【特別企画】プレイバック福島ダービー②2018~2019年/平澤俊輔
5月4日のJ3第8節、そして8日の天皇杯福島県代表決定戦。いわきFCは同じ県のライバル・福島ユナイテッドFCとのダービーマッチ2連戦を戦います。
福島県ナンバーワンクラブの座を巡る熱き2連戦に際し、ダービーのこれまでの激闘を、コーチ・渡邉匠、フロントスタッフ・平澤俊輔、強化部スポーツディレクター・田村雄三の3人が振り返る特別企画。
第2回は、いわきFCが現体制で船出して3~4年目の2018年~2019年の戦いについて、2019年にキャプテンを務めた平澤俊輔が語ります。
■2018年5月13日 いわきFC 2-1福島ユナイテッドFC
3年連続同一カードとなった天皇杯福島県代表決定戦。この戦いから、ダービーはいわきFCが圧倒する展開となっていく。
この年、チームは東北社会人2部南リーグに所属し、リーグ優勝はほぼ既定路線。選手達にとっては、Jクラブと真剣勝負ができる天皇杯が最大にして唯一のターゲットだった(※)。
※2016~2017年、チームがターゲットにしていたのは天皇杯と、秋に行われる全国社会人サッカー選手権(全社)。全社で上位に入ったチームはJFL(日本フットボールリーグ。4部相当)参入を懸けた全国地域サッカーチャンピオンズリーグへの出場権を得られるため、チームは地域リーグを飛び越えてのJFL昇格を目論んでいた。しかし2018年、レギュレーションが変更。飛び級昇格の可能性が消滅し、選手達は天皇杯に懸けていた。
試合は前半3分、左サイドからのクロスのこぼれ球をFW小野瀬恵亮が押し込み、いわきFCが先制。そして41分にはGKのクリアボールをMF熊川翔が拾い、左足で鮮やかなシュートを決めてリードを広げた。
ただし、その後の試合内容は決してほめられたものではなかった。ボランチで先発した平澤俊輔はこう語る。
平澤「よく『サッカーは2対0からが一番難しい』と言われますが、その通りでした。チームとしては手を緩めずにもう1点を取りに行ったつもりでしたが、なかなか取れない。そして後半が始まってすぐに1点を返されてしまった。そこから引きがちになり、いわきFCが目指していないサッカーをしてしまいました。
前年に勝ってJ1のクラブと戦えたことで『福島県で決して負けてはいけない』というプレッシャーが生まれていたと思います。勝ちを意識しすぎて迫力を出せなかった。すべてのモチベーションが天皇杯に向いていたことで、ガチガチになっていましたね」
福島ユナイテッドFCは後半、いわき守備陣を翻弄。立ち上がりにPKで1点を返し、其の後は一進一退の展開となる。だが粘るいわきFCは同点ゴールを許さず、2年連続で天皇杯福島県代表の座をつかんだ。
平澤「2018年はJFLへの飛び級昇格ができなくなったことで、モチベーションの持って行き場が難しい1年でした。チームは『カルチャー作り』をテーマに、JFLそしてJリーグという将来はあるけれど、足元を見て一つ一つの練習や試合をこなしていこう、という方針を掲げていた。そんな中で迎えたダービーは難しい試合になりましたが、翌年以降につながる貴重な経験だったと思います」
チームはこの年もリーグ優勝を果たし、東北社会人1部リーグに昇格が決定。目線の先には全国リーグJFLをとらえていた。
■2019年5月12日 いわきFC 2-0福島ユナイテッドFC
いわきFCはこの年、東北社会人1部リーグ、そして全国地域サッカーチャンピオンズリーグ制覇によるJFL昇格をターゲットとして、桐蔭横浜大からMF山下優人、Honda FCからMF日高大ら、現在もチームの核となっている選手達を獲得。地域チャンピオンズリーグ優勝とJFL昇格に向けた強化を進めていた。
天皇杯での対戦に先立ち、2月のJヴィレッジ再開記念マッチで両チームは激突。結果は5対0といわきの完勝に終わる。
気づけばいわきFCにとって、福島ユナイテッドFCは「勝たねばならない相手」となっていた。
そんな状況で迎えた2019年の天皇杯福島県代表決定戦。在籍3年目となった平澤はこの試合、キャプテンとしてピッチに立った。
平澤「最終ラインに負傷者が出たことで、試合前日に急遽DFで起用されることが決まりました。あの試合は僕が出場した3試合の中で、最もいわきFCらしいサッカーが展開できた。まさに会心の試合だったことをよく覚えています」
