理学部で学芸員資格をとりたい人へ
本記事は、大学に入学するにあたって、「学芸員資格に興味がある!けど同じ学科に学芸員を取ってる同期や先輩がいなくて何をどうしたらいいのかわからない!」という人向けに、大学での学芸員資格の取り方について、筆者の経験をもとにまとめる。
タイトルを「理学部で~」としているように、特に理学部、理工学部の学生に向けた内容になると思う。なぜならば、理学部、理工学部では、大学の制度的には学芸員資格が取得可能であるにもかかわらず、学芸員資格を取ろうという学生が非常に少ない。ゆえに、先輩等を頼りにできない場合が多いからだ。
例えば、美術、考古、民俗、歴史等を専攻している場合、おそらく先輩にも学芸員資格を取得している方が多少なり居るはず。一方で、理学部、理工学部の特に物理学、数学、化学、工学はあまり居ないだろう。そこで大学時代、物理学を専攻しながら学芸員資格を取った筆者の経験をもとに、いろいろまとめておこうと考えた。
学芸員をとって博物館や科学館で働きたいという大学生、高校生の参考になれば幸いである。
本記事では、筆者の経験をもとに、次のことを書いていく。
筆者は何者?
学芸員って何するの?
学芸員資格ってどうやって取るの?
大学の授業は?
資格を取ったその先は?
筆者は何者?
筆者は筑波大学の理工学群 物理学類を2022年に卒業した者である。(学群・学類というのはいわゆる学部・学科と思ってほしい。)
その際、学芸員資格を取得した。おそらく、物理学類において、同期では私しか学芸員資格を取っておらず、一つ上の代の先輩では誰も取っていなかった(と認識している)。
また、筑波大学を卒業後、北海道大学の大学院(理学院 科学コミュニケーション講座 博物館教育学研究室)に進学し、博物館における教育活動について研究していた。(2024年3月修了)
大学院在学中に縁あって某科学館に採用され、プラネタリウムの解説員として働きはじめる。働きながら修士論文をまとめ、修士課程をなんとか修了した。その後も同館で仕事を続けている。
高校生くらいの時にプラネタリウムの人になりたいと考えはじめたのが、学芸員資格に関わり始めるきっかけだった。高校時代、プラネタリウム関係の求人を検索すると、「大学で天文学・宇宙物理学等を専攻していること」とか「学芸員資格を取得していること」が必須条件や優遇条件になっているのを見て、学芸員資格を取得できて、宇宙物理が学べる大学に進学しようと考えた。そういう経緯があって、大学では学芸員資格を取得しながら、宇宙物理学を専攻した。大学の卒業にあたって、大学院では物理よりも博物館に関する研究がしたいと考え、北大の大学院に進学した。
端的に言えば、「プラネタリウムの人にあこがれて、物理学類(学科)で学芸員資格を取り、その後科学館で働きはじめた人」だ。
学芸員って何するの?
この記事を読んでいる方の中には、もしかするとそもそも学芸員がどういうものか、ちゃんと認識できていない人もいるかもしれない。学芸員とは何か、簡単にではあるが、解説することにする。
文化庁の言葉を引用した。なお、ここでいう「博物館」には、皆さんの身近にある「〇〇博物館」だけでなく、「〇〇美術館」「〇〇動物園」「〇〇水族館」「〇〇植物園」「〇〇文学館」そして「〇〇科学館」なども含まれる。詳しくは 登録博物館一覧 | 文化庁 博物館総合サイトを参照されたい。
ゆえに、ほとんどの学芸員は、学芸員として博物館について知っているとともに、何かしら専門性を持っていることになる。例えば、「岩石鉱物の学芸員です」「学芸員として古生物学を担当しています」「学芸員(天文)を募集しています」とか。自然史博物館や科学博物館、科学館のような施設では、理学や工学を専門とする学芸員も多く活躍している。これから先には、データサイエンスやら情報学を専門とした学芸員も現れるかもしれない。知らんけど。
詳しくは、大学の博物館学の講義で学ぶことができるが、平たく言えば「博物館、美術館、動物園、水族館、科学館等において資料の収集・保管・調査研究・展示・教育普及などをする職員のこと」である。もーーっと平たく、語弊を恐れずに言えば「博物館で働く人のこと」である。
学芸員資格を持っているということは、「博物館とはどういう施設で、どういう使命を担っているのか、学芸員としてどういう理念を持って何をすればいいのか、そういうことを学んで、理解しています。」と客観的に証明することができる。ということになる。
それゆえ、博物館以外でもそのような教育施設・教育機関で働こうとするとき、役に立つことがあるだろう。
学芸員資格ってどうやって取るの?
