見出し画像

『GJRS 20th』、『Homeworks』、『ひかりの世界』~3形態の作品から紐解くディジュリドゥ奏者・GOMAの現在地/GOMAインタビュー



ディジュリドゥ奏者・画家のGOMAが、編成やジャンルが異なる3作を連続リリースする。8月9日にGOMA & The Jungle Rhythm Section(GJRS)による『GJRS 20th』が、8月16日に新プロジェクト「GOMA HomeWorks」名義の『Homeworks』が配信スタート。さらにソロ・アンビエント作『ひかりの世界』も後日配信される予定となっている。大規模な個展『ひかりの世界』を大好評で終え、8月23日には久々の公演『JUNGLE FESTIVAL』を控えるGOMAに、今作の制作経緯を聞いた。


GOMA & THE JUNGLE RHYTHM SECTION

コロナ禍を乗り越え、高められたGOMAのクリエイティビティ。
異なる音楽性を持つ3名義の同時展開が、新たなはじまりを告げる


 プロローグ:
3つの名義から見える、GOMAのクリエイティビティ


2024年6月からふたつの名義で連続配信されている楽曲群、そして大規模な展覧会『ひかりの世界』(表参道GYRE GALLERY)で限定発売されていた、ソロ名義でのCD音源+追加2曲で構成されたアンビエント・アルバム(後日配信予定)。3つの名義を同時進行で運用し、断続的にリリースしていくという、一見複雑に見える展開は、しかしながら、GOMAの音楽家・ディジュリドゥ奏者としてのネクストステージを高らかに宣言する内容と言えるだろう。GOMAが事故後の活動の中で得た知見や手法、特にこの1~2年の間に高められた音楽家としてのクリエイティビティが見事に発揮された作品群となっているのだ。

GOMA & THE JUNGLE RHYTHM SECTION『GJRS 20th』
GOMA HomeWorks『Homeworks』
GOMA『ひかりの世界』

Chapter.1:
盟友との別れと、新たな制作への意欲


今回のリリースで使用されている名義と、その作品を改めて紹介しておこう。ひとつは、ドラム、パーカッションとのユニットであるGOMA & THE JUNGLE RHYTHM SECTION(以下、GJRS)の、結成20周年記念作品『GJRS 20th』。もうひとつは、盟友icchie(ex. DETERMINATIONS)を迎え、ホーン・セクションを導入したニュー・プロジェクトGOMA HomeWorksの『Homeworks』。そして、ソロ名義でのアンビエント作『ひかりの世界』となっている。

近年はコロナ禍による行動制限や画家としての活動もあり、「旅」のように全国を巡っていた頃に比べれば活動ペースも落ち着いているように見えるGOMA。だが、200名限定の野外音楽フェス「JUNGLE FESTIVAL distance ver.」(20年10月)、東京パラリンピック開会式への参加・楽曲提供(21年8月)、舞台『粛々と運針』(22年3月)での音楽監督・ライブ演奏など、音楽家としてしっかりと足跡を残してきた。

それが今回のリリースの萌芽となったわけだが、もうひとつ、大きなターニングポイントだと本人も語るのが、関西時代からの古い音楽仲間であり、打ち込みやミックス、マスタリングといったDAW環境での制作をサポートしていた山本アキヲ(TANZMUZIK、AUTORA)が、22年にこの世を去ったことにあった。

同年7月、トライバルダンス・トラック集GOMA & The Mad Ravers Paradiseによる『MAD RAVERS PARADISE』がデジタルリリースされた。この作品に収録されているGOMAのトラックは、事故以前に制作されたもの。GOMAの自宅には、09年の事故の前に制作された多数のトラックやその断片が未整理のままHDDに残されており、それをサルベージする作業を生前の山本と共に行っていたという。『MAD RAVERS PARADISE』として配信されている音源も、山本がGOMA所有のPCやHDDから発掘したもので構成された、追悼盤と言える内容となっている。

「アキヲくんには、GJRSのマスタリングもやってもらっていて。事故の後からもずっと制作を手伝ってくれていたし、(DAWも)教えてくれた彼がおらんようになってしまったから、自分でもう一回、できるようにならなあかんなと」(括弧内はGOMAの発言、以下同)

――そう本人が振り返るように、ひとりでも制作を完結させるべく、Pro Toolsの再習得を開始。「(事故直後は)以前のように覚えようと思っても、まったくできなかった。でも、それから12年が経過したのもあって、少しずつできるようになってきた」と、その使用法をマスター(このタイミングで、舞台『粛々と運針』のタイトな制作作業があったことも、その習得を早めたという)。そうした技術は、今回のGJRSとHomeWorksのベーシックなトラック・メイキングに大いに役立つことになる。

