存在Bへの手紙

 きちんとした文章が書けない。苦痛だよ。苦痛なんだ。そこにある世界を描き出せない。それがどんなに辛いことなのか、君に理解することができるだろうか?あるんだよ。すぐそばにあれはあるんだよ。引き出しを開ければ世にも素敵な物を取り出して、君に見せてやることができるということはわかっているんだよ。でもどうしても引き出しをあけることができない。…この比喩は正しくないか。比喩なんて死んでしまえばいいんだ。ちくしょう。どうだい、僕が「うまく文章が書けない」と書いたことの意味が君にも理解できたかい?


 君は存在している。ただそれだけだ。幽霊とは違う。幽霊は時に復讐する。時に恩返しする。君は何もしない。ただ存在しているだけだ。…しかしそれでいい。復讐は怖いし、たとえそれが恩返しだとしても…やはり一抹の恐怖は残ると思うのだ。だから君は存在でいい。


 君は存在している。それだけでなく、こうして僕の手紙も受け取ったというわけだ。少なくとも手紙を受け取る存在にはなったというわけだ。君は嬉しいのだろうか?いや、嬉しさなど感じるわけがない。嬉しさを感じる能力など持っていないのだから…。かわいそうだとは思うが、手紙では君にそんな能力を付与してあげることはできない。そして僕は君と実際に触れ合うつもりは毛頭ない。ただ手紙を送るだけだ。それだけが僕にできることなのだ。


 僕は君に何かを問いかけようと思ってこの手紙を書いたわけじゃない。ただ愚痴をこぼしたかっただけだ。だから君は何も答えなくていい。…どうしてもしたいというのならばしてもかまわない。それは君の自由だ。ただしこの手紙に返事を出す責任は君にはない。そこのところだけはわかってくれ。読み終わったらこの手紙を火にくべてしまってくれたって構わない。それで何の問題もないのだ。ただ僕は「何も書けない」ということを誰かに言いたかっただけなのだから

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