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「ここにうちを入れたらアカンやろ・・・」

パン屋さん時代に考えたこと、やってみたこと、使ったもの 8.

これまでとまったく同じ材料を使っているのに・・・と愕然としたぼくは、この経験を機にますます一般的な材料で十分という思いになった。
逆にいえば、あの試作のときにこれほどの結果を得られていなかったら、もっと良い小麦粉を、と考え探していたかも知れない。

ぼくはポーズでなく「こだわりがない」とずっと公言してきたけれど、それを象徴するような取材の話がある。

昔、食の専門誌である料理王国さんからパン特集の取材依頼をいただいた。
このときの料理王国さんは、近年目にするものとは少し毛色が違い、後に料理通信さんを立ち上げられた編集者さんたちによって刊行されていたものになる(この辺りのことは、大人の事情なので割愛)。

当時の料理王国さんといえば食に携わるお仕事をされている方なら多くの方が憧れ、一度は載ってみたいと思う専門誌だったと思う。
ぼく自身、創刊号から一冊たりとも買いそびれることなく、その後の料理通信さんまで全て収集し続けてきた。
途中、フランスへ料理の修業へ行くことになった約2年間は、いまのようにデジタル版もなければネットさえない時代だったので毎月実家から送ってもらい、帰国するときにはすべて船便で日本へ送った。
そんな料理王国さんからの取材依頼はとても光栄で、ぼくはすぐに承諾し喜んだものだった。
ところが喜んだのも束の間、ファックスで送られてきた企画書の1枚目を目にしたぼくは、こう言った。

「ここにうちを入れたらアカンやろ・・・」

つづく


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