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もう一度、本気の自分を見たい。FW鈴木翔大 【Voice】

今シーズン、JFLの強豪・ソニー仙台FCから移籍し、1年目ながらすでにチームの攻撃の核となっている大型FWの登場です。開幕戦となった7月18日の奈良クラブ戦で見事、決勝ゴールを挙げた鈴木翔大選手に、お話をうかがいました。

▼プロフィール
すずき・しょうた
1993年生まれ。日本航空高→神奈川大→ソニー仙台FC
2020年いわきFC入団

■「ああ絶対ここだ!」という確信。

 まずは、奈良クラブ戦の決勝点の話から聞いていきます。ゴールは、MF日高大選手のコーナーキックからのヘッドでした。

「(日高)大とは練習試合から息が合っていて、やりやすいんですよ。今のところ、ほとんどの得点が彼からのボールです。CKは普段ファーで待つことが多いのですが、あの時はなぜかニアのエリアに得点の匂いがしたんです。『ああ絶対ここだ!』という確信があり、大が蹴った時には勝手に身体が動いていました。ドンピシャでしたね」

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試合は開始1分で失点。前半を0対1で折り返しました。選手達の雰囲気はどのような感じだったのでしょう。

「スターティングメンバーの中にJFLの開幕戦を経験している選手は半分だけ。しかも開始早々に先制点を食らう。これは決して好ましい展開ではありません。でも下を向く選手はいなかったし、動揺もありませんでした。

チームの攻撃の形が研究されていたようで、確かに前半は思うようにいきませんでした。そこはやはり公式戦。練習試合と比べると、なかなかいいボールも来ません。そういうものです。

自分はJFLの公式戦の難しさはよくわかっているつもりですし、シーズン中はこういった展開が必ずある。前半を終えてスコアはリードされていたけれど、押し込めていたし決定機もあった。最後が上手くいっていないだけで、普通にやれば問題ない。

これまで強度の高い練習を積んできたので、後半になれば必ず走り勝てる。自分の役割はゴールを決めること。そこに集中すればいいと考えました」

言葉の通り後半、チームは奈良クラブを圧倒しました。65分にFW岩渕弘人選手が同点ゴール。鈴木選手の決勝ゴールはそこから21分後のことでした。

「やるべきことは前半と変えていませんでしたが、点を取れる雰囲気は十分あった。FW陣で『俺達で勝負を決めるぞ』と話していました。

1対0があまりに長く続くとまた別の空気になってしまいますが、岩渕がいい時間帯に同点ゴールを決めてくれてよかったです。

そこからは『自分が取ってやる』という気持ちでプレーしました。試合を通じ多くのチャンスがあったので、無事に決められてひと安心でした」

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チームは記念すべきJFL初戦を勝利で飾り、次節に向けて好スタートを切りました。きっと次節以降も攻撃陣の中心としてチームを引っ張り、多くのゴールを見せてくれることでしょう。

■勝ち点0を1に。勝ち点1を3にできるチームが最後に笑う。

鈴木選手は神奈川大を卒業後、JFLの強豪・ソニー仙台FCで4年間プレーしていました。JFLをよく知る選手として、リーグ戦の難しさをこう語ります。

「さまざまなタイプのチームがいることが特徴です。4連覇しているHonda FCみたいに、サッカーの内容にも結果にもこだわるチームがいる反面、例えつまらなくても、自分達がこれだと決めたサッカーをとことんやって来るチームもいる。例えば前に大きな選手を置き、ひたすら放り込んできたり。

つまり『いいサッカーをしなくても、この相手に勝てさえすればいい』と割り切ってくるわけです。昇格するには、そういったさまざまなタイプのチームに勝っていかなくてはいけません。

また、アウェーの移動も多くあります。長距離移動はやはり心にも身体にも来ます。コンディションの調整はそれなりに難しいです」

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JFLを勝ち抜くため大事なことは、自分たちのサッカーを貫くこと、そして勝つことで生まれる勢いを維持しつつ、負傷者を出さないことだと語ります。

「いろいろなタイプのチームがありますが、自分達の戦い方を確立したチームがやはり強い。いわきFCには、それがはっきりとあります。

そして、勝つことで生まれる勢いを大事にすること。例えアウェイが続いても、チームが勝っていて勢いがある時は、疲れを感じにくい。逆にチームの状態が悪いと、ホームゲームでも身体が重く感じるものです。特に今年のリーグ戦は15試合と短いので、勢いに乗ったチームが優勝する可能性が高い。

勢いを維持するには、強度の高い練習をこなしながら負傷者を出さないこと。今年のいわきFCの選手層は24人。全員が1年間を通してサッカーができるコンディションを保つことが大事です。それができないと、チーム内の競争がなくなってしまう。数人がケガをして『誰でもベンチに入れて当たり前』という環境ができると、競争がなくなり、勢いを失うきっかけになります」

それでもリーグ戦の中で、チームの調子が落ちてしまうこともあります。

「その時に大事なのは粘り。負傷者がたくさんいたりアウェイの長距離移動が続いたりとハードな状況あっても、悪い時なりに戦って勝ち点0を1に、勝ち点1を3にすることのできるチームは強い。

