断片小説集 6 〜『エンタメ選挙改革(仮)』
20XX年、超高齢化社会と国民の政治離れに歯止めはかからず、高齢の有権者が投票所に出向けないことで低投票率に拍車がかかり、総有権者数の8%程度を獲得すれば与党第一党になってしまう状況に至った。
代議士制の体をなしていないと世論に糾弾され、長年の世襲で議員の地位を確保してきた政治家たちは、自ら正当性を国民に認めさせることができなくなった。
そしてここに過去に例を見ない画期的かつ斬新な公職選挙法の改正が実現した。それが世にいう「負票制度」である。
これまで選出すべき候補者に対して投票を行い、その得票数によって当選者を決定してきたが、新たに施行された「負票制度」では当選させたくない候補者に対してマイナスの票を投ずることができる。
有権者は自身の選挙区に「正票」すなわちプラスの票を投ずるに値する候補者がいない場合、次善の策として当選させたくない候補者に対してマイナスの票を投じて得票数を減らすことができるようになった。
また、白票と、投票の権利放棄を予め届け出ていない棄権票は、得票率で按分されて、負票として計算される。
これによって各党の選挙対策は従来の選挙運動とは全く違うものに変えざるを得なくなった。白票と棄権票をいかに他党に回すか、躍起になってネガティブ・キャンペーンを展開するようになったのである。
ただし、ネガティブ・キャンペーンに力を入れすぎると、有権者に品のなさをイメージづけることになってしまい、結果として自陣営の政党や候補者に負票を投じられることに繋がりかねない。
不適切な発言、不用意な言動を繰り返した過去を持つ現職候補や、疑惑疑念をうやむやにしたままの大物代議士は揃って政界から身を引くことを表明し、候補者は一気に若返った。
選挙当日、SNSでは投票済証の写真とともに「負票ってきた」「負票完了」というツイートや投稿が相次ぎ、各党各候補者のネット担当者は震え上がった。
かくして制度改正によって衆院の顔ぶれは一気に様変わりし、かつての大物政治家たちの多くが落選の憂き目に遭った。落選理由の大半は負票による得票数の激減だったと言われている。
問題だらけの特権階級、上級国民などと批判され、糾弾されてきた日本の政治は、一気に明るさを増したように見えた。
だが、本当の問題はこの先にあったのである。
(「エンタメ選挙改革(仮)」)
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<超短いあとがき>
選挙当日に合わせて話をでっち上げたので、今回の断片小説集は単品です。
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