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【感想】だが、情熱はある 7-8話


この記事は、ドラマのネタバレを含みます。


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君ね、その話面白いよ
人がね、本気で悔しかったり、惨めだったりする話は、面白いんだよ

8話より

 このセリフが、このドラマの面白さを表していると思う。私がよく見ているYouTuberさんが「つらいことも1年後には笑い話」と言っていたが、きっとそれに繋がるものがこのセリフにも詰まっている。

 なぜそれらが面白いのかと言ったら、それには純粋な気持ちが隠れているからだ。
 そしてその純粋さを、私たちは持って生きている。そして大人になるとその純粋さは、失敗したくない恐怖心から薄れてしまう。だから、純粋でひたむきな話は、面白い。いつの間にか忘れてしまうその感情が、救われるから。

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 ドラマの中では、たくさんの悔しさも、惨めな気持ちも伝わってくる。それは若林(髙橋海人)、山里(森本慎太郎)、どちらにも共通する。

辞めれるけど俺が辞めるって決めたことになんのが嫌なんだよ

7話より

 この言葉を誰かに言えるって、相当な信頼だなと思う。自分が行動に移すことは、責任を伴う。「~のせい」と言われる。でも春日(戸塚純貴)は絶対に自分の立場を曲げない。「任せる」の一点張り。「~のせい」になるのは、若林しかないのである。

 誰にでもある感情だけど、それを表に出すのはほとんどないんじゃないか。例えば、「遊びに誘う」とか「付き合う」とか。自分から誘って断られたり楽しくなかったりしたら自分のせいな気がするし、付き合おうと言った方が別れを切り出すと「じゃあ付き合うって言ったのは何だったのよ?」と言われてしまう。人は常に変わっていくし、その人だけが悪いなんてことは世の中にはない。それでも、小さな見栄は存在するのだ。

 なによりハイライトは、8話の映画出演もみ消し事件である。

高山「この仕事がおしずにとってプラスになるっていうのは、わかってるよね?」
山里「はい」
高山「なのに断るの?」
山里「はい」
高山「なんで?」
山里「だから、僕と、しずちゃんの差が広がるだけだからです。ネタは、僕が書いてるんですよ。頑張ってるのは僕です」

8話より

 森本さんの迫真の演技と言ったらもう、というところは一旦置いておいて、なんとも印象的なシーンである。

 「頑張ってるのは僕です」という言葉、気持ちに共感しない人なんているんだろうか。私はものすごくした。それを山里のように外に出したことはないけれど、「自分だって頑張ってる」という気持ちはどんな人にでも存在する気持ちではないか。

 社会の中で生きていくと、必然的に比較され続ける。自分よりもっと努力している人も知っているし、天才的な能力を持っている人も知っている。信じたくはないけど、運がいい人もやっぱりいる。そうして比較された自分を見て、もっと成長しなければいけないと思う反面「もう私だって頑張ってるよ」とも言いたくなる。

「僕は、このドラマで山里さんのことを“気持ち悪い人”って思わせたい。
 当時の山里さんのキャラクターは“気持ち悪い、嫌なヤツ”。その思いって今の山里さんには誰も抱かないから、だからこそ当時のみんなの気持ちを引っ張り出したい。
 視聴者に“山ちゃんキモい!”と思ってもらえたら、それが最後“今の山里さん”につながってくるから。下から上がった時、その差があればあるほど今がより輝く。
 だからどれだけ下を深く作れるか。それができたら僕の中での山里亮太役は花丸です」

Real Sound 記事【森本慎太郎&髙橋海人『だが、情熱はある』反響を語る 「木村拓哉さんが見てくださった」】より

 インタビューにもあるように、この「気持ち悪さ」「情けなさ」みたいなものは、ドラマの核をつくるものである。

 結果的に今評価されている人たちだからこそ、ドラマの中でどんなにつらく苦しいことがあっても、「めでたし、めでたし」になるんだと思えることがこのドラマの安心感に繋がっている。

 だからこそ、ドラマ中では存分に負の部分を押し出せるのだろう。山里の言葉には、自分がネタを書いているのに自分は必要とされない理不尽さ、しずちゃんと自分の差が開くことの悔しさが煮詰まっている。そして、その表情の演技が迫真さを増している。

 きっと私も持っていた。なんであの人にあって私にはないのか。私だって頑張ってるのに追い付けない。世の中を呪うように、その理不尽さと悔しさで心がぐちゃぐちゃになったこと。
 でもそんなこと、今は忘れてしまっている。そんな強い気持ちさえ持てずにいる。それは、執念と引き換えに、自分の安定を選んだ証拠だ。

 このシーンで胸を打たれるのは、どこかに置いてきたそのひたむきさに気づかされるからだ。誰かを蹴落としたとしても、それが例え相方でも、自分が売れたいという執念。ただの綺麗事では響かない「純粋さ」が、このワンシーンに詰め込まれている。

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 がむしゃらに何かをし続けるのは、つらく苦しい。だから物語は輝く。

 こういうドキュメンタリーのようなドラマはこれまで苦手だった。自分の小ささに気づかされるから。綺麗な物語を聞かされて、私なんでこんなに頑張ってないんだろうとか、嫌なことまで考えてしまう。

 でもこのドラマは違う。負の部分も見せてくれることが、視聴者の弱い部分まで掬い上げてくれる。誰しもが変なところを持っているんだから、と。そのままで進めと。

 8話冒頭、SixTONESの「こっから」が流れたとき、「今回は何かあるな(衝撃的なラストでエンディングがない)」と思ったが、まさかEDにKing & Princeの新曲が来るとは思わなかった。粋な演出をしてくれるなぁ! 次話も楽しみに待つ。

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