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取材のこと 3. 

 ※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

取材の際、先方が望まれるものにできる限り寄せようとしただけでなく、同じような話をするにしてもぼくは相手によってかなり言葉を選び、意識的に使い分けるようにしていた。もちろんそれは適当な受け答えになるとか、エラそうな言い方に変えるといったことではない。

専門誌のベテランライターさんや、例えば清水美穂子さんだったり、パンラボの池田さんのような方だとスタッフや同業者と同じように話しても通じることがわかっているし、自称・永遠の24歳だか25歳だったか忘れちゃったけれど浅井裕子姐さんのように食にかかわるすべての書き手としてプロ中のプロの方が相手の場合には、配慮をする必要がないどころか、こちらが学ばせてもらう機会になる。

一方で女性誌やファッション誌、情報誌などの場合、パンについては専門外のライターさんであることが多い。
そういった方でも「何が違うんですか?」と説明をする上で製法の話を避けれない場面がある。こういった場合、ぼくは試しに「例えばパンにはストレート法ってあるんですが、わかりますか?」と訊ねてみる。
すると大抵の方がキョトンとされるので「それじゃあ・・・」と製パンの教科書に出てくるような単語は一切使わないように咀嚼して話をするようにしてきた。

畑違いや経験の浅いライターさんが取材に来られ、話の途中でキョトンとされたり的外れな反応をされると、ひと昔くらい前までは「取材に来るのに勉強不足だ」云々と言って説教をはじめる職人さんもおられたと耳にするけれど、そこはなんか違うなぁと個人的には思う。
彼女たちは書くことのプロであり、それが仕事であってパンやお菓子、料理をつくるのが仕事ではないのだから。
だからこそ校正のために届いた原稿が余りにも誤字脱字だらけだったり、意味不明な内容だった場合には、もう次から受けたくないなぁと思うこともあったりするけれど。

ひと昔前のあるある話でいえば、飲食店の取材依頼をするのに「お昼の12時台に電話をかけて来た」なんて配慮のない話もよく耳にしたけれど、こういったことでもない限り取材する側、される側どちらが偉いわけでもないのだから、上手にお付き合いできれば良いのではないかと思う。

東京で取材を受けるようになったころ、京都のときと違うと感じたのは、取材に来られる方の人数だった。これは予算の差だろうと容易に想像がつく。
もちろん京都でも大きな編集社やメジャーな雑誌などの場合にはライターさんとプロカメラマンさんが立派な機材を持って来られることもあるけれど、小さな編集社やマイナーな地方紙の場合には、ライターさんが自前のデジカメを持ってお一人で来られるといったことも珍しくなかった。

昔、超マイナーな地方誌の取材を受けた際、お一人で来られたライターさんは、やはり自前のデジカメ、それもいわゆるコンパクトカメラを持っての登場だった。
メジャーで大きなところもマイナーで小さなところであっても無論ぼく側の応対は変わらないし、特にお一人で来られたときなどには「何か手伝いましょうか」と声をかけできることをお手伝いしていたくらいで、このときもそうだった。

その取材から 3、4年後のこと。
「西山さん、私のこと憶えてますか?」と、そのライターさんから連絡をいただいた取材依頼は、誰もが知っているような超メジャーな食の雑誌だった。
全国誌で、もちろんプロのカメラマンさんもご一緒で(画像とは別の雑誌です。画像は料理通信さんに表紙の依頼をされ作ったときのもの)。

「出世されたんですねー」と冗談交じりに挨拶をしたぼくは思った。
取材するお店の選択権が彼女にあったのか、そこまではなくても推薦など少しは影響があったのか、あるいはうちへの取材は決まっていてたまたま彼女が担当になっただけかもしれないけれど、あのとき超マイナーな地方誌だからといって取材依頼をお断りしていたり、もし適当な対応をしていたらそれでもこの取材依頼はあったのかなと思う。

最初に書いたように、ライターさんたちに接待をしたこともなければ賄賂もなく、商品を無償で提供するわけでもないうちの店が20年間も途切れることなく取材をしてもらえた理由があるとすれば、ここに書いたようなことも要因かなと思う。


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