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ファミレスのカケラ

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

ぼくが「フランス料理のファミレスをやってみたい」「いつか、体育館みたいな店をやってみたい」と話していたのは大箱のことだった。
ところが同業や経営をしている友人らに話すとほとんどの人が「ん・・・」と言って怪訝な表情をされる。「いいね!」という人は、ほぼいない。

みんなの反応は、恐らく正しい。

かくいうぼくもお店の相談などをされたときには、「例えば投資できるお金が5千万円あったとして、じゃあ5千万円の店をつくるか?と訊かれれば、ぼくなら500万円でできる店を1軒ずつ順番に10軒つくる。大きな資本でもない限り、時代背景などを考えると恐らくそちらの方が正しい」と答える。

いま思えば、大箱の、そこに生まれる心地よい喧騒に対する情景は、最初に働いたファミレスでの原体験があった。
多くの客席が当然のように毎日埋まる環境にいると自分たちのやっていることが正しいことに思えたし、そこに自分がいることが楽しくて嬉しかった。だから自分が店をするときには、こういった環境をつくれば楽しくなるに違いないと考えていた。

それから12年が過ぎ、いよいよ自分の店をはじめることになったぼくは、働いていたファミレスの1/3にも満たない小さな店を、それもパン屋さんを構えた。
それが、そのときの身の丈にあったサイズであり現実だった。
仮にもし当時のぼくに大箱をつくれるほどの資金力があったとしたら、ファミレスのような店をつくっていたか?と訊ねられると、やらなかったと思う。
やはり投資額の大きさにビビりできなかったに違いない。

1軒目をはじめた1998年当時、ドンクさんや進々堂さん、アンデルセンさん、ヴィドフランスさんといった大きな会社によるパン屋さんを除けば、京都の街場の個人店でイートインを併設したベーカリーカフェは、なかったと思う。
「イートインをつくる」と言い出したぼくにお師匠さんをはじめ工務店の方、友人・・・周囲の人たち全員から猛反対をされた。

パンを並べる棚を捨ててまで、決して広くもない店内にぼくがイートインスペースをつくったのは、カフェというよりも「ファミレスの一部分だけでも形にしてみたい」といった思いがあったのだと思う。

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