断片


 国道沿いのファミレスで僕と編集者は打ち合わせをしていた。机の上に原稿をおきながらああでもない、こうでもないと言いながらネタを出し合う。この編集者はかならずコーヒーの他にポテトとソーセージの盛り合わせを頼んだ。そして手を汚さないためかそれを箸でつまんで食べるのだが、その仕草がしばしば僕のことを異常に腹立たせた。時々、というか2回に1回にはパフェまで頼んだ。そのくせ「体脂肪がさぁ」とか口癖のように言うのであった。

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 ファミレス。高校の時も僕はファミレスで陽が暮れるまで話していたものだった。彼女と。そうだった。そんなことだってしていたのだ。一緒に帰ったことだって何度もあった。自転車の後ろに彼女を乗せたことだってあった。冗談で彼女が運転する自転車の後ろに乗ったことすらあった。寝入る彼女の頭を肩に乗せながらバスにゆられていたこともあった。断片。宝石のような断片を、僕は今でも現実よりもずっと確かな何かとして大事に胸に抱えている。それは腫瘍のように僕という存在そのものと癒着してしまって、決して離れることがない。

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 彼女は馬鹿だった。友達のために体を投げ出すなんて、そんなことはするべきじゃなかった。そんな事をする前に、まず僕に相談するべきだった。…するべきだったのだ。


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 あの男。あの男は彼女の体を舐めまわした。眺めつくし舐め尽し、ありとあらゆる突起をねぶり、ありとあらゆる凹凸をしゃぶり、嬲りつくしてしまったのだ。そしてそれに飽き足らず、その光景をビデオカメラにおさめた。テープにはご丁寧にラベルを貼りつけ、秘密の戸棚にきちんと番号別にならべた。

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 僕は奴の家からテープを盗み出した。彼女の肢体が映し出されたテープを。テープを。僕は盗み出した。奴は決して被害届を出すわけにはいかない。それは違法なもので、存在が発覚すれば彼の方も罪に問われてしまうことが確実だった。僕は完璧に仕事をやってのけた。


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 僕は自分を許したかった。だから現実とは違う結末の物語を描いた。途中までは現実と同じだ。ある2人の男女の高校生がいる。2人は仲むつまじかったが、お互い素直になりきれず恋人同士になるには至っていない。そんな時ある事件が起きる…


 結末は違う。結末では男が女を助けにくる。そして2人は結ばれるのだ。彼女の体は汚れることにはならない。彼女は間一髪で救われる。作者である僕と限りなく似通った男の子に救われる。現実とは違って。

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