小説/シャッターの向こう側で 【U'z】#3 何か忘れてないか?

【あらすじ】

日花島の海で瓶を拾った命人。
中には 地図が描かれた紙が入っており
「宝の地図」だと目を輝かせた。

その頃 羅希はダンスのレッスンから
帰宅したところだった。


鴨ノ端羅希 3月21日 火曜日 午後3時 
     愛知県 冬雫町 喫茶店「ラ・メール」
 
「ただいまー!」
「おかえりなさい」「あら兄ちゃん、来たのかい」「お疲れ様ぁ」
「ありがとうございます!」

 ここは僕の家で、僕の家族が経営する喫茶店。おやつの時間なのか、アフタヌーンティーの習慣とやらがあるのか、ともかくたくさんのお客さんがお話ししていた。
「羅希ー、おかえり」
「お母さん!ただいま!」
 厨房からお母さんが顔を出す。
 隣では、妹の紬(つむぎ)がトレーにコーヒーを乗せていた。
「紬も。お疲れ様、ただいま!」
「お、おかえり、お兄ちゃん」
 俺は微笑みながらエプロンに着替えに行く。

 自分の部屋にダンスの用具を置いて、スマホやエプロンを持って、スタッフルームに向かう。
 ロッカーに全部しまって、変わりにエプロンを取り出す。
 丁寧にリボン結びをしていたその時、僕のスマホが突然光って、通知音が鳴った。
「なんだろう?」
 僕のスマホに通知が来るのは珍しい。特に使う用途は無いし、あっても家族と必要最低限の会話をしたり、数人の友達と繋がるくらいだ。

 それはメッセージアプリ・connectからの通知みたいだった。相手はみこちゃん(命人のことだよ)。開いて見ると、フキダシには「今日、グループ通話できるかな」と書いてあった。
 グループ通話って、珍しい。ちなみにグループは、僕と、みこちゃんと、れおくん(冷央のこと!)の三人でできている。
「なんかあったのかなあ?」
 僕は「いいよ。8時でもいい?」と打った。
 そしたら、すぐに「ありがとう!」と返事が来た。
 
「早く聞きたいなっ!」
 スマホの電源を落として、リボンを結び直す。
 楽しみにしながら、僕はスタッフルームのドアを開けた。

歩堂蘭 3月21日 火曜日 午後4時
            愛知県 冬雫町 歩堂家

「ただいまあー、、、」
 へとへとになりながら、ドアに掴まる。
 本当に疲れた。2時間の指導を受けて、体力は限界に達している。
「おかえり!お風呂入る?」
「入るー」
 リビングにバッグを下ろして、バスタオルと部屋着を持って、風呂場に向かった。

 ボクは、柔道で疲れ切った身体を綺麗に洗って、お湯で温めた。風呂から出て、服を着て、紙をかわかす。ヘアバンドで前髪をあげて、さっぱりとした状態で風呂を出た。

「ジュース飲んでもいい?」
「いいよー。好きなの取って」
 冷蔵庫を開けると、よく冷えた缶ジュースが並んでいた。ボクは、みかんジュースを手に取って、ソファに腰かけた。
 テレビをつけると、ニュースがやっていて、興味はなかったけど、観ることにした。
「─梅の花を見るために多くの人が訪れました」
 梅の花かあ。少し早くないかな?
 今日って何日だっけ、とカレンダーに目をやると、25日のところに鉛筆で囲った丸があった。そのとなりの26日には、ピンク色の花丸が付いている。

 25日は、ボクの友達が死んだ日で、墓参りに行くのだ。26日は、ボクの誕生日。ボクの友達は昔、山火事で死んでしまっている。その年の誕生日は、楽しいものではなかったのを、今でも思い出せてしまう。

 今年は土曜日かあ。柔道は火曜日と土曜日だから、少しずらして金曜日に行くことにする。
 その時には凪も行くから、予定を合わせておこう。あとで電話しようかな。

 ボクはぼーっとテレビを眺めながら、みかんジュースを飲んだ。
 
東雲冷央 3月21日 火曜日 午後8時
            愛知県 冬雫町 東雲家

「嶺央兄、友達と電話してきてもいい?」
「いいよー」
 お父さんと、餃子を美味しく食べて、歯を磨いたところで、嶺央兄にそう声をかけた。
 スマホを持って、通話すると、すでに二人が待機していた。

「おまたせ」
「あ、れおくん!久しぶり!」
「元気だった?」
「昨日会ったばっかりだよ、元気だよ」
「そうだったね」
 3人で笑う。「それで」と話を切り出したのは、みこちゃんだった。
「話したいことがあるんだ!」
「何?」「めっちゃ気になる!」
 お昼くらいに、通話がしたいと、通知が来てから少し心配していたけど、今のを聞くと、明るい声色で安心した。

「あのね。お昼にさあ、海から瓶が流れてきて」
「え?瓶が流れてきたの?」
 らーくん(羅希のことだよ)が聞き返す。
「そう。マンガみたいだよね笑。んでね、中に紙が入ってたんだ」
 そんなことあるんだ、と俺たちはびっくりする。
「なんて書いてあったの?」
「それがね」
 みこちゃんはもったいぶるように、間を空けた。
「宝の地図だったの!」
「「、、、ええ!?」」

