、いつもの砂利浜にブルーシートが点々とし、路肩に軽トラや単車(原付バイク)が横付けされ、ウェットスーツを羽織った人たちが海岸線に点在していました

組合員がそれぞれめぼしい場所を見つけて、時間になるまで陣取っているのです。

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待機している人に話を聞いて意外だったのが、ひじきを集めていたのが漁師さんだけではなかったということです。普段はサラリーマンをしている若いお父さんとその娘さん、地元でよくすれ違うおばあちゃんと旦那さん、そして10年前に大阪から移住してきたおじさん。ひじき漁が認められるのは組合員でも準組合員をも含めます。3年ほど三尾に住んでいれば組合員になれるし、船を所有したり、年の3割以上は海の上にいなくてはいけないと言った制限はないのです。地元食材=地元の農家さんや漁師さんが採るというイメージがあるかも知れませんが、実態はもっと複雑です。

漁師さんと聞くと、海と常に向かい合っている人を想像するかも知れません。漁獲高が減り、海水温が上がったことで漁師として生きていくことが難しい三尾では、船を持っていても船を出さない漁師さんが一定数いるほどです。この時期にひじきをすることが自分の家計への足しになる人は普段から漁をしに海に出ている漁師かどうか関わらずひじき漁は続いています。

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11時になると、普段はしないはずの学校のチャイムが鳴り響きます。三尾にあった小学校は10年以上前に廃校になりました。このチャイムはすなわち授業の終わりではなく、大事な出来事ーひじきの口開きーを知らせるチャイムなのです。チャイムが鳴り始めると波打ち際で待機していた「ひじき漁師」たちが海の中に入り鎌をふるい始めました。

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鎌でひじきを断ち切っては浮き輪付きの網に入れていきます。ある程度溜まったら用意してある袋に移し替えてまたひじきを集めます。そして集まったひじきは少し丘のほうに広げているブルーシートまで運びます。ほとんどは明らかにご高齢なおじちゃんおばちゃんたちである。春先で苔が生え、岩も急なので、こけて頭打たないほうがおかしいぐらいの難しい場所でひじきを集めることができるのか。そこに想像力をはせることが後から大学生活を大きく変えるかも知れない。

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ひじきの作業は2人1組でやることが多いです。それはひじきを採集する人と、集めたひじきをブルーシートまで運ぶという2つの仕事があるからなのです。こうして11時に始まったひじき漁初日は、日が傾き始める前には終わりを告げます。最後にブルーシートまで運んだひじきの袋たちをブルーシートに広げて、ひじきを天日干しさせます。

こうして漁で「水揚げ」されたひじきは緑色をしています。僕らが知っているひじきの色ではありません。

乾燥が命なひじき

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ひじき漁で大切のなことはこの感想だと「漁師」の人たちは語りました。このタイミングで雨が降ってしまうと、ふやけてダメになってしまうのです。

2・3日干しておくと段々藻が乾燥し、色が枯れ葉のような茶色に変わります。

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取れたひじきはある程度浜辺で乾燥させてからは、晴れの日に天日干しをして、雨の日には袋に入れて保管するという形で湿気を避けながら乾かします。

乾かしているひじきを見ると、どんどん黒く色が変わっていっていることがわかると思います。乾かす過程で塩?が拭き白い粉のようなものが表面に出ているのをよく見かけました。乾かす時にかき混ぜると塩が出にくいとか、塩が出ることと味は関係ないとか、意見が人それぞれで、いまだに正解はわかりません。とにかく、個々が乾燥させたひじきを組合に卸すことで春の風物詩は終わりを告げます。

以上の作業を4月の上旬にしてしまうことがひじき漁の大まかな流れです。食卓に並ぶひじきがかなりの苦労をかけて手作業で取られるようなものなのです。

では、三尾のひじきを食べられるのは4月末なのか?
答えは否!!

三尾のひじきはその後梅雨を超えた後にさらにもう一手間あるのです。


後半へ続く↓


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