読書感想 ロバート・A・ハインライン「夏への扉」

 こんにちは。最近おもしろ映画の上映が相次いで大忙しの出羽イヴァンカです。そのうちこちらに感想を書きたいと思ってます。気持ちだけはある……
  それはさておき、『夏への扉』の実写映画がついに公開されましたね。皆さんもう見ました?私はまだ見てませんがなんだか評判よさそうですね。観に行った方、オススメだったらぜひ教えてください。
 タイムトラベルものの先駆的作品といわれるこの作品、SF好きならもちろんのこと、そうでなくても読んだことがある人は決して少なくないでしょう。本屋の店頭では映画公開に合わせた帯も巻かれており、これを機に読もうかな、と考える人もいるかも?何を隠そう私もこれを機に久々に本を引っ張り出してきました。媒体ですが今回も電子書籍版です。私のkindleライブラリには今現在だいたい600冊くらい本が入っているのですが、一番最初に買った本が『夏への扉』なんですよね。ちょっとエモくないですか?そうでもない?そうですか……
 ということで今回は、映画公開記念?と言うことで、『夏への扉』を紹介していきたいと思います。
今回は名作SFということでネタバレありです。ご注意!


ロバート・A・ハインライン 『夏への扉』 福島正実訳 ハヤカワ文庫SF

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 販売ページへのリンク(現在、kindleでは新訳版のみ購入可能です。旧版をお求めの方は紙媒体でどうぞ)
 

あらすじ
ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ。そんな時、「冷凍睡眠保険」のネオンサインにひきよせられて…永遠の名作。
(版元ドットコムより引用)

〇ここから感想(ネタバレあり)


 舞台は1970年のアメリカ。「6週間戦争」で東海岸は壊滅的な被害を受け、コロラドのデンバーに首都機能が移っているという設定です。
 文化女中器という(刊行当時としては画期的な)機械や冷凍睡眠、そして過去や未来へのタイムスリップを可能にする装置や2000年という未来の描写には心躍りますね。2000年には月世界への定期便が運航していたり、なんと風邪が一掃(!)されていて、鼻水を垂らす人がいなくなっていたりと、ロマンあふれる未来図が広げられています。風邪以上に厄介なウイルスが蔓延している現実からすればなんともうらやましい限りです。
 タイムトラベルものではありますが1970年から2000年と移動時間は30年とさして長くはありません。ですがハインラインがこの小説を書いたのが1956年ですから、きっと当時読んだ人たちは20世紀が終わるころの描写に夢を膨らませたことでしょう。というか1956年の小説ですよ?映画で言うと初代ゴジラとほぼ同世代の作品です。小説という媒体は科学技術に依存するところが少ない分、過去の傑作に対してともすれば最近のものであると勘違いしそうになりますよね。そこが面白い。
 今や西暦2021年。ダニィが冷凍睡眠で2000年よりもさらに先の時代を生きている我々にとって、ハインラインの描いた未来、21世紀の世界は、ダニィが「屈折する時間」や「多元宇宙」と呼んでいるような別の次元の未来であり、われわれにとってももしかしたらあり得たはずの未来なのかもしれませんし、あるいはすでに失われた未来でしかないのかもしれませんね。そうした未来図にノスタルジーを感じるといったような楽しみ方もできそうですね。
 ガジェットもイメージしやすく、宇宙的、哲学的な要素が少なめな点もありかなりとっつきやすいSFですよね。よく言われる話ではありますが、劇中活躍する文化女中機というマシン、実質ルンバなのところがありますよね。
 あと猫が大活躍してて大変良い。イヴァンカは猫派です。

〇夏への扉 好きポイント その1

 ここからは気に入ったポイントを何点か。まず最初に、単純に物語の展開が素晴らしい所ですよね!読み終わった後の爽快感!
 なぜピートはマイルズの家から脱出できたのか? なぜベルは未来で成功しなかったのか? 冷凍睡眠から目覚めたリッキィと一緒にいる人物は誰なのか? といったような伏線めいた描写を、未来へ過去へと時間を移動することと合わせてしっかりと回収していくという話の作りのうまさが光りますね。単にガジェットの新奇性やロマンティックさだけでなく、ストーリー展開のおかげで現在でも愛され版を重ねて、新たな読者を獲得し続けているのでしょうね。
 個人的にロバート・A・ハインラインという作家が書くSFはストレス値低めなお話が多いと感じます。宇宙の戦士とか特にね。イヴァンカは読後感を結構重めに見るタイプなので好きです。良くも悪くも物質的であり、気持ちのいいエンディングが多めの作家なので、お時間があればぜひほかの作品も読んでみてください。

〇夏への扉 好きポイント その2

 そして好きポイント2つ目。ここは賛否が分かれるところかもしれませんが、科学技術に対する無条件の信頼、未来は明るいものであるという観念が設定などの端々から見て取れるところです。

 そして未来は、いずれにしろ過去に優る。誰がなんといおうと、世界は日に日に良くなりまさりつつあるのだ (旧版p306より引用)

 物語のクライマックスの一文、私がこの作品を好きな理由の上位に食い込むパートです。この科学信仰!ポジティブさ!大好きです。
 ともすれば現実から目を背けていると言われるかもしれませんが、この思い切りの良さが好きですね。
 明日は今日より良くなる。人類の叡智はなんだって乗り越えられる。そう考えなきゃやってらんない日もありますよね。
 
 私の好きなSF作品の一つ『星を継ぐもの』にもこれと似たようなところがあるんですよね。本が手元にないのであいまいな記憶ではありますが、作中世界では科学技術の進歩により食糧問題、領土問題、宗教問題が全部解決したことになってます。ユートピアじゃんそんなの……すき……
 未来人?の我々としてはこうならなかったことに忸怩たる思いを抱くこともあるかもしれませんが、100年後今の新作SFを読んだ人たちも同じ気持ちになるかもしれませんね。


 ということで感想は以上になります。まぎれもなく不朽の名作である『夏への扉』、ぜひ読んでみてください。既読の方々に置かれましてもぜひ読み返してみてください。実写版本当に面白いか気になるよね……
 それはさておき、紹介のところに少し書きましたが本作、現在kindleストアでは新訳版しか売られていないんですよね。ビックリしました。私が持ってるのは旧訳版なのですが、購入できなくなってるかも……?何事も移り変わるということですね~。
 もうひとつおまけの余談なのですが、この間本屋で新版をチェックしたところ「文化女中器」という表現から〈ハイヤーガール〉という表現に変わっていたのですね。「女中」という言葉がダメだったんでしょうかね? 『夏への扉』でも未来では言葉が変わっていたという描写がありました。
 やはり言葉は日々変化していくものなのかもしれませんね。今しか味わえない感覚、大事にしていきましょうね。

 それではまた。ここまで読んでくれてありがとう。
 近くて遠いあなたの隣人、出羽イヴァンカより。願わくばあなたと私のこれからに、よき物語との出会いがありますように。

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