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【イベントレポート】地域に新たな価値を生む、家族経営のコーヒースタンドが出来るまで

4/12(月)に、いわきツーリズムラボ presents トークサロン「ただいま研究中」vol.2を開催しました。いわきツーリズムラボは「学び」を軸に置いており、このトークサロンは、私たちがゲストに学んで終わるのではなく、それ自体をコンテンツとして配信しよう!ということで開催しています。

第2回は、「地域に新たな価値を生む、家族経営のコーヒースタンドが出来るまで」がテーマ。2020年11月にいわき市小名浜(おなはま)の住宅街にオープンしたコーヒースタンド「sons(サンズ)」を営む箭内さんご一家をゲストに迎え、お店から生配信しました。

モデレーターは、ラボ研究員の宮本英実(MUSUBU) 、配信は同じく研究員の井出拓馬(福や、アートスタジオ弁天)が担当しました。イベント内容を一部抜粋してお届けします。

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配信の裏側。
当日は、一部音声に不具合があり、失礼しました。こちらも含めて研究中ということで、何卒ご容赦くださいm(_ _)m

イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧になれます。


<ゲスト>
コーヒースタンド「sons(サンズ)」
福島県いわき市で28年間自家焙煎珈琲豆店を営む「ヤナイコーヒー」の2号店として、2020年11月に小名浜君が塚の住宅街にオープン。自家焙煎の新鮮な珈琲豆の販売に加え、自家製焼き菓子もならぶ。1杯のコーヒーと共にいわきの町、人、モノを取り込んだ新しい文化、家族経営の新しい未来創りを目指す。

箭内さゆり
福島県いわき市平出身。小学校入学と共に両親が自宅で自家焙煎コーヒー店を開業。20歳で上京しパティシエ、バリスタの経験を経て2020年Uターン。同年弟夫婦と共に家業ヤナイコーヒー商会の2号店sonsをオープン。飲食店や小商い、家族経営の可能性を体感しながら広げるべく奮闘中。

箭内孝
福島県いわき市平出身。高校卒業と共に上京。東京では飲食店やコーヒー関係の仕事に携わり、約10年後の2021年に地元で家業の自家焙煎珈琲店に加わるためUターン。同年の11月にヤナイコーヒーの2号店となるコーヒースタンドsons をオープン。

箭内愛美
神奈川県横浜市出身、結婚を機に2020年6月にいわきへ移住。sonsでは販売員の経験を生かし主に接客を担当。

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Uターンして家業を継ぐまで

宮本:本日のゲストはsonsの皆さんです。さゆりさんが2020年4月に、孝さんと愛美さんが6月にいわきにUターンし、同年11月に3名でお店をオープンしました。簡単に自己紹介とお店での役割をお聞かせください。

さゆり:姉の箭内さゆりです。店頭に立って販売、接客のほか、コーヒーを入れたりお菓子を焼いたりしています。

:弟の箭内孝です。焼き菓子以外の店舗業務を行っています。お店のことは大体3人で決めるのですが、僕が主軸となって決めていくことが多いです。

愛美:孝の妻の愛美です。私は主に接客を担当しています。

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左から、愛美さん、孝さん、さゆりさん

宮本:いわき市郷ケ丘で28年間続く自家焙煎珈琲豆店「ヤナイコーヒー商会」をご両親が経営されているんですよね。家業を継いで2号店としてsonsさんがオープンしたわけですが、そもそもお店を始めようと思ったきっかけは何だったんですか?

さゆり:ゆくゆくはお店を開きたいという気持ちはありました。私がちょうど1年前に帰ってきて、2か月後に弟たちが帰ってきました。本店はコーヒー豆の販売だけで飲料提供はしておらず、コロナの時期も重なってイベントができなくなったのもあって、必然的にお店を出さないと、という風になりました。

宮本:さゆりさんと孝さんはいわき出身、愛美さんは横浜出身ということですが、それまで皆さん東京でお仕事されていて、いつか地元に帰りたいとか、コーヒー屋を継ぐんだという思いはあったんですか?帰ってくるきっかけみたいなものはありましたか?

:僕は10年間東京にいたんですが、8年くらいは実家を継ごうとは思ってなかったですね。帰って家業に加わろうという気持ちが本格的に固まったのは後の2年くらいです。Uターンするきっかけをずっと探していたんですけど、いろんな人と話す中で「きっかけはいつ見つかるんだ?」と言われて。「自分で作らないと、きっかけなんて一生来ないんじゃないか」と思って、自分でリミットを決めました。東京で仕事をする中で自分が本質的にやりたいことはなんなのかというのをずっと探していて。家業に加わろうと思ったのは、飲食店でコーヒーに携わったときに、親のやっていることや継続させることの難しさを感じたことが大きかったですね。自分が家業に加わることによって、もう少し色んなことができないかなと思いました。

宮本:ご両親は帰ってきてほしそうでしたか?

