博物館へ実習に行こう

前回は大学の新入生や高校生を主な対象に据えて、学芸員資格を取る方法や授業の取り方を書いた。興味があれば参照されたい。

さて、今回は、大学で学芸員を取ろうと考えている新入生、すでに授業を受け始めている1~3年生に向けて、博物館実習とは何か、実習を受けるためにどうすればいいのかまとめることにした。内容物は次の通り。

  • Ⅰ.博物館実習とは、博物館「で」学ぶこと
    Ⅰ-1.博物館実習の目的
    Ⅰ-2.博物館実習はどこで受けられるのか

  • Ⅱ.博物館実習に行くために
    Ⅱ-1.まずは前提条件、実習はそれからだ
    Ⅱ-2.募集と応募の注意点
    Ⅱ-3.博物館実習、ここで受けるか、そこで受けるか

  • Ⅲ.まとめ

Ⅰ.博物館実習とは、博物館「で」学ぶこと

博物館実習では何をするのか。文部科学省は2009年(平成21年)にガイドラインを掲出している。
ちょっと古くないか?と思ったが、毎年文化庁から呼びかけられる博物館実習の実施に係る通知を見てみると、最近(2022年)のでも参考にするようにと記載されている。どうやら現役で参照されるガイドラインのようだ。
そのガイドラインによると、

博物館実習は、博物館法施行規則第1条に基づき、大学において修得すべき博物館に関する科目の一つとされており、登録博物館又は博物館相当施設(大学においてこれに 準ずると認めた施設を含む。)における実習により修得するものとされている。
大学における学芸員養成教育においては、博物館概論、博物館経営論、博物館資料論、 博物館資料保存論、博物館展示論、博物館情報・メディア論、博物館教育論等の講義を通じて、広範にわたる専門的な事項について理論的・体系的に学ぶこととされているが、 博物館の専門的職員たる学芸員としてのスタートが切れるだけの基本的な素養を身につけるためには、それらの知識・技術や理論を生かして現場で博物館資料を取り扱ったり、利用者に対応するなどの実践的な経験や訓練を積むことが必要である。

博物館実習ガイドライン(文部科学省;2023年3月26日閲覧)

要するに、博物館実習とは次のようなことだと言っている。

  1. 博物館実習とは、大学の講義で学んだ知識・技術・理論を現場で生かすことで、実践的な経験や訓練を積むために行う

  2. 主に登録博物館か博物館相当施設で行う

Ⅰ-1.博物館実習の目的

1点目に関して、私が4年前、大学時代に受けた博物館展示論の講義を思い出した。その講義は、ある博物館の館長さん(当時)が講師を担当していて、次のようなことを言っていていたのを覚えている。

博物館実習に来た学生に、実習への抱負を聞くと、「資料の取り扱い方を学びに来た」と言う。私にしてみれば、資料の取り扱いなんてことは大学で学んで来てほしい。大学で学んできたことを、博物館の現場で実際にやる。それが実習だ。

少し曖昧な記憶だが、大意として上のようなおっしゃっていた。
文科省の示すガイドラインの内容にも矛盾しないので、博物館実習に求められるのはやはり「大学の講義で学んできたことの実践」なのだろう。

Ⅰ-2.博物館実習はどこで受けられるのか

それから2点目、「主に登録博物館か博物館相当施設で行う」について。博物館は数多く存在しているが、その博物館が博物館法的にどのような立場にあるかによって次のように分類されることがある。

  • A 登録博物館

  • B 博物館相当施設

  • C 博物館類似施設

細かい要件はこの際置いておこう。大事なのは、博物館法において法的な位置付けがあるのはA登録博物館とB博物館相当施設の2つだけということ。C博物館類似施設はというと、法的には位置づけがなく、単に博物館に類似している施設ということになる。

ゆえに文科省の呼びかけがかかり、学芸員養成のための博物館実習を行っているのは、「主に登録博物館か博物館相当施設」ということになる。で、それはどこなのかというと、登録博物館一覧 | 文化庁 博物館総合サイトを参照されたい。登録博物館、相当施設が都道府県ごとに列挙されている。

だが、登録博物館・博物館相当施設が全て博物館実習を受け入れているわけではない。その辺は次の章で紹介していく。

博物館実習と一口に言っても、その中身はどこで実習をおこなうかで次の2つに分けられている。

  • 学内実習
    学校の中で行う実習。ガイドラインでは、「学内実習は、2単位相当以上とし、延べ60時間から90時間程度以上実施する。」とされている。
    博物館実習に向けて行われる事前・事後の指導や、博物館に関する講義を行ったり、大学所蔵の標本(資料)管理の作業を行ったり、と学校によってその内容は異なる。

