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今はzineと呼ばれる何かのこと

 noteにあれこれと思いつきを書き連ねるのも良いのだが(作品的なものをここで開陳する気はまるっきり失せた)、やはり頭の中に浮かんだことを文字に変換しているだけでは飽きがくる。
 もともと、立派すぎるほどの飽き性であるし、同じことを繰り返していると一般的な速度の5倍ぐらいの速さで飽きる。そうしているうちに発作的に手を動かす作業をしたくなってくるのが常だ。

 とはいえ今さらやったことのない新しいことを始めるのでは気分転換にしては大掛かりすぎるし、これまでの趣味から何かをやるにしても準備やら何やらで手間のかかることはやりたくない。
 それで思いついたのが切り貼りで個人的なコピー冊子を作ることだった。

 先日もNHKの短い番組でテーマになっていたけれど、昨今では個人制作の冊子を「zine」と呼ぶ。
 そういう呼ばれ方が一般に広まってもう10年くらいは経つだろうか。
 僕が知ったのは、アメリカで詩やイラストやグラフィティアート、写真などを自作の冊子にまとめて配ったり売ったりするのが流行ってるらしいと聞いたのが最初だったように思う。
 zineなんて呼ばれ方をする以前から、日本では「同人雑誌」とか「リトルプレス」「ミニコミ」と呼ばれる形ですでに存在していたから、「zine」という呼び名を聞いた時には格好いい名前に変えたところで中身は変わんないじゃんと思っていた。有り体に言えば、zineという呼び名を使う人を内心で小馬鹿にしていた。というのも、すでに30年以上前、まだ学生だった頃に僕自身がそうしたリトルプレスのグループに参加して、せっせと原稿を作っていたからだ。
 その時に作っていたのはモノクロコピー機で両面コピーしたものを中綴じしただけのものだった。ワープロですらまだ誰もが持っているというほどには普及していない頃、印刷屋で活字を組んでもらうだけの資金力があるグループを除けば、ほとんどは手書きの手作りが当たり前。それでもセンスの差は残酷なほどはっきりと出る面白さがあった。

 主幹のSさんは本当にセンスがいい人で、罫線も枠線も、タイトルも原稿も全て手書きなのに、出来上がって郵送されてくる冊子はいつも感心するほどゆるくて格好いいものだった。
 毎度、モノクロコピーでもここまでできるんだなあとSさんのセンスの良さを羨んだ。それが自分一人で好き勝手なことを書いた冊子を作る原点になっている。

 綺麗に作るならDTPソフトで版を組んで、印刷屋で刷ってもらえばどれだけでも綺麗なものはできる。でも切り貼りで作った版下を安いコピー機に通してできた陰影や切り貼りの段差の線などは絶対に出ない。その綺麗じゃないところが今となっては「良きもの」に思えるようになっているのだから面白い。
 とにもかくにも自分で好きで作るだけの、一切義務感のない作業だから、僕さえよければなんでもアリなのである。
 内容の一貫性も、テーマも、もちろん仕上がりの綺麗さも一切不要。誰かに見せる必要はないし、もっと言えば作る必要すらないのである。
 好きに書いたものを好きにまとめて中綴じすれば出来上がりという、完全フリー、目前には広がる荒野だけという自由さなのである。これは精神衛生的にも非常に心地良い。
 そんなわけでA5半折のサイズで1ページ1つの文章を書き、隙間を絵や写真で埋めて、今日のところは8ページ分作った。実に楽しかった。
 ページ数が揃って、気が向いたらコピーしてまとめてみるつもりだが、それもどうなるかわからない。わからないほど自由というわけだ。

 日本写真界のトップにいるアラーキーこと荒木経惟も、最初に作った写真集はコピー冊子だった。当時勤めていた会社のコピー機でせっせと写真をコピーして本にまとめたものだったそうだ。
 やっぱり手作りのものを作ったことがあるかどうかは結構な違いを生むのかもしれない。そんな気がする(違うを生むために作ってるわけじゃないけど。楽しいからってだけで作ってるんだし)。

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