さゆり:全然です。私は実家を継ぐために帰ってきたんですけど、それまで父には軽々しく帰りたいとか継ぎたいとかは言いませんでしたし、父もやってほしいというのは全くありませんでした。帰ってきて、お互いに「どうしたらいいんだろう」みたいなふわっとした感じはありました。私のやる気がから回っていた部分もあって、数ヶ月は父とめちゃくちゃぶつかりましたし、分かり合えない部分も結構ありました。

宮本:愛美さんはどう思っていましたか?

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愛美:(孝さんと)付き合っていた頃からゆくゆくは福島に帰りたいと言われていたので、引っ越すことに抵抗はありませんでした。気づいたらコーヒー屋さんやってますけど(笑)今も、意気込んでやらなきゃ!みたいな気持ちでもないですし、私が一番お客さんに近い感覚なので、家族も第三者の意見として話を聞いてくれるので、居心地はいいです。

さゆり:帰ってくる前に3人で実家の庭や商業施設で1日限定のコーヒースタンドをやってみたことがあって。3人でコーヒーを淹れたりお客さんと話したりというのがすごく楽しかったので、義理の妹も自然に家業に入ってくれるんだろうなと不安要素は全くなかったです。

外から感じた「小名浜」のポテンシャル

宮本:お店を始めようと思ったのが2020年6月、オープンが11月とかなり短い期間でしたが、苦労したことはありますか?また、なぜ小名浜君が塚の住宅街に辿り着いたのかというのもめちゃくちゃ気になります。

:本店がある平(たいら)とは違う商圏で、小名浜でやりたいというのは決まってはいたんです。でも、高い家賃は払えませんし、興味を持って取り合ってくれる不動産屋さんもあまりいませんでした。コロナもあってちょっと難航して、結果として住宅街に入っていったというのはあります。ただ、実際小名浜に住んでみて、このsonsがある場所が、自然な生活導線上にあるなというのは肌感で感じています。

宮本:昔から君ケ塚を知ってる私としては、このエリアにコーヒースタンドが出来たことはすごく嬉しかったです。愛美さんは小名浜にポテンシャルを感じたそうですね。

愛美:引っ越してから小名浜で生活するようになって、イオンも近くにあるし、高速道路ができる話もあるし、明るくて、直感的にすごくいい場所だなって思いました。

:「海あるし、みなとみらいっぽいね」って言ってました。ポジティブおばけだなと思いました(笑)意外と都会ネイティブの人は田舎を蔑んでいないというか、いいところをみつけてくれる視点を持っているなと思います。

小さな商いを継ぐということ

宮本:先ほども継ぐ前のお話がありましたが、自分たちにポストが用意されていたわけではなくて、自分たちが仕組みを作らないと家業に介入できない状態だったわけですよね。小さな商いの継ぎ方の参考例がなかった、ということですが。

:そうですね、うちの事業の場合は、自分たちがアクションを起こさないと介入できる隙はないというところで、ここまでスピード感を持ってできたと思います。着想から半年でお店のオープンに至ったのは、そこが大きかったです。やらないと食い扶持がない。どうやったら自分たちがいい形で加われるのかというのは、3人ですごく考えました。先に帰った姉から話を聞くと、どうやら楽しそうじゃないなと。どうにかその状況を打破したくて、お店という選択肢がでてきました。僕達みたいなシチュエーションの人って結構いると思うんですよね。「帰っても給料もらえないな」 とか、自分で事業をやっている人でも、「いわきに帰って成り立つかな」って考えてる人って結構いると思うんですけど、本気で考えて本気でやれば、やってやれないことはないのかな、というのはお店を開いてみて思いましたね。

宮本:3人で一緒にお店を始めたというのはやはり心強かったですか?