試合は前半開始早々、ユナイテッドが積極的なポゼッションからたびたびいわきゴールを脅かす展開に。いわきはGK坂田大樹のセーブなどで凌ぎ、15分過ぎから反撃を開始。前線のFW赤星魁麻へ積極的にフィードを送る。
前半27分、赤星が競ったボールが相手オウンゴールとなり、いわきが先制。そして選手達は、後半も集中力を切らすことはなかった。67分に赤星がゴール中央へのパスに走り込み、追加点。粘るユナイテッドを突き放し、試合は2対0で終了。いわきFCが3年連続の勝利を挙げた。
平澤「前半15分ぐらいまで、相手に本来自分達がやりたいサッカーをされて押し込まれてしまった。でもそこで耐えて、1点入ってからはこっちのペースで試合を進めることができた。
ここ2年間の経験を踏まえ、ピンチになっても自分たちなりに解決策を見出し、流れを引き寄せることができたと思っています。先制して流れがこっちにきてからもガチガチに守ることはなく、さらに攻めて相手に流れを渡さない。それを意識した結果、2点目を決めて勝てました」
ただし平澤自身にとって、この試合は結果として最後のダービーとなった。
平澤「この年は、ケガをしては別の箇所を再び負傷することの繰り返し。1年で2カ月ぐらいしかサッカーをしなかった感覚です。
シーズンのスタートからずっと練習できず、やっと4月中旬に復帰して迎えた試合でした。そして実はこの試合の後も、仙台大との天皇杯1回戦の3日前に負傷してしまったんです。JFAアカデミー福島時代、そして大学時代も含めて、天皇杯の本戦にはほぼ縁がありません(苦笑)。
そして、キャプテンを務めたこの1年間は苦しかった。試合どころか練習にすら出られない時期が長く、チームに迷惑をかけてしまったからです」
2020年限りで選手を引退し、フロントスタッフに転身。現在は営業マンとして奮闘する日々を送っている。チームを支える裏方の一人として、今年のダービーへの思いをこう語る。
平澤「僕が選手だった当時のいわきFCにとって、福島ユナイテッドFCとの試合は年に1回、Jクラブとガチンコ勝負できる貴重な機会。だから、すごく意識していましたね。
そしてこんなことを言うのは本当におこがましく、恐縮なのですが『J3のクラブには当たり前のように勝ちたい』と思っていました。
これは当時の全員に言えることですが、みんなが選手として、もっと上に行きたいと思っていた。サッカー選手である以上、目指すのはJ1、そしてその上の世界です。それならば、J3のクラブに負けている場合じゃない。だから絶対に勝つ。そんな思いを全員が持っていました。
当時の選手にあったのは"雑草魂"。チームができて間もないころは、Jクラブのユース出身者や高校・大学のスター選手はほとんどいなかった。自分達は県リーグ~地域リーグのクラブ。でも、どこよりも厳しく、質の高い練習を積んでいる自負があった。だから、J3のクラブに負けるつもりは毛頭ありませんでした」
そして平澤は自身の在籍当時と比べ、現在のメンバーは経験値とハングリーな気持ちの両方を備えていると感じている。
「2017~2018年ぐらいまでは、大事な試合で気持ちが空回りしてチーム全体がパニックになることがあった。でも昨年ぐらいからでしょうか。チームにそういう雰囲気は感じられない。
2020年にJ3昇格を逃したことが経験になったのか、試合中に上手くいかないことがあっても動揺しなくなった。それがJFL優勝とJ3昇格に結びついたと思います。
加えて今年、Jリーグ経験のあるFW有馬幸太郎選手やDF星キョーワァン選手、そしてGK田中謙吾選手のようなベテランが加入したことも大きいと思います。試合中の気持ちのブレがなくなった。
ただし今のチームの中にも、J3で満足している選手は一人もいないはずです。
村主博正監督もおっしゃっていましたが、僕らの立ち位置はチャレンジャー。そこは不変です。いわきFCは常に上を目指すチーム。今年も熱い気持ちをむき出しにして戦ってほしいし、きっといい試合になる。同じJ3で肩を並べ、しかも上位同士で戦う初めてのダービー。素晴らしい状況で迎える戦いに、ワクワクしています」
第3回は2021年のダービーについて、田村雄三スポーツディレクターが振り返ります。
(③に続く)
■第一回の記事はこちら↓
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