例えばHonda FCは、明らかな負け試合を引き分けに持って行ったり、引き分け試合を勝ちに持って行くことができる。彼らのような粘りのあるチームが、最後に笑うのだと思います」

■プロの世界に身を置き、初めてわかることがある。

そんな鈴木選手はソニー仙台FC時代、ソニーの社員として仕事をしながら、アマチュア選手として練習や試合をこなしていました。

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「もともとプロサッカー選手になりたかったので、ソニー仙台FCに入ったころは『1年でJクラブに移籍してやる』と思っていました。

でも、社会人サッカーは甘くない。選手は大学時代よりもみんなひと回り身体が大きく、強さも速さもある。そのため適応が難しく、1年目は結果が出ませんでした。ルーキーイヤーは17試合出場1ゴール。サッカー人生で一番、点を取れなかったシーズンでした」

その後もソニー仙台FCでプレーを続け、社会人サッカーにしっかりと適応していきます。2年目は26試合に出場して6ゴール。3年目は23試合に出場して14ゴールを挙げました。しかし、満たされることはありませんでした。年が経つにつれ、鈴木選手の心は悔しさと諦めが入り混じった複雑な感情に支配されていきます。

「チームはJFLで優勝はできなかったけれど、毎年、上位に入っていました。でもソニー仙台FCに、J3への昇格意思はない。そのため、自分達より下位のチームに先を越されてしまうことがありました。それが悔しかった。

でもその反面、年を追うにつれ『Jリーグでプレーするのはもう無理だろう。情熱を持って続けてきた自分のサッカー選手としてのキャリアは、ここで終わっていくのかな…」という諦めの気持ちも強くなってきて、悔しさ半分、諦め半分という精神状態でした」

そんな鈴木選手の背中を押し、プロ選手の道へと導いてくれたのは、かつて鹿島アントラーズで活躍し、現在は海外で戦う弟の鈴木優磨選手でした。優磨選手は鹿島アントラーズジュニアユースからユースを経て、アントラーズのトップチームで活躍。2019年からはベルギーリーグのシント=トロイデンVVでプレーしています。

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「ソニー仙台時代の3年目ぐらいだったかな。年末年始に帰省した時、親に『弟はサッカーを本気でやっていると思うけれど、お前が本気になったところを見たことがない。兄弟で能力はほとんど変わらないのに、お前はどこか冷めて見える』と言われたことがあるんです。

悔しいけれど図星でした。でもその時は『自分は実業団クラブにいるのだから仕方ない。今からプロになる伝手もオファーもないし』と、自分自身に言い訳をしていました。そんな時に弟が連絡をくれて、まるで自分の心を見透かしたかのように、こう言うんです。

『今のままやっているより、絶対に移籍した方がいい。プロサッカー選手は自分次第。いくらでも稼げるし、プレーするカテゴリーも変えられる。何より、プロの世界に身を置いて初めてわかることがある。チームなら紹介できるから』と」

優磨選手がもともと田村雄三監督と知り合いだったことで、鈴木選手はいわきFCとコンタクト。それをきっかけに、プロ契約のオファーを得ることができました。

「迷いはなかったです。きっと、まだまだ自分に期待をしたかったのだと思います。もう一度、本気になった自分を見たい。その気持ちはもちろん弟や両親にもあったけれど、何より自分が一番、自分自身を諦めていなかった」

鈴木選手はJFL83試合出場29ゴールという結果を引っ提げ、DF田中龍志郎選手とともに、ソニー仙台FCからいわきFCに移籍することを決めました。

「いわきFCのことはチーム立ち上げのころから知っていました。かなり力を入れているクラブだから、間違いなく飛び級でJFLに上がってくると思っていた。結果的に少し手間取りましたが、これだけ設備が整っていれば、必ずいい選手が集まって来るのはわかっていましたね。

実は、先に田中龍志郎の移籍が決まっていたんですよ。自分が決断する際に、あいつ、いわきFCのスカウトマンじゃないの!? ってぐらい熱心に『一緒にサッカーやりましょう!』と電話で誘ってきて(笑)。それにも心を動かされました」

■筋トレはいい方向にしか作用していない。

いわきFCの新入団選手がシーズン初めに迎える試練があります。それは1月の「鍛錬期」。週に3日、徹底的にストレングストレーニングに打ち込む期間のことです。「今まで筋トレはあまり好きではなく、それほどやっていなかった」と語る鈴木選手も、厳しい筋トレでかなり追い込まれたようです。

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「本当にやばかったです(笑)。最初のころは、朝起きたら全身が痛すぎてどこに筋肉痛が来ているのかわからない状態。このままだとサッカーどころじゃない! とすら思いました。

でも、これだけのトレーニング設備を整えて朝昼の食事もいいものを提供し、選手の成長を手助けしてくれる今の環境を生かさない手はない。まずは筋トレを頑張って、自分の身体がどうなろうとチームを信じよう、身体の変化を見てみようと思い直しました。