学芸員資格を取る方法は学芸員そのものと同様に博物館法において規定されている。このあたりは最近改正されたのでよく確認してほしい。
2023年4月1日施行の条文を以下に引用する。
複雑に見えるがまとめると、大きく分けて3つの方法があるということになる。
「学士の学位」+「所定の単位」で資格取得!
①大学において、文科省の定める「博物館に関する科目」の単位を取得したうえで卒業して学士の学位を得る。(主に学生向け)
②あるいは、大学を卒業したうえで、あとから文科省の定める「博物館に関する科目」の単位を取得する。(主に社会人向け)「短大卒」+「所定の単位」+「学芸員補としての職3年以上」で資格取得!
「短大卒」+「所定の単位」で「学芸員補」の資格を取得できる。そのうえで学芸員補として教育施設等で学芸員補や司書、社会教育主事等の職を3年以上経験することで学芸員の資格を取得できる。「学芸員資格認定」で資格取得!
条文のあちこちにある「~に掲げる者と同等以上の学力及び経験を有する者と認めた者」に該当する取得ルートである。1年に1回(2年に1回に変更される?)行われている学芸員資格認定を受験し、学芸員資格(あるいは学芸員補資格)を取得する方法。博物館に関する学識や業績を申請して一発で学芸員資格を取る「審査認定」と、筆記試験+実務1年で学芸員資格を取る試験認定の2通りがある。詳しくは文化庁のホームページを参照されたい。
私は過去に1人だけ、これ(審査認定)で取ったという人を見たことがある。その人は「学芸員資格を持っていないけれど、仕事として既に博物館に関わり続けていたので、いまさらだけど...という感じで申請して取得した」というようなことを言っていた。
1.の①が一番メジャーだろう。所定の科目を履修しつつ大学を卒業する方法である。私もこの方法で学芸員資格を取得した。社会人の方でも、通信制大学等を利用することで、1.の①あるいは②によって学芸員資格を取ることができる。
この記事では、大学の新入生を主な対象として1.の①にある方法で学芸員資格を取った方法を解説する。
大学の授業は?
本題に入る前に確認してほしい。大学に入ればどの大学、どの学部でも学芸員資格を取得できるわけではない。どこの大学へ行けば学芸員資格を取得できるのかは文化庁(学芸員養成課程開講大学一覧(令和4年4月1日現在)292大学 | 文化庁)が取りまとめているほか、各大学の学部紹介・募集要項等でも提示されている。
ここに出ている大学でも、一部の学部では学芸員資格が認められない場合がある。例えば、北海道大学の場合、大学案内誌(北海道大学 2022 大学案内)を参照すると、多くの学部では学芸員資格を取得できるが、法学部、経済学部、医学部、歯学部、薬学部、工学部、獣医学部は学芸員資格を取得できないことになっている。進学先を検討する際は、よく注意して調べてほしい。
【2022/6/12追記】北大の教授によると、上記の資料で学芸員資格について取得可能となっていないものの、実際は取れるらしい。
そういうこともあるので、不明な点は問い合わせてみて欲しい。
ようやく本題に入る。大学で学芸員資格を取りたいとき、どう授業をとったらいいのか。
まず、卒業までに必要な単位をどうやって取りきるか計画を立てる。これは教職を取る人なんかも含めて、誰もがみんなやることである。ただし注意してほしいことが2点ある。
博物館実習という壁
学芸員資格を取得するにあたって一番面倒で、一番ためになる授業が「博物館実習」である。自ら博物館に赴き、そこで1週間ほど実習をやって、報告書を提出するのが大まかな流れである。
受講条件として、実習以外の科目をすべて履修し終えていることや、ガイダンスに出席することを求められる。多くの場合、3年次までに座学の授業科目をすべて履修し終え、4年次に卒業研究の傍らで実習をこなすことになる。博物館実習については別途記事にまとめることにしたい。かぶりがちな授業科目
理学部で学芸員資格を取ろうなんていう私のようなマイノリティはほとんど考慮されていないがゆえに、必修の科目と博物館に関する科目がかぶってしまうことが往々にしてある。
例えば、筑波大学 物理学類開設の科目一覧を見ると、春学期の月曜2限の枠には2年で物理数学、3年で統計力学が開講されている。一方で、博物館に関する科目を見ると、博物館学Ⅰが上と同じく春学期の月曜2限に開講されている。このように受けたい授業がかぶることがある。
そのようなときの対処法を2つ紹介する。
標準履修年次を無視する。(推奨)
授業科目には、「標準履修年次」というものが指定されている。簡単に言えば「できるだけこの学年で履修してくださいね~」というやつである。
