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marie madeleine (続・木村衣有子さんのこと)

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

以下の文章は、3年前にぼくがFBに書いたもの。

『marie madeleine』
この名称を聞いてピンとくる方は、ぼくが繋がっている方の中では恐らく岡本さんくらいかと思われる。他におられるとすれば、Siphon Graphicaの宮下さんくらいか・・・

marie madeleine、これはぼくにとって、とても思い入れ深いzineなのです(写真のものは、創刊号と4号のもの)。
創刊号が刊行されたのが1999年11月だから、うちの最初の店がオープンして丁度1年を過ぎたころになる。
これを作られていたのは、いまや何冊も本を出され売れっ子の随筆家になられた木村衣有子さんと現在も珈琲&喫茶にまつわる小冊子「甘苦一滴」を編集されている田中慶一さんのお二人で、当時はまだお二人とも学生さんだった。

実はこのmarie madeleineには、前身となる「nounours(ヌヌー)」というフリーペーパーがあり(これも珈琲とフランスについてのあれこれ)、これを約1年間続けてこられたという経緯がある。
このnounoursのころに木村さん、田中さんがお客様として来店され知り合い、nounoursをうちの店に置くことになった。後期には『Le petitmecで朝食を』というタイトルでうちの店を取り上げて下さり、とてもとても嬉しかった記憶がある。

そんなある日、お二人から「nounoursからmarie madeleineという小雑誌にバージョンアップするため、広告を出して欲しい」とご依頼を受けた。
うちの店は創業したときから「有料広告を一切出さない」と決めていて、それはいまも基本的に変わらないし、今後変更するつもりもない。

最初の数年間は「出さない」というよりも赤字つづきで「出せない」というのが実際のところだった。にもかかわらず、ぼくは「出します!」と即答した(と思う)。
木村さん、田中さんに強引に説得されたわけでもなければ、もちろん脅されたわけでもない。刊行が1年に一度といったことや広告費が安かった、お二人と仲良くなった・・・といった理由はもちろんあったけれど、当時うちの店はいつ潰れてもおかしくない状態の真っ只中で、それでも「出します!」と応えたのは、やはり「こんな良いものを作られる人たちだから世に出て欲しい」といった、ささやかな応援の気持ちだった気がする。
田中さんがいまも編集、刊行されている「甘苦一滴」に、うちが唯一有料広告を出しているのは、このときのご縁があるから。

そんな15年も前のmarie madeleineを今朝、久しぶりに出して読んでみた。
彼らが「コーヒー」や「フランス」といったある種、時代に関係なく普遍的なものをコンセプトにされていたからかもしれないけれど、それを差し引いてもぼくには古く映らないどころかいま読んでもとてもおもしろいし、やはりお洒落。
いま思えば、「あの若い人たちが、よくこれだけクオリティの高いもの作られていたな・・・」と驚いていたら、もう一つ個人的に驚きが。

marie madeleineの連載「珈琲けもの道」の題字を書かれていたのは、rilax時代の岡本仁さん(Landscape Products)だった。
渋谷の店以降、Landscapeさんには大変お世話になっているし、岡本さんのご自宅は店のご近所であり、ご夫婦で常連さまでもある。
店をはじめて15年を経て知り合った岡本さんのお名前を15年前の、それもまだ無名だった若い方たちが手掛けられたzineで15年後に目にするとは・・・人の不思議なご縁を感じずにはいられない。

marie madeleineを作られていた木村衣有子さんはその後、本格的に随筆家としての道を歩まれることになる。
marie madeleine創刊から2年後の2001年に刊行された彼女のデビュー作が写真の『京都カフェ案内(平凡社)』。

京都の老舗名喫茶店であるイノダコーヒさん、ソワレさん、六曜社さん、進々堂さん、またエフィッシュさんといった名店に並び新参者で「いつ潰れてもおかしくない状態」のうちも掲載していただいている。
お店のオーナーそれぞれのインタビューとエッセイで構成されている本書は、ぼく個人にとって初めてのインタビューでもあった。
取材やインタビューの場合、記事の校正段階で「あれ、ニュアンスが変わってる」「あれ、こんなこと言ってないのに・・・」といったことが本当に多いけれど、木村さんにインタビューしていただいたものは、まったく校正する必要のない稀有な取材だった。

このときからもう12年も経つけれど、ぼくの話すことは基本的にいまも変わらない。
本書のインタビューでも「料理がしたかった訳でも、パンがしたかった訳でも、カフェがしたかった訳でもないんですよ」「何でも良かったんですけど・・・」と話している。

参考文献のページに “『ル・プチ・メック』万歳!” と著者の私情を記されていたのには笑えたな。

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