見出し画像

I.G.U.P 検討委員会レポート vol.1 キックオフイベント振り返り

いわきFCの新たなスタジアムの整備に向け、2023年6月、スタジアム検討委員会、その名も「IWAKI GROWING UP PROJECT」が誕生しました。いわきに必要とされ、地域のレガシーとして残るスタジアムとはいかなるものかを、サッカー目線ではなく「地域の目線」で検討していくのが、このプロジェクトのミッションです。

この「検討」の現状を、広く市民、サポーターの皆さんに共有するため、いわきFC公式noteのスペースをお借りし、議論の進捗をお伝えするレポートを掲載していくことになりました。検討委員会の広報メンバーが交代で、どのような言葉が交わされたのか、どこまで議論が進んでいるのかなどを、私見を交えながらレポートしていきます。

第1回目となる今回は、このプロジェクトに関する基礎知識と、6月18日に行われた検討委員会の「キックオフイベント」の模様について、プロジェクトメンバーの小松理虔がレポートします!

キックオフイベントの模様

多士済々、集う

キックオフイベントは、6月18日に常磐上湯長谷町の「ドームいわきベース」で開かれました。まずはメンバー全員で顔合わせ、というイベントです。いわきFCのクラブハウスのすぐ隣にある、あの巨大な建物をご存知ですよね? あの建物の1階にあるカフェで開催されました。

まず皆さんにご紹介したいのが、検討委員会の役割。一言で言えば「スタジアムを検討すること」なのですが、大事なことは「サッカー」や「いわきFC」を主語にしないこと。主語は「地域」や「住民」です。単に「サッカースタジアム」を検討するのではなく、「いわき市や双葉郡の成長や発展、課題解決に寄与する空間」をさまざまな視点から議論していくことがミッションとなります。

この基本理念はメンバーの選考にも大きく影響しています。スタジアムについて検討するというより、「地域に必要な空間」について議論するという性格が強いので、スポーツやサッカーの専門家はそんなに多くなくていい。むしろ必要なのは、地域でさまざまな活動をしている人たち、地域の声を届けてくれる人たち、ということになります。

検討委員会で会長を務める大倉さん
座長の上林先生。大阪からはるばるお越しいただきました!

委員会の会長には、いわきスポーツクラブの大倉智代表が、座長には追手門学院大准教授でスタジアム建築の第一人者でもある上林功先生がそれぞれ就任。サッカーとスタジアムの専門家は、この二人くらいですが、サッカーのスタジアムの専門家の「少なさ」に、理念がいかに大切にされているかが感じられるかと思います。

GROWING UP PROJECT メンバー
会長:大倉智さん(株式会社いわきスポーツクラブ代表)
座長:上林功さん(追手門学院大学准教授)
メンバー:金澤裕子さん(アーティスト)、桂田隆之さん(株式会社日本政策投資銀行地域調査部課長)、北澤卓さん(中小企業家同友会いわき支部理事)、西丸亮さん(NOT A HOTEL株式会社)、末永早夏さん(株式会社ethicafeオーナー)、菅波香織さん(弁護士・未来会議事務局長)、高橋大吾さん(いわき青年会議所理事長)、田子英彦さん(いわき経済同友会副代表幹事)、南郷市兵さん(大熊町立学び舎ゆめの森校長)、原田洋平さん(国土交通省東北地方整備局磐城国道事務所長)、福迫昌之さん(東日本国際大学副学長)、藤島悠太さん(株式会社正木屋材木店)、前野有咲さん(ヘキレキ舎アシスタント)、三上健士さん(Guesthouse & Kitchen Haceオーナー)、宮本英実さん(コミュニケーションプランナー)、村田裕之さん(磐栄ホールディングス株式会社代表取締役)、横山和毅さん(認定NPO法人カタリバ・双葉みらいラボ拠点長)、吉田学さん(HAMADOORI13代表理事)、そして私、小松理虔
オブザーバー:半澤浩司さん(福島県いわき地方振興局長)、山田誠さん(いわき市総合政策部長)

メンバーに加えられたのは、いわき市や双葉郡の経営者、弁護士、教育関係者など20人(ぼくもメンツに加わっています)。年齢や職業、得意とすることや専門性もバラバラですが、それぞれ地域に根づいた活動をしていて、その意味で「それぞれの地域の専門家」と言えるのかもしれません。それぞれ異なるバックボーンがあるので、多彩で活発な議論に期待大です!