  • 館園実習
    学校を出て、博物館で行う実習。ガイドラインでは「1単位相当以上とし、延べ30時間から45時間程度以上実施する。」「5日間以上とする。」とされている。
    「博物館実習」のメインディッシュであり、ふつう博物館実習と言えばこの館園実習を指す場合が多い。
    その内容は、実習先の博物館によって多種多様になっている。例えば標本(資料)の管理作業、来館者対応、ワークショップの実践、展示の解説、イベントの企画など。いずれも先に述べた博物館実習の目的を果たせるように実施されている。

科目としての博物館実習では、この「学内実習」と「館園実習」を組み合わせて既定の時間学び、報告書やレポートを提出することで単位を取得できる。

次の章では、館園実習に臨むために必要な段取りについて説明する。

Ⅱ.博物館実習に行くために

Ⅱ-1.まずは前提条件、実習はそれからだ。

博物館実習に臨むにあたって、まず第一には、次の条件を満たす必要があった。

  1. 博物館に関する科目のうち博物館実習以外をすべて履修し終えている

  2. 博物館実習希望者向けに行われるガイダンスに出席する

(あくまで、これは私が学芸員資格を取得した当時の筑波大学の場合である。読者の皆さんの大学では別の条件があったり、条件が緩かったりするかもしれない。注意されたい。)

前回の記事でも書いたように、博物館実習を受けるためには、ほかの博物館に関する科目を履修し終えてる必要がある。
これは、この記事の冒頭に引用した博物館実習ガイドラインの考え方によるところが大きいのだろう。博物館という現場で蓄えてきた知識や理論を実践するには、その前に座学で知識や理論を蓄える必要がある。ゆえに、博物館実習は、そのほかの博物館〇〇学のような座学科目を履修し終えてないと、履修できないことになっている。
RPGのラスボスをイメージしてほしい。道中のダンジョン(座学の講義)を制覇して、そこで得た装備品やアイテムを持って(知識や理論を学んで)、ラスボス(博物館実習)に挑戦するような感じ。
(最近のオープンワールドゲームだとスタートしてすぐ、一直線にラスボスに向かうことも出来るが…)

それから、意外な落とし穴になっているのが次の条件「博物館実習希望者向けガイダンスに出席する」である。
ガイダンスでは、担当の先生から、博物館実習の目的とか、参加のための手順、単位を認めるための課題の出し方、実習生としての心構えみたいなことを説かれる。
この条件が落とし穴たる理由は、初回ガイダンスが開かれるのが年度始まりよりも前であることである。筑波大の場合、1月末に開かれていたようである。これは、一部の博物館が2~3月ごろからすでに、来年度の実習生を募集するからである。
「授業科目として履修するのは4年次になってからだから、よくわからないけど、大丈夫でしょ~」と思っていると、「ガイダンスが終わってた…。実習受けに行けない!せっかく授業受けてきたのに!」ということになりかねない。学生向け掲示板の情報は常に注意するようにしよう。
(筑波大の場合、TWINSの資格取得者向けの掲示板に情報が更新されたと記憶している。)
同じ学部に学芸員資格を取得しようとする人が何人もいれば、なんとなく情報が回ってくるだろう。私のいた理工・物理のように、周囲の誰も学芸員に興味を持っていない状況だと、自分でアンテナを張っておくほかない。

さて、その第一の罠であるガイダンスを含めた3年次冬~と4年次春~のスケジュールを下図に示した。
ここでびっくりすることは、初回のガイダンスは、3年次の成績が全部出てくる前に行われるということ。意気揚々とガイダンスに出たはいいけど、実は3年次に取ってた座学科目の単位を落としてしまってた!これでは実習に行けない…。なんてことにはならないようにしたい。


3年次冬~と4年次春~のスケジュール。ガイダンス、募集へ応募、実習受講と忙しい。

Ⅱ-2.募集と応募の注意点

募集の情報は基本、博物館や博物館設置or運営者(自治体、財団、企業…)のホームページに書いてある。
googleで検索するもよし、博物館のホームページでサイト内検索が使えるならそこで検索するもよし、大学の学生向け掲示板に掲示される情報を見るもよし。
ホームページで、募集期間、実習期間、必要な書類、応募方法を確認して、それに応じて行動しましょう。なにかわからないことがあったら、気軽に実習担当の先生に相談した方が良いです。
ここが博物館実習で一番ハードといっても過言ではないです。博物館にメール送ったり、実習担当の先生にメール送ったり、大学の事務窓口に書類を受け取りに行ったり、指導教員に小言を言われながら推薦書をお願いしたり、本当に面倒くさい、全部電子化しろ。

募集にあたっては次のことに注意してほしい。

  • 募集の期間
    上のスケジュール図にもある通り、多くの館では春頃に実習生を募集し、夏休み頃に実習本番を行う。一部の館では、夏から秋に募集をかけて冬に実習を行う場合もある。春の募集で残念ながら参加できなかった場合も諦めずに、間に合う受け入れ先を探してみよう。

  • 受け入れ人数
    10数人実習する館もあれば、3~4人しか受け入れない館もある。

  • 応募の方法
    必要な書類をそろえて「大学が取りまとめて博物館へ送る」か、「学生自身で博物館に送る」かの違いがある。メール一本じゃダメなの?

