教育の難しさについて

皆さんは世界の大学ランキングを見た時、このように思うことはないですか?
何でこのランキングには日本の大学が入ってないのか?
欧米の大学ばかりで欧米偏重主義じゃないのか?


この問いの答えは評価尺度が違うからです。
日本人が考える評価尺度と
ランキングを定める基準となる評価尺度がずれているからです。
そしてここに日本と海外の教育の差が現れているのです。


それではその基準となる評価尺度とは何か?
ということですが、
これは学術論文の量と質です。
欧米の特にリサーチユニバーシティと呼ばれる大学は学術論文の量と質を確保することに最適化されています。
リサーチユニバーシティとは研究に力を注いでいる大学の総称のことです。


これに対して例えば日本の早稲田大学とか慶應義塾大学はいわゆるティーチングユニバーシティと言えます。
つまりそこで重視しているのはinstruction、指導です。
もっと砕けた言葉で言うとlecture、講義そのものということです。


アメリカのリサーチユニバーシティの概念は、
南北戦争の前に設立された歴史の古い大学です。
具体的にはハーバード、イェール、コロンビア、プリンストン、ペンシルバニアの各大学と5つの公立大学ミシガン、ウィスコンシン、ミネソタ、イリノイ、カリフォルニアです。
それに加えて歴史はそれらより僅かに短いけれど、設立当初からリサーチを徹底的にやる目的で作られたマサチューセッツ、ジョンズ・ホプキンズ、スタンフォード、シカゴ、コーネルの各大学を含めた15の大学を総称してリサーチユニバーシティと言います。


リサーチユニバーシティになるためには基礎研究を活動の柱とし、大学院が充実していることが必要となります。
それと同時にexternal income、外部収入が占める割合が大きいという特徴があります。


この外部収入とは研究開発費を外部からひっぱってくるという意味です。
例えば医療の分野では大学での研究開発プログラムは大学の予算から捻出される割合は低く、
医学研究の拠点機関である国立衛生研究所からgrant、補助金を獲得する必要があります。


リサーチユニバーシティの権力者にプログラムディレクターと呼ばれる役職の人が居ます。
プログラムディレクターの仕事は
なぜこれから我々がやろうとするこの研究に、
あなた方はスポンサーとしてお金をだすべきか?
ということを徹底的にレポートにします。


更に国立衛生研究所の予算はアメリカの連邦政府の予算から捻出される関係で、政府の予算削減などの対象になります。
するとプログラムディレクターが議会の予算委員会のメンバーに直接働きかけて予算を削らないで欲しいと説得することも多々あります。


もちろん国立衛生研究所のような公的な予算だけでなく実業界からもお金を出してもらいます。
例えば物理学の研究は航空製造会社ロッキードマーティンなどの防衛産業からお金が出る場合がありますし、地質学なら石油会社からのお金が出る場合があります。


つまりリサーチユニバーシティはそういう民間企業にとって大いに利用価値があるreserch&development、研究開発機関なのです。
直近の新製品開発には直接関係がないかも知れないけれど基礎研究を徹底的にやる機関です。

お金を出している民間企業と大学のプログラムディレクターは繋がりが強く、プログラムディレクターの下で研究開発をしていた学生が就職先を探すときはロッキードマーティンなどへと就職支援をするわけです。
自分の教え子がロッキードマーティンに居れば、
将来プログラムディレクターの仕事は一層簡単になります。


まあこのようにリサーチユニバーシティにはmover and shakerと呼ばれる、人を突き動かし、揺さぶれるような能力のある人たちが割拠しているというわけです。

よくある大学ランキングはリサーチに力を注いでる環境下で有能な人々によって作られる学術論文の量と質。
そしてそれらの論文が他の大学の研究者にどれだけ引用されているか?
というような尺度を評価基準に盛り込んでいます。


論文は基礎研究の強さを測る重要な指標です。
今までティーチングユニバーシティばかりに力を注ぎ、リサーチユニバーシティの育成に力を入れて来なかった日本の実態がランキングに反映されているという訳です。


今後より一層、経済のハイテク化、知識集約化はどんどん加速します。
その中で土台となる基礎研究を重視しない日本の教育が日本という国の国際競争力に与える影響は大きいと考えます。

日本の大学の世界ランキングでの地位の低さは偶然ではなく日本教育の大きな欠陥が招いた必然なのです。

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