見出し画像

文化人物録58(夢枕獏)

夢枕獏(作家)
→SF、ホラー、時代小説、伝奇小説など変幻自在に手がけるエンタメ系作家の代表格。特に有名なのは安倍晴明ブームを呼んだ「陰陽師」シリーズだが、とにかく多作で作風も毎回別人が書いているかの如く多彩さ。僕は夢枕さんのファンというわけではなかったが、お会いしてみて創作意欲のすさまじさに驚嘆した。まさに作家になるために生まれてきたような人である。

*インタビュー、「大江戸恐龍伝」について、想像力とは?(2013年11月)

・大江戸恐龍伝は長年温めてきた話です。ゴジラから着想しました。僕は映画のゴジラを1作、2作とみるうちに、なんだか怖くなってきたんです。荒ぶる神は人間のことを許さないのではないかと。ゴジラってそういう次元で語られるべき作品です。僕としては黒澤明監督がゴジラを撮れば理想の作品になると思ってました。近代兵器でも倒せないゴジラ。でもこれはもちろん実現しなかったので、それでは自分で書こうと思ったのが最初です。

・ゴジラのようなものを現代でリアルに描くのは大変な苦労があるので、設定を江戸時代にしようと考えました。そして主人公は平賀源内にしようと決めていました。1971~72年に放送されたNHKのドラマ「天下御免」のイメージです。山口崇さんが源内を演じてました。

・話の大枠を決めてからは、むしろ源内を中心にしようと考えました。源内という人は今でこそエレキテルの発明などすごい人という印象ですが、当時は失敗の連続でした。時代にシンクロし損ねた男です。そう考えると、源内と恐龍は同じような存在なのではないかという考えに至りました。

・源内の俳句に「功ならず 名ばかり遂げて 年暮れぬ」というものがありますが、本人もやりたいことはできず、気づいたら年が暮れて50歳になってしまった感慨をうたっています。江戸の社会からは飛び出た存在だったといえます。江戸の街を壊す恐龍と源内を重ね合わせなければという思いがありました。たまたま荒ぶる神として恐龍が現れますが、これは源内のリセット願望の表れといえると思います。

・大江戸恐龍伝は最初普通にゴジラっぽい話ですが、だんだんキングコングのようになっていく。そして恐龍の周辺にいる人間がストーリーの中心となり、心情に深入りしていく。全5巻と長い話ですが、暗い話にはしたくなかった。そこで沖縄を使って理想郷である「ニルヤカナヤ」を登場させることにしました。架空の島とはいえ、事実をちりばめて嘘だとわからないような設定にしたいと、資料をいろいろ集めました。沖縄には「おもろそうし」という琉球時代の歌集がありますが、そこからニルヤカナヤに行く歌を入れることにしました。

・空想力とは想像する力です。想像できないと人の痛みがわからない。東日本大震災は大変な災害でしたが、災害に遭った人の気持ちに踏み込むとき、重要なのが想像力です。体験していないものを想像力で補う必要があります。元々人間には想像力が備わっています。人間だけが神から与えられている。人間は物語を作らずにはいられない生き物なのです。ドラマによって宇宙を解釈したのが神話であります。特に八百万の神がいる日本ではいろいろな神がいて、ITやネット、ゲームなど影響を受けているものは山のようにある。ですが想像が入り込む余地がどんどんなくなっているように思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?