  • 必要な書類
    必要な書類は、「博物館実習申込書」「博物館実習受け入れ依頼書」「履歴書」あたりが多いだろうか。中には「指導教員からの推薦書」を求めてくる館もある。また、応募者が多数であった場合に参考するため、その館を選んだ理由とか、実習に向けての抱負とかを書く館もある。

このように、募集・応募の内容は博物館によって非常に多様である。じゃあどうやって実習館を選べばいいのだろうか。

Ⅱ-3.博物館実習、ここで受けるか、そこで受けるか

博物館実習を受け入れている館自体は結構ある。館数が多い歴史、考古系は選ぶ立場にあるかもしれない。一方で、自然史・理工・科学系の博物館は少なく、地域に1~2館あればいい方だろう。つくばは研究都市という都合で、理工系博物館はいくつかあり、国立科学博物館、地質標本館、エキスポセンターあたりで実習を受けることができる。実習館を選ぶうえで、考慮したいことは次のようなことである。

  • 分野、専門性
    自分が大学で専攻していた分野や、自分が学芸員になるなら専門にしたい分野を専門にしている博物館を選ぶのが良いだろう。もちろん逆に自分が触れてこなかった分野に触れる機会として、理工系の学生が人文系、芸術系の博物館を選ぶことも、制度上はできる。大学の先生、博物館側の人が認めてくれるかは別だが。

  • 交通の利便性、アクセス
    実習期間は毎日、毎朝通うことになる。宿泊費や交通費は、基本出ないだろう。車やバイクで通うのであれば、事前に問い合わせて確認を取った方がいいだろう。徒歩、自転車、公共交通機関で通えるところを探すのが無難ではある。

  • 実習内容
    先にも述べたように、実習の内容は博物館によってかなり違っている。自分が受講して有意義な実習にできるかどうか、ホームページ記載されている実習内容や、以前の館報に報告されている実習内容を見て、考えてみよう。

  • 受け入れ人数、期間
    これが、実際的には非常に大きな要素であるので、別に段落を立てて述べていく。

申し込みの際、注意したいことに、募集期間がある時期に集中している一方で、応募してから受け入れ許可が出るまで、時間がかかるということがある。
例えば、「A館に応募したが、受け入れ許可は7月に出るらしい。ほかにもB館に興味があるが応募期間が6月末までになっていて、A館の結果を待っていると間に合わない!」ということが起きる。
実習の科目認定に最低限必要な条件で言えば、2館以上で実習を行う必要はない。4年次であれば、就活や卒業研究に時間を使いたい場合もあるだろう。そうなると「どっちも申し込んで、A館とB館の両方で実習受ければいいか!」とはいかないのが現実である。
「B館にも申し込んでおいて、A館が受かっていれば辞退の連絡を入れてA館で実習。A館が落ちていればB館で実習。」というのも選択肢ではあるが、申し込みもタダではないので手間がかかる。また博物館側から見ても、自ら申し込んでおいて辞退されると、ほかの希望者を繰り上げて受け入れ許可する必要があったりと、あまり印象は良くないだろう。余計な仕事を増やさせてしまうことにもなる。
(もちろん、辞退の連絡を入れずにバックレる、ブッチするなんていうのは言語道断である。大学の信用に傷がつき、後輩たちに迷惑をかけることになる。)
と、まあ多くの場合はA館の受け入れ不許可が判明してから、その時点で応募が間に合うほかのC館に再度申し込む流れになるだろう。この辺の二度手間を避けたいのであれば、受け入れ人数が多い館を優先して実習先候補にするのも良い。
実際、「希望者多数のため受け入れ不許可」というケースがどの程度起きているのかは定かではない。自然史系で言えば、国立科学博物館は人気らしく、私も応募したが受け入れてもらえなかった。都市部の有名博物館は注意した方が良いかもしれない。しかし、そのような博物館では、ほかの地域博物館とはひと味違う実習ができるだろうことも容易に想像できるので、ジレンマである。

Ⅲ.まとめ

制度上、主として実習生に求められることは、Ⅰ-1.博物館実習の目的で博物館実習ガイドラインを参照しながら述べたように、「大学の講義で学んできたことの実践」である。どの博物館でも実習担当者は博物館実習ガイドラインを参照し、毎年創意工夫をこらして実習生にとって有意義な学びとなるよう努めてくださっている(はず)。ゆえに、博物館実習では非常に多くのことを見て、感じ、学ぶことができる。
私自身が博物館実習を通して学んだことに関しては、別途記事を書きたいと思う。今回は、大学で学芸員を取ろうと考えている新入生、すでに授業を受け始めている1~3年生に向けて、博物館実習とは何か、実習を受けるためにどうすればいいのかまとめた。参考になっていれば幸いである。

質問やコメントがあれば、ぜひ気軽に残していってほしい。


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