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コーヒーについての私的考察 3.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

コーヒーは好きか?と訊かれたら「大好き」と答えるし、子供のころから飲まない日はないほど飲んできた。それも1杯で終わることはほとんどなく、いまでもカフェや喫茶店などで飲むときにも大抵2杯は飲む。
それでも牛乳やクリームを入れなければ美味しいと思えない自分の味覚は、単純に子供なんだと思っていた。

ぼくは子供のころからいまも牛乳が飲めない、飲まない、絶対にムリというほど苦手だけれど、苦手なブラックコーヒーにもっと苦手な牛乳を入れた途端、劇的に美味しい飲みものに変わるという不思議。
そこでぼくは違いのわからない男の味覚を棚に上げ、こう仮説を立てた。

ブラックというのは、実はコーヒーとして未完成のものではないか?
そして、ぼくが好んで飲んでいる牛乳やクリームを入れたあのコーヒーこそが実は味としての完成形なのではないか。
そういえば京都の老舗で名店であるイノダコーヒさんは最初からミルクを入れて提供されているし、やはり老舗である静香さんも確かそうだった憶えがある。
さすが老舗、子供の味覚だの違いのわからない男だのと卑下していたけれど、もしやと考えが過りググってみた。

1947年8月にコーヒーショップを開いたのが創業である。この時、客が会話に夢中になってコーヒーが冷め、砂糖とミルクがうまく混ざらなかった事がきっかけとなり、初めから砂糖とミルクを入れた状態でのコーヒーの提供が始められた。(wikipediaより抜粋)

違ったらしい・・・

じゃあ、あの「苦手なもの(ブラックのコーヒー)+ 絶対ムリな苦手なもの(牛乳)= とても美味しい飲みもの」って、なんなんだろう。
いや、それはカフェ・オ・レという話でなくて。
そんなことを考えていたところ、思い浮かぶものがあった。

酸味のあるパン、うちのパンだとパン・ド・カンパーニュやパン・オ・ルヴァン、バゲット・ルヴァンといったルヴァンという名称の付いたものがそれで、種を継ぎ続けている酵母なので、これらには仄かな酸味がある。
多くの日本人がパンに求めるものは香りや味、食感であって「酸味のあるパンを」と求められる方は少数派だと思われる。
稀にそういった方もおられるけれど、それは酸味のあるパンが美味しいからというより「酸味のあるパンの美味しい食べ方をご存知の方」だとぼくは思っている。

作っておきながらこう書くのもなんだけれど、ぼく自身酸味のあるパンをそれだけ食べて美味しいとは思わない。この手のパンは他のものと合わせ一緒に食べてこそ、そのポテンシャルを発揮するものだと思っている。
だからぼくが現場をやっていたころは、この見向きもされないパンを日本人のお客様にどうしたら手に取ってもらえるかと考え、話す機会がある度にこう伝えてきた。

「酸味があるのでそのままお召し上がりになるより、バターを塗るとかハムやチーズと一緒にお召し上がりください。このパン(酸味のある)でないと、こうはならないという味になりますから。
バゲットやブリオッシュを他のものと合わせて食べる味が足し算の美味しさだとしたら、酸味のあるパンをチーズなどと一緒に食べると掛け算の美味しさになると思います。パン単体で食べたときとは別ものになるはずですから」

ぼくにとってブラックのコーヒーに牛乳(あるいはクリーム)を入れるのは、この感覚に近いのでは、と思った。
好き嫌いがハッキリと分かれるような食べものや飲みものほど、それに何かを加えることでまったく別のものに変わり、嫌いだったものまで好きになることは意外に多いのかもしれない。
コーヒーの考察なのに、パンの話になったのは気にしないでください。

つづく

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