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文化人物録63(鴻巣友季子)

鴻巣友季子(翻訳家)
→国内で最も著名な英語翻訳家の一人。南アフリカのノーベル賞作家ジョン・クッツェーやオランダの大作家セース・ノーテボーム、アメリカのトマス・クック、イギリスのヴァージニア・ウルフなど世界的作家の翻訳を多数手がける。エミリー・ブロンテ「嵐が丘」やマーガレット・ミッチェル「風と共に去りぬ」の新訳も話題となった。村上春樹をはじめとする日本の作家にも詳しく、文芸評論の分野でも精力的に活動する。僕自身も文芸・書籍担当の時は大変お世話になり、翻訳文学やノーベル文学賞関係の話など、なにかと相談に乗っていただいた。何よりも素晴らしいのは、鴻巣さん自身、文学が大好きだから翻訳の道に進んだというのが見ていてよくわかることである。このようなエネルギーに満ちあふれた翻訳家の作品なら、面白くないはずがない。

*翻訳文学の名作について(2013年)

・南北戦争のさなか、米南部で激動の人生を送る気性の激しい女性、スカーレット・オハラの半生を描いたマーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」。ビビアン・リー主演で映画化され、その名が一気に知れ渡ったこの作品は私にとって重要な小説だ。
 本作は1936年に米国で刊行され、日本でも38年に大久保康雄訳(竹内道之助共訳)が刊行された。独特の技巧を駆使して書かれた大作をわずか2年で翻訳してしまうあたり、すごい技量だと感じた。
 私は現在、この作品の新訳に取り組んでいる。映画や続編で作品を知った人にも、「風と~」の原文の素晴らしさを再認識してもらえるような作品にしたいと考えている。

・ジェイムズ・ジョイスの「若い芸術家の肖像」(丸谷才一訳)も長く愛読している。丸谷さんの翻訳が優れているのは言うまでもないが、2009年に集英社から刊行された改訳版の解説に感銘を受けた。解説を読んで私が30年近く抱いていた疑問が氷解した。

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