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『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』

※こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

先日、楽天の三木谷さんが「ベンチャー企業は労働基準法の適用除外にするべき」といったことを発言され物議を醸していた。
 “これくらい空気を読まない人じゃないと、きっと世の中を変えることなんてできないだろうなぁ” と、ぼくは妙な感心をしていたけれど、それにしてもいまのこの空気の中でこれを言っちゃう三木谷さんはすごいな。

賛否両論あるとは思うけれど(恐らく否定の方が多い)、基本的にはこの意見に反対であるぼくも制度に対してという意味では気持ちがわかる部分もある。
以前は「業種別でもっと細かく税率を変えてくれよ」と何度も本気で思ったことがあった。
いわゆる職人仕事は生産性や利益率も低く、それらの効率が良い業種とは収益構造そのものが違う。だから法人やその規模で一括りにして杓子定規に税率などを当てないでくれよ、ってことなんだけれど。
他力本願ではあるけれど、それがこんな時代でも職人さんが絶滅しない最期の砦とさえ思っていた。

とはいえ、国がそんな配慮などしてくれるはずもない。
それにこれを言い出すと「ベンチャー企業の正しい定義は?」と同じように「職人仕事の定義は?」といった、もっと抽象的で線引きがよくわからない問題が出てくることにもなる。

それにしても巨大企業を率いている三木谷さんの体育会系発言は、ぼくらの業界に根強くはびこる職人仕事だから、飲食業だから、長時間労働は致し方なしといった風潮と大差ないように思えて仕方がない。
社員にストックオプションという飴をぶら下げるベンチャー企業であれ小さなお店であれ、そこで働いているのは生身の人間に他ならない。
昔、間違った仕事の仕方をしてきたと猛省するぼくが経験則として一番学んだことは、「人間が生身である以上、物量を精神力で凌駕することはできない」ということだった。
だから今回の三木谷さんの発言に限っていえば、やはりぼくは共感できない。

ドイツの指導者だったビスマルクさんは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を残されているらしい。良いこと言うな、ぼくは愚者だけれど。

そこで、先日読んでとてもおもしろかったお薦めの本を1冊。

『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』

「軍事的合理性よりも情緒主義、人情論、情報軽視という現場体験による主観的な戦略策定によって敗戦した日本軍を研究した組織論。」

“「戦機まさに熟せり」、「決死任務を遂行し、聖旨に添うべし」、「天佑神助」、「神明の加護」、「能否を超越し国運を賭して断行すべし」などの抽象的かつ空文虚字の作文には、それらの言葉を具体的方法にまで詰めるという方法論がまったく見られない。したがって、事実を正確かつ冷静に直視するしつけをもたないために、フィクションの世界に身を置いたり、本質にかかわりない細かな庶務的仕事に没頭するということが頻繁に起こった。”

まるで個人の勘や経験に委ねている職人仕事の現場を指しているみたいだ。
歴史からも精神論では物量に勝てないことがわかる内容なので、無理をしてやり通そうとする人や、職人だから、そういうものだからで片付けてしまいがちな方は、身体を壊される前に、敗戦してしまう前に一読をお薦めする。

よくわからない精神論や業界でしか通用しない常識もまた、「空文虚字の作文」だと思った。


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