さゆり:2人の存在が家族経営の中ではすごく大きいです。今後をめちゃくちゃ考えて帰ってきた弟と、それについてきてくれた義理の妹がいて。家族だけだったら甘えも出るし、私は会社として見れていなかった部分があったので父とも衝突しました。自分のやってきたことにプライドを持っていたのが変な方向にいってしまって、実家のお店でも居場所を見つけられなかったんですね。弟の、「家族じゃなくて会社だから」という言葉にはっとさせられましたし、考え方を変えたところはありましたね。プライベートはもちろん家族なんですけど、そこの線引きですかね。

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:僕は奥さんがついてきてくれたというのがすごく大きくて。それは父親も分かってくれていると思うんですね。僕が意固地になるときも、それがあるんだろうなって感じていると思います。ある意味家族じゃない誰かがいるというのは大きいと思います。

さゆり:私は、3人っていうのが最強だと思いますし、そこに両親も加わった5人が最強で最善だなって思ってます。

愛美:お店が始まって、やっと全てがうまく行きだしたなって思います。やりたいことがあったら、今は自分たちが何者かって人に言えて、ことが進んで行くけど、以前はそれができないことがフラストレーションだったりもして。

さゆり:お店ができてから3人とも生き生きしたんじゃないかなって思います。

:みんなフラストレーション溜まりまくりだったので(笑)個人個人で思うところがあるけどぎりぎりまで言わずに、みたいなのはありましたね。お店をやったことが潤滑油になってうまく歯車が回りだしました。

目指すところは名脇役としてのコーヒースタンド

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宮本:sonsさんは、「カフェじゃなくてコーヒースタンド」ということで、コーヒーの良さを広めるというよりも、コーヒーを通じて新しい文化を地域にもたらしたいと掲げているのが特徴的だなと思っています。どういった思いからコーヒースタンドが生まれたのですか?

:まずコーヒーって、きっと主役じゃないんです。その反面、あったらすごく豊かになるものというか、まさに嗜好品であって。僕達が目指すところは名脇役なのかなと思います。僕達のお店で何時間も過ごすというよりは、1日の中の流れに僕たちのお店がある、みたいな。いい意味での余白を大事にしています。だからカフェではなくてコーヒースタンドという業態を自称しています。近づきすぎない接客だったり、全体的に塩梅いいな、みたいなのは意識してますね。

さゆり:実家の父のコーヒー豆が目指しているのが、「毎日ごくごく飲めるコーヒー」なので、ここの店もそういう使い方、何かの途中に立ち寄ってもらったり、あまり緊張せずにふらっと来てもらえる場所になったらと思ってます。

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:行きつけのコーヒー屋さんってあったらよくないですか? ”うぃ”って感じで入ってこれてさっとコーヒー飲んで帰るみたいな。

宮本:そういうところがあるだけで、日常が豊かになりますよね。

プロモーションの工夫

宮本:小名浜の住宅街にコーヒースタンドができたのは意外でしたが、いまはもう馴染んで日常に溶け込んでいますよね。

:SNSで情報を発信することで、この意外性を、今までとは違う考え方の人に受け入れてもらっているのかなというのはあります。僕たちは有料の広告は全然打っていなくて、SNSがなかったらもっと集客に苦労していたと思います。

宮本:sonsさんのInstagramはめちゃくちゃ素敵ですよね。愛美さんが担当しているということですが、自分の中で決めているルールはあるんですか?

愛美:自分が見る側だったら綺麗な写真を見たいと思うし、自分がこういう写真を見たいなと思う写真をあげてます。

宮本:丸太が特徴的な木の内装にもこだわりがあるんですよね。

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:誰かがSNSでお店を紹介してくれる時に、画像を見て5秒でどこの店とわかるようなポイントが欲しいなと思って、丸太とかお店のロゴとかさりげなくアイコンになる場所を作りました。自分たちの手から離れてもお店の情報が伝わるような背景というのは、これからも意識していきたいと思ってます。

地域に開いていくことで広がる、つながりの輪

宮本:地元のヘアサロンのオリジナルコーヒーを作るなど、地域の他の事業者さんとコラボしたりもしていますよね。

:せっかく使うなら地元のものを使いたい!という人は結構多いですし、僕たちもそうです。牛乳は木村ミルクプラントさんのを使ってますし。

宮本:そういう話があれば相談を受けていただける感じなんですか?

さゆり:今後もできるだけそういう声があれば寄り添ってお答えしたいと思います。

宮本:そのほか、店内でイベントをしたりと、お店を地域に開く活動もされていますよね。

:今はコロナで難しいんですけれど、ポップアップスペースの活用は考えていきたいですね。「あそこにいったら色々やっているよね」というイメージが欲しくて。ポップアップスペースのイメージは、「非日常」です。海外の人の作品を置いてもらうなど、ローカルなお店を通じて新しい発見をしてほしいと思っています。

宮本:ふらっと立ち寄った日常の場所で、新しいものに出会えたら素敵ですよね。最近も、環境に配慮したリユースカップの販売を始めましたよね。コーヒー屋さんにリユースカップがあれば、環境のことを考えている人たちに違和感なくスルッと受け入れてもらえる。皆さんの中にそういう課題感はあったんですか?

