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【特別企画】プレイバック福島ダービー③2021年/田村雄三

5月4日のJ3第8節、そして8日の天皇杯福島県代表決定戦。いわきFCは同じ県のライバル・福島ユナイテッドFCとのダービーマッチ2連戦を戦います。

福島県ナンバーワンクラブの座を巡る熱き2連戦に際し、ダービーのこれまでの激闘を、コーチ・渡邉匠、フロントスタッフ・平澤俊輔、強化部スポーツディレクター・田村雄三の3人が振り返る特別企画。

第3回は、2017年から2021年まで監督を務めた田村雄三が、昨年の戦いを語ります。

■2021年5月9日 いわきFC 2-0福島ユナイテッドFC

第26回福島県サッカー選手権大会 兼 第101回天皇杯全日本サッカー選手権 福島県代表決定戦 決勝

2021年5月9日 於:とうほう・みんなのスタジアム
いわきFC 2-0 福島ユナイテッドFC

【スターティングメンバー】
GK:坂田大樹
DF:嵯峨理久/小田島怜/日高大/黒澤丈/黒宮渉
MF:宮本英治/山下優人
FW:鈴木翔大/岩渕弘人/古川大悟

【SCORING】
13分 岩渕
34分 岩渕

チームが現体制となった2016年以来、両クラブは天皇杯福島県代表決定戦でしのぎを削ってきた。いわきFCは2017年からは3連勝。2020年はコロナ禍の影響で中止となり、この年、福島県の覇権を巡って2年ぶりの対戦を迎えた。

天皇杯福島県代表決定戦に先立ち、両チームは2021年2月28日、Jヴィレッジスタジアムで行われた「東日本大震災メモリアルマッチ 福島ダービー」で激突している。

J3の福島ユナイテッドFCと、JFLのいわきFC。カテゴリーは福島が一つ上。だが意識は違った。試合前、当時監督を務めていた田村雄三はこう発言し、闘志をむき出しにした。

「チーム立ち上げ当初こそ、福島ユナイテッドに勝って自信をつけた面はある。でも今は違う。ライバルというより、決して負けてはいけない相手。バチバチにやり合って圧倒する」

この年、いわきFCはJFL2年目。前年はコロナ禍の影響もあってリーグ戦が短縮される中、思うように力を出せず7位に沈んだ。チームは捲土重来を期し、例年にないハードなトレーニングを積んでJFL開幕に備えていた。

いわきFCはこの年、新システム4-1-3-2を採用。加入3年目の日高大と1年目の嵯峨理久。二人の"偽SB"が縦横無尽に動いてゲームを作る、新たな戦い方を模索していた。

一方の福島ユナイテッドFCは、この年に就任した時崎悠監督のもと、プレースタイルの変革に着手。目指したのは、それまでのつなぐスタイルからの脱却だった。

試合はいわきFCにとって、非常に厳しい結果となった。

開始早々から福島ユナイテッドFCの選手達は、いわきDF陣のビルドアップに前線から激しいプレッシャーをかけ、チャンスを作らせない。いわきにとってこの試合は、新フォーメーション4-1-3-2のお披露目。だがアンカーのMF山下優人がいい形でボールを受けられず、リズムをつかめない。そのまま試合が進んでいき後半アディショナルタイム。福島FWオリグバッジョ・イスマイラがゴールを挙げ、福島ユナイテッドFCが勝利した。

田村「なかなか思うようにいかないゲームでしたね。ユナイテッドさんがチャレンジャーの気持ちを出してハードワークして、球際も激しく来た。いわきFCの強みだったはずの激しさや気持ちで負けたことで、あらためて、もっとやらなくてはいけないと痛感させられました」

ファイティングスピリットをむき出しにして、いわきのお株を奪う激しいプレーを見せた福島。いわきはショッキングな結果を受け止め、存在意義を問われる厳しい負けを糧に、JFLで勝利を重ねていく。

