内気なアカネは魔法使い ♯2 魔法使いになる
ヒカルくんの隣の席になる。
学校は相変わらず。
最近席替えをして、隣がヒカル君になった。
ヒカル君は皆より頭一つ分大きい。体重も、あかねの倍くらいある。
なにより、変な虫が大好きで、勉強はできないくせに、妙に虫に詳しい。それがカブトムシや、くもだったり、ゴキブリだったりもする。
そして、誰かに注意されたりすると、イチイチ理由を言って、また先生に注意されている。
最後は口をとがらせて「あーあ。つまんないの。」なんて言っている。
最初に面白そうと、ヒカル君の話を聞いたら、変な虫の話をずっとしてくる。
だんだん嫌になってきた。
そうすると、ヒカル君はあかねを攻撃するようになってきた。
隣の人と交換して、テストのマルつけをするとき、「えー。こんなので間違えちゃったの?」と、ニヤニヤしながら言う。
自分なんて45点のくせに!私は89点。
ムカついて、ムカついて、腹が立って仕方がなかった。
皆みたいに言い返したり、アイツ最低だよなー。って、軽く言えない。
嫌な気持ちの話を誰かにすると、興奮して泣いて大騒ぎをしてしまいそうになる。
それで、黙ってイライラしていると、すごく嬉しそうに見てくるんだ。
イライラして、消しゴムを強くかけたらノートがグシャッていって、しかも黒くなっちゃった。
泣きそうになりながらノートを伸ばして、消しゴムをかけて書き直した。
それを見て、またヒカル君が嬉しそうにしてる。
そのあと、一日中悔しくて恥ずかしくてイライラして、仲良しのなっちゃんに話しかけられても、イライラが抜けなくて、全然笑えなかった。
なっちゃんが悪いんじゃないのに。
楽しく笑いたいのに。
そんな話をお母さんにしたら、涙が出てきた。止まらなくて、後から後から涙が出てきた。
お父さんが心配して、部屋の周りをウロウロしている。
お母さんが最後に、
「ミカリさんのところに行ってみよう」とポツリと言った。
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アカネ魔法使いになる。
それで、なんと、ミカリさんから魔法を教わった。
ドキドキしたけど
「ここに座って。目を閉じて。」と、言われて座っていたら、「はい、いいよ。」て。
なにも変わらない気もするけど、神様とのパイプを太くしたんだって。本当はみんな、できるらしい。
それから毎朝、鏡に向かって魔法をかけている。
指をぐるっと回して
「怒らない、恐れない、悲しまない、正直、親切、愉快に。私は信念が強くなる」
そうつぶやくだけ。
前はヒカル君が嬉しそうに嫌なことを言ってくると、イライラして、ソワソワして、もやもやして、何も考えられなかったのに、今は、
「神様、どうか今だけ頑張らせてください。あかねをお守りください。ありがとう。ありがとう。ありがとう。」
と、頭の中で唱える。何回でもやる。悲しくなりそうなとき、頭の中で唱える。
そうすると、何も変わってないのに、ヒカル君が、あれ?て顔をする。
ヒカル君の顔を見なくても、しっかり見える。
ヒカル君の隣の席のゆきちゃんが普通に教科書を見たり、あかねの前の席のゆうとくんが何か書いているのも見える。
先生はなにか黒板に書こうとしている。
合氣道で、「目を動かさないで部屋の隅から隅まで見ている」を練習しているから分かるんだ。
前は、誰も見ないで!て、ヒカル君とあかねの鉛筆とノートしか見えなかったけど、今は教室が見える。
だからヒカル君がどれだけちっぽけで、周りの子が全然気にしていないって分かるんだ。
私は怒らない。って、確信してるんだ。
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発表会でミュージカル。皆に褒められる。
それからは、毎日が楽しくて。
今度、学校の発表でミュージカルをやることになった。
歌は結構好きで、踊りも楽しい。
学校で大人気の先生から、「お、あかね、いい声してるな。その調子!」と褒められた。
お母さんも張り切ってピアノを弾いて、一緒に練習してくれる。
学校の行きかえりも楽しくて、歌いながら踊りながら歩いてると言われた。
皆が、先に声をかけてくれるようになった。
都和ちゃんとの確執。
意外だったのが、元気で可愛くて、クラスで一番目立っている、都和ちゃんが、実は歌があんまりうまくないってこと。
都和ちゃんにも苦手なものがあったんだって、ちょっとホッとした。
そしたら、目が合った。
その日から、なっちゃんとあかねが話していると、都和ちゃんが、なっちゃんだけ呼んで皆で楽しく笑ったりするようになった。
発表が終わっても、続いていた。
皆、気が付かないみたいだ。
だから、あかねも、気が付かないふりをして、一人で、皆より先に行動するようになった。
誰もいないときに、こっそりなっちゃんが話しかけてきた。
聞こえないふりをしちゃった。何を話せばいいかわからない。
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