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ムチャを言い過ぎだろ

少し前、無性に天津飯と餃子を食べたいと思い、近所の中華系チェーン店へ行ったときのこと。

ぼくが注文を済ませ待っていると、斜め前の席に初老とおぼしき少し強面の男性が1人で座られた。
男性は席につくなりメニューも開かず、店員さんを呼ぶボタンを押されている。それも何度も。いやいや、1回押せば伝わっているし。
随分とせっかちな人だな、と思いながらもスマホを見ているよりも面白そうだったので、ぼくはその男性の様子をしばらく眺めることに。

呼び出しボタンを押し終えたかと思えば、次の瞬間には席を立たれた。

あー、お手洗いか。だからあんなに落ち着きがなかったのか。

そう思ったのも束の間、男性はお店の関係者かと見まごう勢いで厨房へと向かうと、店員さんに大きな声でこう言われた。

「押しても誰もこーへん」

いやいやいや、ムチャを言い過ぎだろ。
必要なら入店から終始目撃していたぼくが、お店や店員さんに非がないことを証言しても構わないぞ。

文句を言って満足したのか、その男性は席に戻ると新聞を広げ読みはじめ、店員さんが謝罪の言葉とともにジョッキのビールを運んでこられた。

謝る必要なんてないぞ。何なら追い返しても良いくらいだ。内心そう毒づきながら天津飯を食べすすめる。
ぼくが食べ終えるころになってもその男性のテーブルには餃子以外、他の料理が運ばれてくることはなかった。

えっ?ビールと餃子だけ!?

誰が何を注文しようが別に気に留めないし、それがビールと餃子だけであってもぼくがとやかく言う筋合いのことでもない。しかし、あのせっかちで落ち着きなく厨房にまで文句を言いに行った理由が、ビールを早く飲みたかったからなのか?
ビール好きの人たちがお店へ行くと「まずはビール」が常套句であることは、アルコールを飲めないぼくでも知っている。けれど、この男性はあまりにもせっかちで何よりマナーが悪すぎる。

そしてとても残念に感じたのは、この男性がおそらく関西人であるということだった。彼も1人客だったため、ぼくが耳にした言葉はこれだけだったけれど、「こーへん」は関西弁である。
もちろん彼が100%関西出身かわからないし、出身がどこであれマナーの悪い人はいる。けれど、多分同じ関西人として腹立たしく、それ以上に恥ずかしかった。
外国人の店員さんに、ぼくは内心こう思わずにはいられない。

「1つだけお願いがあります。あのおじさんのことは嫌いでも、日本人や関西人のことは嫌いにならないでください」


お笑い芸人さんによる東京進出の影響などもあって、東京で関西弁を耳にするのも珍しいことではなくなった。
それを面白がってくれる東京の人もおられたら、口にこそしないものの、うるせーな、関西人。と、感じている人もきっとおられると思う。
これは逆も然りで、東京の人が仕事などで関西へ赴任された際に東京弁を使われていると、関西人の耳には抵抗感を覚える人だってきっとおられる。また、口語をその土地に合わせようとする人もいれば、頑なに使い慣れた方言で通そうとする人もいる。
「郷に入れば郷に従え」だとは思うけれど、こればかりは育った環境によるものなので関西人が少々うるさいことも含め、お互い多めに見てほしいな、と思う。

ただし、ぼくが遭遇したような男性は、どこの出身であっても論外である。


ご馳走様でした。

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