私の経験上、博物館に関する科目では、標準履修年次を無視してかまわない。一方で、主専攻の科目(今回の場合、物理)では無視しない方が無難である。(なぜならば、博物館に関する科目の一覧を見るとすべて2~3年になっている。このことからわかるように、どれが基礎でどれが応用なんていうのは基本的にない。一方で、物理においては1年でやる基礎的な数学をやってから物理数学をやるべきだし、物理数学を心得てから統計力学を学ぶべきだろう。)
ゆえに、先ほどの例では、月曜日の2限の枠において、1年博物館学Ⅰ→2年物理数学→3年統計力学と取るのが良いだろう。
選択科目を見極める。
標準履修年次を無視するだけではどうにもならない場合があるかもしれない。そこで最後の手段になるのがこれ。
卒業までに必要な科目の中には、必修科目と選択科目というものがある。必修科目は「必ずこの授業科目を履修すること」というもので、選択科目は「これらの授業科目の中から〇単位ぶん履修すること」というものだ。
先ほどの例の場合、実は統計力学や物理数学は選択科目の一部で必ずしも履修しなければならないわけではない。ゆえに、物理数学はこの際諦めてほかの科目で選択科目を埋めることにして、2年統計力学→3年博物館学Ⅰと履修することもできる。
とは言うものの、冒頭で述べたように学芸員は調査研究も行うため、専門性も当然求められる。主専攻の関連科目であれば、なるべく履修しておくことをおすすめする。選択科目を切るのはあくまで最後の手段と思っておこう。
以上のように、もし博物館に関する科目と主専攻の科目がかぶってしまった場合でも、どうにかして回避することができる。〇年次の〇学期の〇曜日〇限にどの授業科目を取るのか、それで卒業までの必要単位数は足りるのか、3年次で所定の科目を取り終え4年次に実習に行けるのか...念入りに計画を立てる必要がある。
こと筑波大学においては、博物館に関する科目は月曜日の2~3限と金曜日の5~6限に集中していて、この枠のかぶりさえ上記の方法で解決させてしまえば、あとは集中講義を追加でいくつか受講すれば博物館に関する科目を取りきることができた。(私のときはそうだっただけなので、自分でよく確認してほしい。)
それから、学芸員を取りに行こうとする人が少ない学部から、博物館に関する科目を受けに行くとかなり、寂しい思いをすることになるかもしれない。テストやレポート課題など、一人でもなんとかならないことはないが、親しくなれそうな人を1人でも見つけておくと良いだろう。所属は違う学部だけど、英語や体育で見かけた人とかに話しかけてみよう。
資格を取ったその先は?
博物館実習を含む、所定の博物館に関する科目を取りきって、卒論も提出して学位記を受け取れば、晴れて学芸員資格を取得したことになる。学芸員資格の資格証や免許状のようなものは、もらえない。就職志望先に提出が求められた場合、大学に成績証明書を請求してそれに代えることになる。
時に、自然史博物館、科学博物館、科学館の求人はあまり多くない。自分の分野の場合で、さらに正規雇用の募集となると、年に数件ある程度。非正規であればちらほら見つかる。
考古、民俗、芸術、文化財関係は比較的多く見かける。
ここに、学芸員関係の求人を探すのに有用なサイトをいくつか紹介する。
全国の学芸員関係の募集情報が掲示板形式で掲載されていく。関係者が随時更新しているようなので、かなり網羅されている。
公務員試験情報のサイトの一角に学芸員募集の情報が掲載されている。財団や法人とかではなく、自治体の職員としての募集が参照できる。
国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)が取りまとめる研究開発職(大学の研究職、研究所の職員など)のポータルサイト。検索窓に「学芸員」「博物館」等キーワードを入力して検索するといくつか該当する。
公募情報 - 一般社団法人 日本サイエンスコミュニケーション協会(JASC)
サイエンスコミュニケーション協会が取りまとめる公募情報。科学館スタッフ、サイエンスライターなど、学芸員資格必須の職に限らず、広く科学と社会をつなげる職の公募情報が掲示される。
学芸員募集の掲示板 | アイエム[インターネットミュージアム]
博物館業界で知らない人はいない展示制作会社である丹青社が運営する、博物館ポータルサイトの一角に、学芸員募集情報が掲示されている。館種や雇用形態で絞込み検索できる。
最後に、天文分野に特化したページ。天文学会、天文教育普及研究会が企画し、天プラが運営している。天文学会、天文教育普及研究会のメーリングリストで流れてくる公募情報は随時ここに掲載される。天文台、プラネタリウム関係を探すならここ。
ほかにも、大学のキャリア担当や教員に直接送られてくることや、学会のようなコミュニティ内で流れてきたり、TwitterやFacebookで広報される情報もある。少ないチャンスをものにしたいなら、アンテナを常に張っておくことが肝要だろう。
質問やコメントがあれば、ぜひ気軽に残していってほしい。もし筑波大の後輩だというのであれば、より詳細に対応できるかもしれない。