今はどうにか慣れましたよ。身体がひと回り大きくなりましたね。体重は77kgぐらい。結構上がりましたが、スピードが落ちた感覚はまったくない。筋トレしたことは、結果としていい方向にしか作用していません。半年やってみて、自分に合っていると感じています。今はトレーニングの仕方をトレーナーさんに細かく聞き、少しでも効果が上がるよう工夫しています。

正直、最初はどうなることかと思ったけど、今は逆に『筋トレやろうよ』とチームメイトを誘うようになりました。むしろ、トレーニングしないと落ち着かない身体になっています(笑)」

また、食事への意識も大きく変わったそうです。

「以前は好きなように食べていたのですが、今年に入ってから、コンディション作りを強く意識しています。今は平日も休日も、身体に入れるものに気を使っていますね。プロ選手として、食べることと寝ることも仕事の一部分と考えるようになりました」

■サッカーでお金をもらい、この世界にいられる幸せ。

鈴木選手は現在27歳。片山紳選手と並ぶ日本人最年長として、攻撃陣を牽引しています。

「自分はビシバシやるタイプではないのですが、もう少しリーダーシップを取っていきたい。プレー面より、むしろ精神面で頼られる選手になりたいですね。試合中、周囲にできる限り声をかけるよう意識しています。

ソニー時代はもっと年上のベテラン選手がいました。でもいわきFCの選手は若いので、いきなり年長者になってしまいました。そこで、ソニー時代の1年目に先輩方がどう接してくれたかを思い出し、若い選手を気遣うことを心がけています。

特に1年目の選手は、年上の選手が多いと萎縮しがち。それが、すごくもったいない。いわきFCの選手はみんな20代前半で、若ければまだ10代。その年でプロ選手になって、サッカーでお金をもらってこの世界にいられる。それはとても幸せなことなんです。自分は27歳でプロの世界に飛び込んだので、若い彼らがうらやましくて仕方がない。それほど幸せな立場なのだから、萎縮している場合じゃないんです」

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そして鈴木選手自身は、プロ選手としてこれからどこまでもステップアップできる喜びを噛み締めつつ、今後の目標をこう語ります。

「今は、例えばJ1に行くとか海外に行くといった大きな目標はありません。それよりも、自分の活躍でこのチームを上のステージに導くこと。まずはこのチームで結果を出し、J3の舞台に上がる。それがチームと自分、両方の価値を上げることにつながったらうれしい。そう考えています。

プロの道に飛び込んで後悔はないし、毎日が楽しい。サッカーに使う時間も、サッカーのことを考える時間も増えました。プライベートでは冗談を言ったりふざけたりしながらも『絶対昇格しような!』みたいな熱いことを言い合える。そんなチームメイトができて、自分は本当に恵まれています。みんなで一緒に上を目指していこうと思います」


▼鈴木選手をもっと知るための、5つのQ&A
Q1:ソニーの会社員時代はどんな仕事をしていたんですか?
A1:ファシリティマネージメントという業務を行っていました。ソニーの工場向けの電気や水など、みんなが当たり前に使っているものをしっかりと止めないようにすることが、主な仕事でした。

Q2:個性豊かな選手がそろう2020年のFW陣。その中で期待している選手は誰ですか?
A2:みんなに期待していますが、能力が高いと思うのは10番の平岡将豪選手ですね。彼はサッカーのスキルだけではなく、身体能力も非常に高いと思います。そして岩渕弘人選手はセンスがいいというか、自分にない優れたサッカー観を持っているなと思います。どの選手でも上手く合わせられる潤滑油的な選手というか、監督からするとチームに一人置いときたくなるような選手。他にもみんないい選手ですが、この二人は特に動きが合います。

Q3:鈴木選手はヘディングのイメージが強いですが、自分としても圧倒的な自信があるのでしょうか?
A3:よく言われるのですが、自分ではめちゃくちゃ強いとは思っていないんですよ。それよりも自信があるのはバランス。ポストプレーと裏への抜け出しのバランスのよさが特徴だと、自分では認識しています。FWにはいろいろなタイプがいますが、サイズがある選手は足が遅かったり、スピードのある選手はサイズが足りなかったりと、 高さと裏への抜け出しを両立するストライカーは少ない。自分はそれができると思っています。

Q4:好きなサッカー選手は誰ですか?
A4:バイエルン・ミュンヘンのFWロベルト・レヴァンドフスキ選手です。パワーがありつつ足元が上手く、足も速い。ああいう何でもできる選手が好きです。プレーを真似するというより、ゴールシーンを見てイメージトレーニングすることがありますね。

Q5:いわきの街の印象はどうですか?
A5:僕は生まれが千葉県の銚子。海沿いの町なのですが、いわきも海があって雰囲気や天候が似ているので暮らしやすいですね。落ち着いて毎日を過ごすことができています。

▼鈴木翔大選手のプロフィールはこちら

次回は奈良クラブ戦で同点ゴールを挙げた、FW岩渕弘人選手の登場です。お楽しみに。

(終わり)

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