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作り手としての魅力

パン屋さん時代に考えたこと、やってみたこと、使ったもの 6.

ぼくはクロワッサンやブリオッシュといったパン(ヴィエノワズリー)の魅力を素材の美味しさ、使用されるバターの風味や味だと思っている。
もちろん美味しいと感じるための要素には、小麦粉など他の材料や食感なども大切だけれど、一つだけ挙げるのなら ”いかにバターの風味や味を引き立てるか” だと思っている。

同じヴィエノワズリーに分類されるパンオショコラやパンオレザンは、このバターの美味しい生地に美味しいチョコレートや美味しいレーズンを合わせる足し算の美味しさで、いずれにしてもヴィエノワズリーの味や美味しさというのは、材料の良さを全面的に、直接的に感じるものだと思う。

一方、les pains et viennoiseries (パンとヴィエノワズリー)のpainsに分類されるのがバゲットをはじめ、パン・オ(ド)・セーグル 、カンパーニュ、コンプレ・・・といった材料の構成がシンプルなパンで一般的に(?)ハード系と呼ばれるものがそれにあたる。
ぼくが「料理とお菓子」と「パン」との決定的な違い、素材が90%、素材至上主義と必ずしもそうとは思わないのが、こういったパンになる(あくまでも個人的見解である)。

良いとされる小麦粉、高価な小麦粉を使い、ちゃんと作ればもちろん美味しいパンになる。でも昔からある一般的な小麦粉、それほど評価されているわけでもないような小麦粉であっても、工程、製法などによっては、良い小麦粉を使ったものと遜色ない、あるいはそこまでは無理でも健闘できるくらいの可能性があると思っている。
つまり素材のハンデを超え、場合によっては逆転することさえできる可能性があるのが、ぼくの思うパン(pains)ということになる。
それは軽自動車でフェラーリやポルシェに挑もうとするようなもので、とてもおもしろい。

作り手の思うパンの魅力は職人さんそれぞれあると思うけれど、ぼく自身にとって最大の魅力はこれだった。

つづく


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