鴨ノ端羅希 3月21日 火曜日 午後3時 
     愛知県 冬雫町 喫茶店「ラ・メール」

「ど、どういうやつ?」
 さすがに驚いた。すごい、宝の地図って本当にあったんだ!
「なんかね、地図に星マークが描かれてて、“とかしやま”って書いてあるの」
「と、とかし?なんて?」
「俺、調べてみる」
 とかしやま?そんな日本語、聞いたこともない。
 れおくんは、通話をそのままにして、なにやら調べている。
「あ、あったよ!」
「どう?」
 れおくんは嬉しそうに言っている。
「“とかしやま”は、三重県にあるんだって。木に土って書くやつと、木に堅いって書くやつに、山。杜樫山」
「、、、三重県かあ!」
 僕は感嘆の声をあげた。
 三重県は海が綺麗で、真珠が有名なのも知ってる。山から見る景色はどんなに綺麗なんだろう─。

「杜樫山、、、三重県、、、」
 みこちゃんがぼそっと呟くのが聞こえる。
「みこちゃん?」
「ああ、ありがとう、れおくん!で、俺そこにみんなで行きたいんだ!」
 これもまた魅力的な話だ、と僕は思う。
「宝探しだね!僕も行きたい!」
「俺も。素敵だなあ、そういうの」
 みんなが賛成する。
「やったあ!それじゃあ、今週の木曜日と金曜日、空いてる?」
「空いてるよ。らーくんは?」
「もちろん!」
「冬雫駅前に9時30分に集合しよう!」
「おっけー!」
「ん?2日ってことは、泊まり?」
 日時や集合場所が決まったところで、れおくんが言った。

「そうそう!テントは、俺が3人分持ってるから、駅で手渡すよ!」
「わーい、キャンプだ!」
「楽しみだね!」
 三重県に、宝探しに、キャンプ。
 明後日が待ちきれない。
「てことで、終わり!ごめんね、呼び出して」
「いいよいいよ、楽しみだし!」
「うん。また話そう」
「ありがとう、二人とも!また木曜日ね!」
「おやすみー!」「おやすみ」
 通話が終了した。

上水流命人 3月21日 火曜日 午後8時20分
           愛知県 冬雫町 上水流家

「、、、なにか、忘れてないか、、、?」
 大切なことを忘れてしまっているような気がしている。だけど、どれだけ深く記憶を掘ろうと、決して掘り出せないのだ。
「行けば、分かるはず。何を忘れているのか─」
 取りあえず、お母さんたちに報告しよう。
 俺は自室のドアを開けて、階段を下りる。

「─お母さん!」
「どうしたの?」
「あのね、俺、木曜日と金曜日、遊びに行く!」
「へえ、いいねえ。、、、誰と?」
「友達と!キャンプするから、テント持ってってもいい?」
「もちろん。勝手に持っていって」
「よし!」
 ありがとう、お母さん!
 これで3人で宝探しができる。部屋を去ろうとしたその時、「あ」とお母さんは呼び止めた。
「どこ行くの?」
 俺は笑顔で答えた。
「三重県だよ!」
「三重県、、、?」

 お母さんは考える仕草をする。そして、カレンダーに目を向ける。
「どうしたの?」
「、、、なんでもないよ」
「そっか」
 俺は特に気にせず、二階に戻った。

「やった、宝探し!」
 今日の昼拾ってきた瓶を持って、ベッドに飛び込む。
「見つかるかなあ」
 忘れていることも、星印のついた場所にある、宝物も。
 俺は瓶を高くあげて、わくわくしながら見つめた。

残夜凪 3月21日 火曜日 午後8時30分 
            愛知県 冬雫町 残夜家
 
「─もしもし、凪?」
「蘭ちゃん!こんばんは」
 電話の相手は、蘭ちゃんだった。
「やっほー。あのさあ、今度お墓に行くじゃん?」
「あ!そういえばそうだね」
 私たちは、とある友達を昔亡くしている。その子の命日は、今週の土曜日なのだ。
「で、ボク柔道あるから、日をずらしたいんだ」
「私もピアノあるから、ずらそうと思ってた」
「金曜日って行けるかなあ?」
「いいよ!金曜日は大丈夫!」
 私も蘭ちゃんも、土曜日には予定がある。
 少し早くはなってしまうけど、金曜日にしよう。

「じゃあ、10時くらいに冬雫駅に行こう」
「お花はどうする?」
「三重県の、いつもの花屋で買おっかなあ」
「分かった!」
「それじゃあまた明後日ね」
「うん!ありがとね、蘭ちゃん!」
 私がそう言うと
「またね、凪」
 と返ってきて、それから通話が切れた。
 スマホをリビングの机に置いて、お母さんに話しかける。

「お母さん!私、いつもみたいに友達のお墓参りに行ってくるね」
「あら、もうそんな日だったのね。─明後日ね。行ってらっしゃい」
「うん!」
 私は軽くスキップしながら自室に戻る。
 私の部屋に向かう途中の廊下には、軽快なギターの音と、なめらかに響くバイオリンの音が行き交っていた。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!
そういえばお久しぶりですね!
みかんづめはとっても元気でしたよ!
今月といえば修学旅行がすごく楽しかったです!
東京、神奈川を同い年の子たちと旅をするのは
なんだか新鮮でした(*´ー`*)

みなさんは最近 何か楽しいことはありましたか?

それじゃあ
またね!

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