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読書記録2022 最近読んだ本たち

『タイトル読本』 高橋輝次・編著

 とにかくネーミングセンス、キャッチコピー力に乏しいもので、何かの参考になればと手にとってみたのだが、多くの作家たちもそうそう簡単にタイトルをつけられているわけじゃないと判って、解決の糸口はつかめないまま、妙な安心感だけが残った。
 堀口大學から三谷幸喜まで、誰もが知っている人たちがタイトル付けにまつわるエッセイを書いてきた事実も、この本で知ったわけで、それだけ著作にタイトルをつけるというのは誰にとってもなかなかの難題なのだなと。
 個人的には筒井康隆、小松左京、松本清張はタイトル付けの名人なのではないかと感じていたのだが、この本に収録されたエッセイでも同様のことを書いている人が幾人かいて、自分の感覚はある程度正しかったのだと判明して、これまた安心。

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『世直し小町りんりん』 西條奈加

 すっかり暑さにやられて、軽く読んで楽しめるものと選んだ数冊の時代小説のうちの1作。
 西條奈加さんは『金春屋ゴメス』を読んだ時の相性がよくない印象が残っていて、積極的に手を伸ばさなかったのだけれど、本作は勢いよく読めて楽しかった。
 時代小説は登場する人物の気風の良さとスピード感がすべてと言っても良い。ぐちゃぐちゃ悩んでいる暇があったら刀を抜いてぶった斬るぐらいでちょうど良い。粗忽者・慌て者・お調子者大歓迎なのである。
 主人公の武家の義姉妹も面白い人物で、取り合わせも、周囲の人も面白い。NHKがドラマにしたらきっと面白くなるだろうなあ、これ(もはや民放に時代劇を作る技術も能力もないだろうし)。

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『善人長屋』 西條奈加

 こちらも暑さ負けで選んだ1冊。
 上の作品とは違って、登場人物の造形にちょっとイライラした。
 掏摸や美人局、情報屋など小悪党ばかりが集まっている長屋という設定、裏稼業持ち故に表の顔の善人面が評判となって「善人長屋」と呼ばれるようになった長屋に本当の本物の善人がひょんな事から暮らすことになってしまい……と状況設定は面白いのだけれど、小悪党と善人ゆえにしなくても良い余計なことをやってみたり、余計なところに首を突っ込んでみたり。
 ハリウッド物にありがちなヒロインが悪意もなく余計なことをして主人公の邪魔をするパターン、「だって、できると思ったのよ!」という例のパターンに似た物があって、人に邪魔をされることが何より嫌いな僕をイライラさせるには十分すぎた。つまらなくはなかったけど。

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『銀色夏生の視点』 銀色夏生

 たまたま図書館で見つけたので借りてみた。
 銀色夏生さんは同時代的な貴重な作家(詩人)ではあるのだけれど、昔からとにかくチューニングを合わせにくいラジオ局みたいな、ぴったりとあった時にはものすごく良い音楽が流れてくるのだけれど、そうそう簡単にはチューニングが合わないような、近づきがたいというよりも面倒臭そうな人だなという印象が強い。
 とにかくメディアへの露出の少ない人だったから、ご本人がどんな人であるのか全くわからず、もしかしたら集団創作体制か何かの覆面集団の名前なのではないかと思ったほどで。
 そんなこともあって読んでみたのだけれど、思っていた以上に面倒臭そうな人で(笑)、自分の直感というか、対人間の嗅覚が自分で思っている以上に鋭いのかもしれないと妙な自信を得たのだった。
 中身は編集者との対談や、読者との対談等々、雑誌などに掲載されたものを集めたもの。それでも集積すればちゃんと人となりが立ち上がってくるから面白い。

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『DIVE!!』 森 絵都

 森絵都さんの作品は直木賞を受賞した『風に舞いあがるビニールシート』の印象がすごく良くて、夏だし、スポーツ&青春小説だし、暑いし、と読んでみたのだけれど、やはりどこまでも少年少女向けで、酸いも甘いも嚙み分け、磨り潰して来たオッサンには読むに耐えないものだった。
 と書いてしまうと「読めない原因は世代間ギャップか?」と思われそうだが、実はそんな理由ではなくて、本作の主題となる高飛び込み競技、目指す先はオリンピックという設定に中身が追いついてないというだけ。
 というのも僕自身が主人公と同じ年齢の頃に競泳選手だった経験があって、将来的にオリンピック出場を目した指定強化選手だったものだから、どれだけ読んでも「こんなに甘くないよね」という感覚と、もっとドロドロとした感情やらが頭に浮かんで、読めば読むほど「わかってねえなあ」が先に立ってしまったというわけである。
 現実の通りに書いたら若い少年少女の憧れを根こそぎ奪い去ることになるだろうし、そんなものを書いたところで何の意味があるのかもわからないけど、オリンピックってそんなに清々しいだけで手が届くものじゃないだけに、美化されすぎた感じが気持ち悪かったのでした。

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『人生を豊かにする 歴史・時代小説教室』 安部龍太郎 ・門井慶喜・畠中 恵

 携帯電話が当たり前になってから、「連絡がつかない!」という危機的状況がなくなってしまって、アクションや冒険小説、サスペンス等々は書きにくくなっていると言われる。
 そのせいか文明の利器は一切登場しない時代小説の方が逆に書きやすい、制約をかけやすいと、現代小説作家が時代小説を書くようになっているらしい。
 仰ることはごもっともなのだけれど、度量衡にしても貨幣価値にしても時代によって全然違うのが江戸時代の特徴みたいなものなので、単に江戸の頃に舞台を移せば済むものでもない。
 読んでいてもこの人は全然調べないまま、他の時代小説を下敷きに書いているだけだなと分かってしまう作家もいるし、実際の事件が存在しなかったかのように書かれていて興ざめするものもあったりする。
 本作ではそれぞれが違う書き方で時代小説を書いている作家3人が、自分の時代小説の書き方を話していて、とても面白かった。
 時代小説というと歴史とか何とかを知らないと楽しめないと思われがちだけれど(その通りの部分も少なからずあるけれど)、僕に言わせればライトノベルと大差ないものだし、異世界で美少女に取り囲まれている暇があったら、時代小説で人の心の機微を味わうのも悪いものじゃない気がする。

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 他にもたくさん読んでいたのだが、何を読んだのかも忘れてしまったので、記憶に残っていたものだけ並べておきました。

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