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さゆり:リユースカップをやりたいって言ってくれたのは愛美ちゃんなんですけど、大々的に「私たちこういうことやっています!」というよりは、環境に配慮した商品がいいなって思っている人たちにとって、使いやすくなってくれたらいいかなって思ってます。

:僕たちなりに伝えられる形で伝えたいなと思っています。それがこちらのエゴになっちゃうと違うかなって。ありがたいことにインスタグラムを見て綺麗な写真だねって言ってもらえることも多くて、そこを通してリユースカップに興味を持ってくれる人がいるといいなと思います。

愛美:この辺でタンブラーを売ってるのをあまり見なかったんですよね。だからなかなか理解されないかなって思ってたんですけど、意外と朝コーヒーを入れて持っていく方が買ってくれたり、お客さんが毎週ここでコーヒーを買うのに持ってきてくださったり。売ってなかったから買っていなかっただけで、それを受け入れてくれたっていうのは一歩前進かなって思ってます。

地域の人は意外と優しいし、受け入れてくれる

さゆり:最後にどうしても今日伝えたいことがあるんですが...。このご時世で、Uターンしたいという人も多いと思うんですけれど、帰りたいと思った人は帰ったほうがいいし、どこか行きたいと思ったら行ったほうがいいです!やりたいことがあれば地域の人は意外と優しいし、受け入れてくれます。

:いわきに戻るということがみんなの中で大きな決断すぎる。僕もそうだったんですよ、人生の岐路に立たされている、みたいな。でも、そんなに大きなことじゃないっていうのは帰ってきてからわかりました。何者でもないのに、自分の中の筋を通そうとしていた。それよりも帰ってきて当事者になることが大事というか。それでやっぱりこっちじゃないなと思えばまた拠点を移せばいいですし。

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リアル友達がいわきに来たらどこに連れていく?

宮本:最後に、このオンラインサロンの定番の質問なのですが、リアル友達が来たら案内するいわきの場所を教えてください!

愛美薄磯海岸を見てほしいです。ずっと鎌倉で働いていたので湘南の海をよく見ていたんですけど、こっちに来て海を見て、海ってこんなに広いんだなっていうのが第一印象でした。

さゆり三崎公園の潮見台ですね。私自身、東京にいたときにかならず帰ると行く場所でした。あそこに行くといい意味でどうでもいいかなって思えるんで。海に囲まれている感覚になります。

:夕日ですかね、一番グッとくるのは。小名浜は空が広いです。高い建物がないし空が開けている。日常的に空を見上げているタイプじゃないんですけど(笑)それでも普通に綺麗だなって思います。

宮本:分かります。私も友人が来たら小名浜の夕日を見に行って、日が落ちたら夕飯食べにいったりします。

さゆり:それ、今度真似させていただきます。

宮本:今度からは、sonsさんでコーヒーを買ってから夕日を見に行きます!
今日はあっという間の90分でしたが、sonsさんのようなお店ができたことで地域の魅力も深まったし、こういった地域の魅力的な点が増えていくことが、結果として外からの人を呼んだりするものだなと感じました。本日はありがとうございました。

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この続きはお店でも気軽に聞いてください、とのこと。コメント欄には、常連さんからの感想もたくさん書き込まれ、オープンから5ヶ月ですでに地域に溶け込んでいることがうかがえるイベントでした。

いわきツーリズムラボでは今後も、オンラインサロンを含め、さまざまな企画を実施していきます。また、新メンバーを受け入れる体制も整えているところです。乞うご期待!

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(おわり)

コーヒースタンド「sons(サンズ)」
〒971-8169 福島県いわき市小名浜南君ケ塚町15−21
営業時間:10:00〜19:00
電話:0246-85-5144
定休日:火曜日、第3水曜日
Instagram:https://www.instagram.com/sons_yanaicoffee/
Twitter:https://twitter.com/yanai_coffee
オンラインショップ:https://yanaicoffee.stores.jp/
いわきツーリズムラボ |Iwaki Tourism Lab.
福島県いわき市を拠点に、この土地ならではの地域資源を活用した「まなび」軸の観光・交流コンテンツの企画を通じて、解像度を上げて地域探求し、深めていく研究団体です。メンバーは、いわき市在住の魚屋、飲食店経営者、プランナー、ラジオ局員、観光従事者など。

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