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今夜、すべてのバーで 5.

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

ぼくはグラス2杯のワインで地下鉄の階段を転げたけれど、そういえば中島らもさんが亡くなられたのも、飲みに行かれたお店の階段から転落されたのが原因だった。

らもさんが最後に飲まれていたものは、何だったのだろう。

勝手な想像だけれどワインではない気がするし、ワインであって欲しくないという気もする。
ぼくの脳内でアルコールという言葉にすぐ変換できないイメージなのがワインだし、つまりそれは気高い飲みものであり、またお洒落さんなイメージも強い。
男性なら食通で知的な紳士が飲まれている姿を連想するし、女性なら綺麗な方を単純に想像してしまう。
どう想像しても泥酔やアル中といった言葉やイメージとは結びつかない。
だからぼくのようにワインを飲んで駅の階段から転げ落ちるなど、我ながらワインのイメージに対する冒涜とさえ思えてくる。

昔、木村拓哉さんが出演されたウイスキーのかっこいいCMが流れていて、そのときのコピーが「ウイスキーをオヤジと言ったのは誰だ」というもので、こういった逆説的なコピーを使われることが、そういった時代になったことを象徴している気がしたものだった。
だけどぼくが若いころに憧れ惹かれたのは、バーボンも含めたウイスキーなどのアルコールというイメージのお酒で、やはりワインのようなお洒落なものでなくもっと男っぽく昭和っぽいものだった。また、お店もスタイリッシュなものでなくどちらかといえば場末のバー、酒場という表現がしっくりくるイメージだ。
昔、藤原伊織さんの「テロリストのパラソル」を読んだときにも主人公であるアル中のバーテンダー 島村圭介に憧れ、”いつか、アル中のバーテンダーになりたい” と思ったりもした。

ぼくが若かったころは、どこか退廃的や刹那的な生き方に惹かれたり憧れる部分が時代的にもまだ残っていた気がする。それはミュージシャンや役者さん、作家さんにもそういったことが美徳といった風潮はあったと思うし、そこには必ずというほどバーやお酒、タバコといった装置があった。
時代の変遷とともに昔はかっこいいとされていたものがそうでなくなり、本物のスターもいなくなった。
これらもインターネットの登場により情報のスピードが早くなったことが要因だろうし、それによって世の中は昔より健全で実際に健康になったとも言える。
何よりも便利になったし、それはミュージシャンも役者さんも作家さんも一般の人たちも。

もちろん良いことだけれど、不便な時代を通ってきた人間としては、ちょっぴりつまらない時代になったな、と思ったりもする。

つづく

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