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【名著紹介】『人間の建設』について【其の一】

日本を代表する「知の巨人」による対談本

さて、今回は【名著紹介】ということで、

数学者・岡潔と、文芸評論家・小林秀雄による対談本である

『人間の建設』

を取り上げたいと思います。

表紙から明らかなように、二人の代表的な昭和の「知の巨人」による、

多岐にわたる内容の対談が展開される一冊です。

本書との出会い


私がこの本を初めて目にしたのは、

大学生協ショップの本屋で平積にされていたものでした。

外山滋比古さんの『思考の整理学』などと並んで、

「新入生なら全員読め」と言わんばかりの扱いでしたね。^ ^


ですが新入生として最初に手にとって読んだ当時は、

この対談内容の高さや深さに到底追いつけるわけもなく、

ただなんとなく流し読むようにして終わってしまいました。

もっと言えば、巻末の脳科学者の解説を読んで納得した気分になった程度です。^^;

岡潔「数学は情緒である」


その後でしばらくして、岡潔の残した言葉として有名な、

「数学は情緒である」

というものを知りました。


そこから『春宵十話』(角川ソフィア文庫)という名著にも巡り合いました。

この一冊だけでも何周(何十周?)読んだかわからないほどです。

「座右の書」に挙げるとしたら、この一冊になるかもしれません。

この本についてもまたいつか、ご紹介申し上げたいと思います。^ ^


本書の対談で何が明かされたのか?


対談ということで、一見すると纏まりがないというか、

話の要点は何なのか、掴みにくい印象を受けるでしょう。

新入生当時の自分もそうでしたので。^^;

「高尚な雑談」とも評される所以ですね。


もちろん、読む人によって受け取り方は様々でしょうし、

読書体験から何を得るのかも、制限されるものではありませんが、

個人的に特筆すべきポイントだと感じたのは、

岡潔=数学者【理系】

小林秀雄=文芸評論家【文系】


と一般に大別される中で、その枠を超えた一致点が多々見出せることです。


文理の違いはあれど、「知の巨人」という点では同等に伝説的な両者が、

「世界全体の知力が低下している」

と警鐘を鳴らしている点は見逃せないでしょう。


岡 世界の知力が低下しているという気がします。日本だけではなく、世界がそうじゃないかという……。

『人間の建設』p.23「国を象徴する酒」より

それが何によってわかるかというと、

・絵画、音楽などの芸術

・日本酒などの味覚

総じて「美」の世界です。

岡 芸術はくたびれをなおすもので、くたびれさせるものではないのです。
いまの絵かきはノイローゼをかいて、売っていると言えるかもしれませんね。
そういう絵をかいていて、平和を唱えたって、平和になりようがないわけですね。

『人間の建設』p.18「無明ということ」より


「真善美がわからない」という時代状況のことを

「功利主義」という言葉(概念、イデオロギー)を用いて説明されています。

岡 世界の知力が低下すると暗黒時代になる。暗黒時代になると、物のほんとうのよさがわからなくなる。真善美を問題にしようとしてもできないから、すぐ実社会と結びつけて考える。それしかできないから、それをするようになる。それが功利主義だと思います。
(中略)
このままだとすると、人類が滅亡せずに続くことができるのは、長くて二百年くらいじゃないかと思っているのです。
世界の知力はどんどん低下している。それは音楽とか絵画とか小説とか、そんなところにいちばん敏感にあらわれているのじゃなかろうかと思うのです。音楽だって絵画だって、美がわからなくなっている。

『人間の建設』p.33「数学も個性を失う」より


この対談が行われたのは昭和40年(1965年)のこと。

それから60年近く経った現在においてこそ、

この対談で語られた内容の価値が改めて見直され、

注目されるべきであると思いました。


【其の一】としましたのは、

このまとめが一回で済むものでは到底ないだろうとの見立てからです。^^;

続編をお楽しみに。。。

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