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やってみなはれ、やらなわからしまへんで 4.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

週休2日制を導入して失敗したときの話を書いたけれど、身の丈に合わないことをしていたのはスタッフのお給料も同様だった。
これも15年ほど前、まだぼくのお給料が16万円足らずしかもらうことのできなかったころ、片腕をしてくれていたスタッフへのお給料は30万円だった。
もちろん彼はそれだけの仕事をしてくれていたし、それだけの価値のある人だと思ったからだけれど、それにしても当時店の身の丈に合っていたかといえば、足の指が折れるほど背伸びしていたのは明白だった。

その後も初任給の設定など少しずつ上げて来たけれど、ぼくは街場の個人店の相場といったものをまったく参考にしなかった。
また東京へ出店したころには、少し変わった初任給設定の仕方も決めていた。
春が近くなると柴田書店さんのフードビジネス誌である月間食堂を買って来る。
これにはサイゼリヤさん、すかいらーくさん、マクドナルドさん、吉野家さん、モスバーガーさんといった大手外食企業の大卒ならいくら短大卒ならいくらといった初任給の一覧が掲載されていたので、こういった身の丈の大きな会社の条件を参考に、それに近い額あるいは同じ額になるように決めていった。

働きに来てくれるスタッフは経験者の子も多く、もちろんみんなが初任給ということもない(というよりも東京はほとんどの子が経験者)。
だからこの時点では、ぼくのやっていたことは会社の身の丈に合っているはずもなく、当然人件費は膨れ上がることになる。
新宿の店は4年間近く赤字だったけれど、それにはこういった理由があった。

お給料や昇給の設定、週休2日制にしてもそれを試みようとした時点では、うちのいまの売上や規模では難しいな、と思うことを敢えてやってきた。
きっと優秀な経営者ならもっと賢い方法を選択されると思うけれど、ぼくにはこの方法しか思いつかなかった。赤字のときから昇給も毎年続けているけれど、それでも黒字化してからは正常な人件費率が続いている。
試みたときには無理をしていたことが、こうして無理なく普通のことになっていった。

少し無理をすることで、やったことに自分の身の丈が追いついて来る。
人間の身体がある程度負荷がかかることで鍛えられ、強くなったり環境に適応するのと同じで、事業というのも少し背伸びして負荷がかかることで学習もすれば適応するようになるものだと思っている。決してスマートでもなければ賢いやり方でもないけれど、いまではこれがぼくの経験則となっている。
ちなみに新宿店の売上は、8年間一度も前年を割ることなく最後まで右肩上がりを続けた。

ぼくはスタッフとの雑談の中で「事業をするのは、下りのエスカレーターを上るようなもの」 とよく話すことがある。
見晴らしや居心地の良い場所まで上れば誰もがそこで留まっていたいと思うけれど、止まるとその場所から下がり始めることになる。
だからそこに留まっていたいと思うのなら進むしかないし、もっと良い景色を観たいと望むのなら身の丈に合わないとわかっていても、とにかくやってみることが必要だと思う。

そんなぼくはサントリー創業者 鳥井信治郎さんの言葉であり、サントリーさんの企業理念にもなっているというこの言葉が大好きだ。


やってみなはれ、やらなわからしまへんで」


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