ものを長く大切に使う、日本の文化を知ったお話
以前、友人の父親から「棗(なつめ)」という茶器(漆器)は使い込むほどにその美しさが増すことを教えてもらい、感銘を受けました。
日本にはそのような精神は根付いていると思うし、ものがあふれる時代だからこそ、そんな文化を大切にしたいものです。
使い込むほどに光沢が出て、より美しくなる棗
棗は手の中に収まる程度の小さな抹茶用の容器。植物の棗に似た形であることから、その名が付いたといわれています。
友人の父はお茶が趣味で、友人宅に遊びに行ったときに抹茶を振る舞ってくれました。棗を知ったのはそのときです。
それ以前にも茶室でお茶をいただいたことはあるので、棗は見たことがあると思いますが、そのときに初めて名前や用途を教えてもらいました。
色鮮やかな布に包まれた漆黒の棗には深く美しい光沢があり、ひと目見て高級感がありましたが、高価なものでないから遠慮なく触ってよいとのこと。
棗は人が触れることで手の脂が染み込み、使い込むほどに美しさが増していくといいます。だから多くの人に触ってもらった方がよいというのです。
ものは経年劣化するのが当たり前と思っていた私には、使えば使うほど劣化どころか進化していくという考え方はとても衝撃的でした。
十数年後、棗に着想を得た作品がコンペで受賞
それから十数年後の2015年、福井県鯖江市が「鯖江うるしアワード2015」というデザインコンペを開催。「うるしのある生活」というテーマで、うるしを用いた製品のアイデアを考えるというものでした。
すぐに思い出したのが、あのとき教えてもらった棗です。コーヒーが好きだったので、その2つを組み合わせてアイデアを練ることに。
コーヒーは世界的に愛される飲み物で日本人も大好き。生活にも浸透しています。そして棗に着想を得たコーヒータンブラーをデザイン。「なつめタンブラー」と名付けました。
棗を縦に伸ばしたような形で、上蓋は湯呑になっていてコーヒーを注いでのんでもよいし、タンブラーからも直接飲めます。
なつめタンブラーは、最優秀プロダクトデザイン賞に選ばれました。
過去の日本から学びたいこと
現在の日本は平和な時代が長く続き、戦後と比べて犯罪率も低くなり、テクノロジーの進歩もあって世界有数の住みやすい国になっています。
色々と課題はあるけれど、それでもこの時代に日本に生まれてきたことはとても幸運です。昔はよかったなんて思いません。
ただ循環型社会という点に関しては、過去から学ぶべきことが大いにありそう。住居、着物、道具、食器などは、木、土、紙、鉄など、自然に戻したり、再利用できるものからできていました。
刃物は小さくなるまで研いで使い、割れた陶器はかなつぎし、漆器ははげれば塗り直しといった具合にあらゆるものを無駄なく使い切っていたんですよね、昔の人は。それによって様々な職業が存在して、多くの人が職を得られていたのかなと。
そこまで回帰することは現実的に不可能だけど、ものを大切に長く使う、そういう姿勢を持っている企業の製品を買う、ということはできるんじゃないですかね。
ある程度、年齢を重ねてきたら、少し高くてもよいものが欲しいと思うようになりました。概して高いものには次のような利点があります。
・品質が高い
・長く使える(結果的に費用対効果が高い)
・メーカーのサポートがよい
例えば、過去に紹介したアーロンチェア。いまでも14万円ぐらいする高額なオフィスチェアです。
デザイン性が高いので所有欲が満たされるうえ、抜群のクッション性があって椎間板ヘルニアが発症したときも腰を支えてくれました。
アーロンチェアは12年保証。保証期間が切れてからでもオーバーホールのサービスなどを提供しています。一度利用しましたが、すべての部品を分解・清掃し、劣化している部品の交換も行ってくれて(もちろん有料)、満足度がとても高かったです。
よいものを作り、できるだけ長く使えるように支えてくれる企業が増えるといいなと思うし、自分もそういうものづくりがしたいと思います。
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