検討会メンバー、株式会社ethicafeの末永早夏さん
検討会メンバー、いわき経済同友会副代表の田子英彦さん
リモートでご参加いただいた宮本英実さん

※1 厳密に紹介すると、GROWING UP PROJECT には「分科会1」と「分科会2」があります。分科会1は、スタジアムのコンセプトを徹底して議論(今回紹介しているやつ)。今秋立ち上げ予定の「分科会2」には、事業への参画を希望する地域の経済界、企業関係者が加わり、さまざまな検討をする形になります。

※2 さらには、今後「ユースプロジェクト」も立ち上がってくる予定です。中高生を中心に未来世代にスタジアムのあり方や希望を検討してもらうことを予定しています。大熊町立「学び舎 ゆめの森」の南郷先生や、中高生支援のスペシャリスト、カタリバの横山さんなど、教育関係の仕事に就いているメンバーに期待が寄せられます!!

スマート・べニューって、なんだ!

メンバーの自己紹介につづいて行われたのが、座長である上林功先生のレクチャー。上林先生は、建築設計事務所を経て、現在は大学の教壇に立つスタジアムの専門家です。広島カープの本拠地である「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島」の設計にも関わったそう! その上林先生から、スタジアム建設の現状整理、海外の先行事例の紹介などをしていただきました!

MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島

上林先生からまず提示されたのが、スタジアム建設に関する、基本的な考え方です。ちょっと整理してみましょう。

2000年代。景気の低迷などもあり、いわゆる「ハコモノ行政」に対する批判が全国で強まります。当時のスタジアムは、野球なら野球、サッカーならサッカーと、ある特定のスポーツの種目にしか対応できず、試合がない日はほとんど使わない、というところも多くあったためです。

しかし、2002年の日韓ワールドカップでも実証されたように、スポーツにはとてつもない集客力があり、飲食や宿泊、観光など地域の産業を活性化させる力があることもわかってきました。スポーツを「産業」と見立て、成長産業時位置づけることで、地域活性化の起爆剤にできるのではないかという動きが生まれます。これが「スタジアム・アリーナ改革」です。

スタジアムをつくろう! 完成して終了! ではなく、そのスタジアムを使ってなにをするのか。その箱をどう使い、どう運営するかのが大事であり、そうした議論に地域の関係者が加わり、実際に地域の人たちによって活用されることで地域のシンボルになっていく。地域の「誇り」を育てるためにもスタジアムやアリーナは有効だ、というわけです。

昨今のスタジアム・アリーナ改革で、基本となる考え方が「スマート・ベニュー」というもの。これは「まちの中核として、周辺の地域・エリア全体のマネジメントを含む総合的な機能を組み合わせたサステナブルな交流施設」を表す造語です。点じゃなくて面で考え、さまざまな機能を持たせた交流施設として、スタジアムを捉え直していこうということです。

たとえば、スタジアムの中に図書館があってもいい、幼稚園があってもいいし、観光案内所があってもいい。そうして機能を拡張することで、多様な人たちがスタジアムに集うことになります。周囲に飲食店やゲストハウスなどがあれば、試合後も人が集い、経済的な効果も波及していく。その空間づくりに、さまざまな民間企業に参画してもらうことで収益性も上がる…。

おおおお、スタジアムって、もはや「まちづくり」じゃん! 上林先生のお話を聞いていて、安直ですが、そう感じました。

震災後から「未来会議」を開催してきた菅波香織さんも検討会メンバーの一人

地域に求められるスタジアムを

このあと、上林先生から、「スマート・ベニュー」として機能する世界中のスタジアムをご紹介いただきました。個人的に刺さったものをいくつか紹介します。

アメリカ・サンノゼにあるPayPalパーク。ここはメジャーリーグサッカーのサンノゼ・アースクエイクスのホームグラウンドなのですが、なんとこのスタジアムは、「ロ」の形ではなく「コ」の字型。アウェイのサポーターが入るであろうゴール裏の座席がすっぽりと抜け落ちていて、そこに巨大スクリーンのついた芝生の「BBQフィールド」があるそうです! 

アウェイの観客席など要らぬ! BBQフィールドを作ろう! というのはなんとも合理的で、とってもアメリカンな感じ。実際に、ここで肉を焼き、ビールを飲みながらまったりと昼寝したり、観戦する人たちがいらっしゃるそう。休日の過ごし方として完璧ですね。

どんな機能を付与するか、なにを削るのかというところに、まさに「地域性」が現れるということかもしれません。その土地で必要とされているもの、これがなくて困っている、これがあったらみんなが集まれる。そういう機能を加えることができる、ということです。

もう1つ印象に残っているのが、スイスの名門、バーゼルのホームスタジアム、ザンクト・ヤコブ・パルク。なんと、スタジアムのすぐ隣に高齢者用の集合住宅(107戸)が整備されており、居住者専用の観戦エリアもあるのだそう。週末になると、孫や子どもがみんなでやってきて、ばあちゃんちでサッカー観戦。最高ですね!

