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岡村靖幸ツアー「アパシー」

 
岡村ちゃんの楽曲というのは、青春と官能が表裏一体になった“かさぶた“みたいなもので、無理やり引き剥がそうとすると痛いし、放っておくと成熟して、知らぬ間に消え去っていくような切なさや儚さもある。10代だったデビュー時ならいざしらず、令和になっても、岡村ちゃんがそういったイノセントな世界を保っていられるのは、音楽に対する純粋な信奉、その力を信じている者の強さであり、愛である。

 今回のツアータイトルに掲げられた「アパシー」、その意味は「無関心」や「虚無」といった医学・社会学用語であり、なかなかにシリアスなタイトルである。クリエイティブな音楽を提供し、ファンの心を動かすべきミュージシャンの視点から見れば、もっとも恐るべき態度と言える。それをタイトルにするということは、この混乱の世界の中でも、アパシー的なるものに対するレジスタンス(または救済)、もしくはそこに陥らずに人生を生き抜いていくとの決意表明なのかもしれない。それにはやはり、岡村ちゃんのような音楽への愛は絶対的に必要だろう。
 
 岡村ちゃんの楽曲には性愛にまつわるメッセージが多く溢れているが、世界情勢や社会問題について言及している曲も少なくはない。今回のツアーでも、「Punch↑」や「ア・チ・チ・チ」に挟まれるアドリブ語りの部分は、現在の情勢を少なからず直視した内容になっていたし、「祈りの季節」、ツアー途中から復活した「ハレンチ」などは、少子化や援交など、当時からの問題意識が現在に通用することを証明していた。もちろん、それは音楽という高揚感や快楽性の中で放たれるものであって、ダンス・ミュージックとしての魅力を阻害するわけではなかったとも書き記しておく。ただ、振り返ったときに、そうした問題意識をオーディエンスと共有することは重要だと考える。過去の栄光に縋るのではなく、同じ今を生きている人間が奏でるポップスというのは、単に明るいものにはならないはずだし、そこに誠実さが感じられた。

  ライブの内容としては、前回のツアー「美貌の彼方」の延長線上にありつつ、原曲に近いアレンジの「ビスケットLOVE」、「Dog Days」、「ターザンボーイ」は大いに盛り上がるものだったし、ロバータ・フラックやボズ・スキャッグスといった激シブAOR~ソウルカバーもフックが効いた選曲で驚かされた。そしてこちらもツアー途中からINした、ジェフ・ベック追悼のギターソロ。いわば“顔”で弾く、泣きのギターソロは岡村ちゃんとの相性もぴったりで、インパクト抜群であった。「Super Girl」では側転も復活し、「イケナイコトカイ」のアドリブ・フェイクパートをご当地仕様とするなど、少しでも見せ方を変えようとするパフォーマンスに、ライブとしての醍醐味があった。

 また、これはすべての公演で披露されたわけではないが、弾き語りでの「はっきりもっと勇敢になって」。決して完璧なパフォーマンスということではないのだが、感情を揺さぶるエモーショナルなポイントがいくつもあった。絞り出すような歌唱、ファルセット、アタックの強いピアノなど、「もがく」美しさがそこにはあった。

 そして「アパシー」のツアー、中野サンプラザでのラスト2daysにおいては、声出しが解禁された。千秋楽を見ることができたのだが、約3年ぶりの声出しということで、まだまだこちらにも遠慮があったし、ソワソワもしたし、だけども喜びが勝る時間であった。誰も望んではいなかった、マスクあり、声出しなしの状況でこの数年が過ぎたわけだが、それを乗り越えた先にはこういう夜もある。翻って、それは声出しができない中でもDATEに駆けつけたファンがいたからできたことでもある。その事実は変わらない。

  千秋楽と言えば、Corneliusの登場である。その日のオープニング曲が、いつもと違って「新時代思想」だったわけだが、このサプライズは予想できなかった。アンコール明け、「成功と挫折」のイントロと共に幕が開くと、ひっそりとステージにいる小山田圭吾。だが、一旦ギター弾きはじめれば、アルバムに収録されたあのメタリックな質感がビシバシ突き刺さる気持ちよさよ! ジャストポップアップでの“スイートメモリーズ”な初共演(?)から幾星霜、いろんなことがあったふたりが、いろいろを経て邂逅した中野サンプラザ。
 そして、岡村ちゃんも数々の名演を残してきた中野サンプラザでのライブが、この日で最後というのも、運命というか宿命というか、巡り合せの妙を感じるものであった。

 「美貌の彼方」からバンドメンバーも固定され、ますます(E)感じになっている岡村ちゃんのライブ。初夏からのツアーも、一箇所を除いてスタンディングでの公演となった。また、(物理的にも精神的にも)違った角度で楽しめるものになるだろう。

 岡村ちゃんとの出会いによって生まれた、なんだか厄介だけど愛らしいかさぶたは、まだまだ取れそうにないのである。なぜかっていえば、やっぱりムード派だからね。

今回のツアー鑑賞記録
11月23日 トークネットホール仙台(仙台市民会館)大ホール
12月1日   中野サンプラザ
12月23日 カルッツ川崎
1月31日 中野サンプラザ

駅の再開発! REMAKE REMODEL!
ありがとうサンプラザ! 
オルフェンズのイベントとか、小林旭とか、PUNPEEとかいろいろ楽しかった


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