幻想雑文


 さまよえるユダヤ人は何人もいた。


 たとえば1人はアラビアの砂漠に残り、たとえば1人はイベリア半島を目指して旅立った。シチリアや、中国へ旅立った者もいたかもしれない。


 そして、カフカス山脈を越えてカスピ海沿岸の地域を目指した者もいたかもしれない…

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 嘘を語るのと、真実を騙るのとでは一体どちらがより思い罪なのであろうか?悪びれもなく放たれる嘘と、おずおずと申し訳なさそうに差し出される真実、あなたはどちらを受け入れるだろうか?


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 僕たちは所詮それぞれの幻想を生きているにすぎない。…必要なのは幻想同士が干渉しあったときに生じる「騒乱」をいかに平穏におさめるか、ということなのだ。必要なのは多分…礼儀なのだ。

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 隣人に世界地図を描かせよ、そして歴史年表を書かせよ。するとその人がいかに奇怪な世界の中で生きているのかということが白日の下にさらされるであろう。

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「あたしのことを愛してる?」

「多分」

「多分?」

「俺はいつでもポケットの中にサイコロをしのばせているんだ。そのサイコロを転がして、6の目が出た時には…愛している。それ以外の目が出た時は…」

俺は口をつぐんだ。

「愛していないというわけ?」

俺は何か言うかわりにサイコロを転がした。3の目が出た。もう1度転がすと今度は2の目が出た。それから5回ほど転がしてようやく俺は6の目を出すことに成功した。しかしその時にはすでに彼女の姿は消えてしまっていた。カーテンの隙間から光が差し込んできているのが見えた。もう朝なのだ。

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 タクラマカン砂漠をジープで縦断する。ロブノール湖周辺を調べ、そして後漢時代の木簡を発掘する。それが僕のささやかな夢であったのだ。


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