私が気になる彼は【短編小説】2000文字

好きな人に好きになってもらうのって凄いことだって。
マンガやドラマは登場人物の相関図でこことここがくっつきそうってわかるけど、リアルの相関図なんて思った通りにはならない。
だって登場人物の気持ちがわかるのは、唯一自分のことだけ。

高校生になったら彼氏が欲しい!
放課後は一緒に帰って、ゲーセンやカラオケに行ったり、カフェじゃなくてもいいからファミレスでいいからまったりしたい。
土日は遊園地や水族館でデートしたい。
そんな思いが詰まった頭で入学したら、入学してすぐのテストで赤点をとってしまった。
でも、赤点補習組でタクミと一緒になって話す機会ができたのだから、逆によかったと思ってる。

クラスでタクミは目を引いた。
背が高くて、髪は明るい茶色。切れ長の目で、すっと通った鼻筋。
イケメン・・・だとあたしは思っている。
同じクラスで仲良くなったマキに言わせると、イキってるデカいやつ。
顔は発展途上、らしい。
まずは同性から仲良くなるのが常だし、あたしの中でイケメン認定されたタクミとこんなに早く一緒に遊べるなんて、いい高校生活の始まりだったと思う。
二人でじゃなくて、グループでだけど。

タクミたちと遊ぶのは楽しい!
みんなでゲーセン行ってレースゲームしたり、カラオケ行って高得点狙ったり。
土日はそれぞれのバイト先に押しかけてみたり。
彼氏が欲しいって頭で入学したけど、いつの間にかこれでもいいかって思ってた。やってることはやりたかったことだから。
あ、今度みんなでバイトの休み合わせて遊園地行きたい!

「今日は雨が強いからバスにしなさい。」
「あー、わかった。六月だしな。」
六月というか梅雨だから。六月は梅雨だけど、実際は五月の終わりから天気は崩れることが多くなるし、七月になってから梅雨明けする。
だからこの場合は梅雨の方が合ってる。
なんてことを考えてしまうのは文学部に入ったからだろうか。

弟は春から高校生、私は大学生になった。
それを機に、二人でこの家に戻ってきた。
伯父さんたちのところでは凄くお世話になった。
大事にしてもらえて、居心地はとても良かった。
でも、この家は私の宝物だから。
宝物が宝物でなくなることが怖かった。
弟も二人で暮らすことに賛成してくれた。
弟は掃除、洗濯、買い物を自ら進んでやってくれる。
二人で暮らし始めた当初は姉に気を遣ってるのかと思ったけど、どうやらやりたくてやっているらしい。
汚いところで暮らしたくないから掃除。身に着けるものはきれいなものでストックはあまり持ちたくないから洗濯。買い物はスーパーが好きだから。
そういえば、中学生でもよく伯母さんについて行っていた。
でも、料理はあまりしない。

梅雨が明けた。
でも、弟はバス通学を止めなかった。高校は自転車で余裕で通えるところなのに。バス代がもったいない。
理由はすぐにわかった。
弟が忘れた折り畳み傘を届けようと追いかけたとき、バス停にいた弟がバスに手を上げた。いや、バスの窓から見えた人に手を挙げた。
女の子だ!
つい、折り畳み傘を渡し損ねた。

「付き合って欲しいな。」
「ごめんなさい。・・・好きな人がいるんです。」
「この部?」
引退する先輩に言われてしまった。
よく気にかけてくれる先輩だな、とは思っていたけど。

私がマネージャーになったのは木村くんに誘われたから。
木村くんとは小学校と中学校が同じ。中学校では同じ生徒会で仲は良かった。まぁ、友達かな。
中学まではバドミントンをやっていたけど上手くはならなかったし、高校で続けるつもりはなかった。
で、どうしようかと思ってたところにマネージャーに誘われて。マネージャーという響きに憧れも多少ありましたし。

真面目にスポーツしている男の子はかっこいい。その中で輝いて見える男の子がいた。
クラスの女の子が噂をしているのを聞いたことがある。それに、よく羨ましがられる。
でも、ほとんどしゃべったことはない。木村くんとは仲がいいみたいだけど、いつもしゃべっているのは木村くん。
グラウンド以外、廊下で会っても輝いて見えるのはなぜだろう。
そんなことを隣の席のマキちゃんに言ったら、あれは正統派イケメンで、発展途上とは違うからって。

タクミが部活に入ろうとしている。
「やっぱ、運動したいなーって。俺さ、結構中学の頃いいトコまでいってたんだよねー。」
ヤだ。
そう思ったとき、タクミがいなくなるのが嫌だと思った。だって、やっぱりタクミと一緒にいたかったから。
どうしたらいい?

弟は高校生だ。彼女もできるだろう。めでたいことだ。
でも、なんだろう。置いて行かれるようなこの感覚。
いつかこの家に来るのだろうか。そんな時、どうしたらいい?私は家にいない方がいい?あ、でもケーキとか出すんだっけ。出してから出かければいい?でも、ケーキなんて常時買ってないから、来る日は事前に教えてもらわないと。
そもそも、私が家にいる時間に来る・・・?

髙橋くんが1組の女の子と話していたという噂が広がった。
話していただけなのに噂になるって、無口な正統派イケメンは大変だ。
そして、少しもやっとした自分。
サッカー部のマネージャーが髙橋くんに一番近いと思ってた。
見てるだけじゃダメなんだ。


私たちの相関図がそれぞれに動き出そうとしている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?