そして迎えた天皇杯福島県代表決定戦。両チームは再び相まみえた。

JFLで無敗を維持し、自信を取り戻したいわきFCの新たな策は3バック。福島の3-4-3に対し、フォーメーションを3-4-1-2に変えて勝負を挑んだ。

3バック中央に黒宮渉、トップ下にはFW岩渕弘人。この起用が当たった。

田村「同じ相手に2回負けるわけにはいかない。プレシーズンに負けた時、天皇杯で戦う時には3バックで力勝負しようと決めていました。3バックは前年に使っていたのでなじみがありましたし、相手のよさを消すよりも、自分達の個の強みを出した方がいいと考えたからです。

DFでは対人の強さに自信を持つ黒宮をFWイスマイラにぶつけ、岩渕をトップ下に置いて自由に動かす。この形が上手くハマりました」

試合は13分、MF日高大からのパスを受けたFW岩渕が鮮やかな先制ゴール。そしてDF黒宮は福島FWイスマイラを徹底的なマークで封じ込み、ユナイテッドに攻撃の形を作らせない。34分には再びMF日高からのパスを岩渕が決め、2点目。

2得点を挙げた岩渕は前線のみならず中盤でもプレーできる能力の高さを示し、その後のシーズンでもたびたび攻撃的MFとして活躍。新しい可能性を拓き、今年は4-4-2の右サイドハーフとして先発出場を続けている。

試合はその後もいわきが優勢に進め、2対0で勝利。5年連続で天皇杯福島県代表の座をつかんだ。

田村「あの試合までずっと4バックを使ってきましたが、3バックでも十分いけるとわかりました。相手のフォーメーションによってよさが出ないなら自分達の形を変えてもいい。ベースの部分は変わらないので、それがはっきりしたことで選択肢が増え、その後のシーズンでは4バックと3バックを相手によって併用するようになりました」

この年、いわきFCはJFLで優勝してJ3昇格を果たした。快挙の裏にはプレシーズンの悔しい負けと、天皇杯福島県代表決定戦でのリベンジがあった。昨シーズンを振り返り、福島ユナイテッドFCという同県のライバルについて、田村はこう語る。

田村「ユナイテッドさんとのプレシーズンマッチで教わったのは『ひたむきさ』。本来、自分達がやるべきことをやられてしまった。ユナイテッドさんにチャレンジャーとしての精神を学ばせていただき、天皇杯の舞台で借りを返せたのは、その後のシーズンを戦う上でも非常に大きかったです。

そして今年。J3でのダービーが実現し、しかもお互いが上位にいる。これは本当にすごいことだと思います。

ダービーは相手がいなかったら成り立ちません。福島県を引っ張る2つのチームでいい試合をしてほしいし、いいライバル関係を今後も築いていきたい。ユナイテッドさんは常に気になる存在ですが、絶対に負けられない相手でもある。そして、いわきFCは常にチャレンジャー。この姿勢は、リーグの順位がどうであろうと不変です」

■新たなステージへと突入した福島ダービー。

ダービー2連戦の初戦は5月4日のJ3第8節。試合は序盤、いわきが再三チャンスをつかむも決められず、徐々に福島ペースに。だが福島も決定機をモノにできない、

村主博正新監督率いるいわきは卓越したパワーと走力、服部年宏新監督率いる福島はJ3トップクラスの洗練されたパスワークを見せ、試合は一進一退の展開となった。均衡が破られたのは79分。いわにMF山下優人のCKを交代出場したFW有田稜がヘッドで沈め、これが決勝点に。

この結果により、いわきFCは5勝2分け1敗の勝ち点17。松本山雅FCを得失点差で上回り、J3の首位に立った。一方、福島ユナイテッドFCは順位を4位に下げた。

両チームがJ3で肩を並べて行われた、初めての福島ダービー。試合が行われたとうほう・みんなのスタジアムには4501名が来場。福島ユナイテッドFCがJ3に参入して以来、最多の動員数となった。

新たなステージへと突入した福島ダービーは今後さらに多くの人を巻き込み、大きな渦となっていくだろう。

今年のダービー2戦目となる天皇杯福島県代表決定戦 決勝は、5月8日13時より、再びとうほう・みんなのスタジアムで行われる。

互いが手の内を知り尽くした同士の戦い。いわきFCが6年連続で天皇杯福島県代表の座に就くのか。それとも、福島ユナイテッドFCが6年ぶりに県王者となるのか。

2戦目も、熱き戦いを期待したい。

(終わり)


■第1回、第2回の記事はこちら↓


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