スタジアムの地下にはショッピングセンターがあり、日常的に使う食品や雑貨などを購入できるのだそうです。いわきでいうなら、スタジアムの地下がマルトやベニマルがある感じ。試合がない日も買い物に行っちゃいそう。

ちなみにこのスタジアムの設計は、世界的に有名な建築家、ヘルツォーク&ド・ムーロンの設計! バーゼルは二人のふるさとであり、バーゼルに必要な機能を持たせたスタジアムを地元のために設計した、ということなのでしょう。とっても素敵!!

上林先生の話を聞いていると、ああだこうだと妄想が膨らんできます。スタジアムの中に、高校生の自習室があってもいいし、バンドが使えるスタジオがあってもいい、平日は試合がないんだから高齢者のデイサービスがあってもいいな。いや、大学のキャンパスみたいなものがあってもいい。子どもが遊べる施設があったらついつい通ってしまうかもしれない……などと次々に妄想が膨らみますが、最初はそれでいいということかもしれません。 

こんなことがしたい、あれがあったらいい、これをつくれば盛り上がるし、そういう妄想をしあうことに、たくさんの人たちが巻き込まれていく。つまり、スタジアムを考えることでコミュニティが活性化され、さまざまな人たちがつながっていく、ということでもあるのかな、と思います。

検討委員会メンバー最年少の前野さん
上林先生の話に耳を傾けるメンバーの皆さん

検討委員会のメンバーは、さまざまな領域から選出されています。メンバーがそれぞれのバックボーンから議論を重ねていけば、いわきらしい「スマート・ベニュー」が構想されてくるのではないかと思います。ぜひ今後の議論の行方にご注目ください。

新スタジアムは、ラボでありたい

というわけで、初回の打ち合わせは、上林先生の極上のレクチャーのおかげで、メンバー各々が妄想を膨らませる時間になりました! 最後に、会議の冒頭で語られた大倉会長からのコメントも紹介しましょう。

大倉会長がぶち上げるのは「ラボ」構想だ

大倉:「いわきFCのビジョンは『スポーツを通じて社会価値を創造する』であり、スタジアムは地域課題を集約する〝ラボ〟のような場でありたい。主語はいわきFCではなく地域だ」

12年前に震災を経験した浜通り地区。新しいまちづくりが始まったばかりの大熊町や双葉町などもあります。復興はまだ道半ば。スタジアムは、そこで生まれる地域課題を、民間企業や学校などの力も借りながら改善していく、そんな「ラボ」でもある。そんなカタチを大倉会長は思い描いています。

思えばスポーツとは、選手たちだけのものではありません。私たちにも開かれたものです。だれもが楽しめ、面白く、国や性別、障害の有無という垣根を越えて混じり合えて、そして健康な生活を支えてくれるもの。

そんなスポーツの力を借りながら、よりより地域にしていくためのアクションが生まれたり、企業と連携してサービスが生まれたり、多様な連携が生まれたり。そんなまちづくりの中心にスタジアムがある……と考えると、なんだかとてもワクワクしてきます。

皆さんそれぞれに妄想のスイッチを入れる時間になったはず

もちろん、妄想だけでスタジアムは作れませんし、「絵に描いた餅」では意味がない。ですが、うまそうな餅の絵が描けなければ、だれもついて来てはくれません。だからまずは、うまそうな餅を考えてみる。そうして一旦風呂敷を広げてみたあとで、専門家の力を借りながら、いい塩梅に、それを畳んでいく。そんな流れで進められたら最高なのかもしれません。

今後は、浜通り地区に起こりうる「未来課題」なども視野に入れながら、これからの時代に求められるスタジアムの役割や機能を考えていくことになります。夏休み期間中は上林先生も大学が休みですので、さらに議論が進展していくはず。ぜひまたこちらのレポートも、覗きに来てみてください。

長文にもかかわらず、ここまで読んでいただきありがとうございました! それでは初回のレポートはこの辺りで。以上、報告は小松理虔でした!

「サポートをする」ボタンから、いわきFCを応援することができます。