「完全に今、自分が楽しんでいるのがわかる。自分の年齢もあるけれど、音楽だけじゃなくて、本当に楽しいと思えるものだけ残っていくというか」

そうした前向きな姿勢が、すべてのサウンドに反映されているのは間違いないだろう。


Chapter.2:
Pro Toolsを駆使した、よりフロアライクなGJRS


GJRS、HomeWorksの音源制作はほぼ同時進行で進められた。まず、GJRSの楽曲をまとめるに至ったのは、結成20周年であることと同時に、シンガポールを拠点とする格闘技イベントの日本大会『Road to ONE』(22年12月開催)に楽曲提供をしたことが挙げられる。

「先方への提案用に、短いトラックを4曲くらい録音したんです。ボツ案も含めて、そのときのフレーズやリズムパートを、Pro Toolsでサンプリング・ループしたり、打ち込みを足したりしていて。GJRSはもうすぐ結成20周年だったし、そのタイミングに向けてリリースしようと」
「(GJRSの)楽曲自体は年一回ペースでは制作をしていて。事故前に比べると、曲を覚えて構築するのにはまだまだ時間がかかる。だけど、今回は『Road to ONE』向けに録音したものがベースにできた。それをPro Toolsでひとつの楽曲として仕上げて、最終的にディジュリドゥを追加した形かな」

これまで、ライブ感を重視した一発録りをメインとしてきたGJRSだが、今回はGOMAの自宅で録音されたパートを2年ほどかけ、じっくりと再構築。その中には、これまでメンバーたちと断続的に作っていたものと、『Road to ONE』用のものが合わさって完成した楽曲もある。

「ドラムにしても、打ち込みを足したり差し替えたりしているし、スネアとか(パーカッションの)振り物にも似た音色のものを追加していたり。だから、よりミクスチャー要素が強いダンス・ミュージックなった。そういう意味では、DJがフロアで使いやすいかもしれないです」

「頂 -ITADAKI- THE FINAL」での演奏風景
今年がラストになった「頂」の最後に相応しい熱狂を生んだ

Chapter.3:
盟友の協力で実現した、ホーン・セクションの導入


一方のHomeWorksも、GOMAの中ではずっと構想があったそうだ。「GJRSではパーカッションやベルでやっているフレーズを、ホーンに置き換えてみたらどうなるか」が出発点となり、トランペット、トロンボーンどちらにも対応する盟友・icchieに声をかけた。

「icchieくんにはパートごとに吹いてもらって、最終的にPC上でひとつにまとめる形。ディジュリドゥに別の管楽器を合わせたら絶対に合うと思っていたけれど、予想以上にダンサブルな音になった。実際に制作してみて、西洋音階の楽器に置き換えるとこれだけ面白くなるんだなと実感しましたね。ディジュリドゥは一本の木から作られた自然の産物だから、キー自体、西洋音階がジャストにハマるわけじゃない。icchieくんには、そこに寄り添ってもらってピッチを合わせてもらっています」

大きな特徴として、HomeWorksの楽曲には、GJRSの同一楽曲が数多く収録されている(タイトルが異なる曲もある)。つまり両名義は表裏一体、相似形を有する作品となっているのだ。一方で、別アレンジでこれだけムードが異なることが確認できるのは驚きでもある。

「ベースにあるトラック自体は、GJRSもHomeWorksも同じものを使っていて。ある一方が“オリジナル盤”だとしたら、もう一方はそのミックス違いの関係性。だから、どっちも楽しんで欲しいかな」
 

Chapter.4:
集中を促す、ディジュリドゥの響き「ひかりの世界」


そして、最後に配信される予定の「ひかりの世界」は、大規模な展覧会「ひかりの世界」限定で販売されていたCD作品に、2曲の追加音源をコンパイルしたもの。これは実際にGOMAが絵を描く際にもBGMとして流している音源で、各曲20分前後となっている。

「絵を描く際に集中できる音楽を作りたいと、個人的に作っていたもので。眠るときにも良くて、これをかけているとめっちゃ眠たくなる。20分という時間は、人間の集中力の限界がそれぐらいだと言われていて。ディジュリドゥ自体の録音も一本吹きで、20分吹き続けたものです」

音数も、ディジュリドゥをメインとしてほかは最小限に抑えられているが、鈴や水の流れる音、波の音をはじめ、旅先でフィールド・レコーディングした環境音が散りばめられている。これにより、大自然に囲まれているようなトリップ感も味わえる。

「ディジュリドゥの倍音がひたすら続く作品ではあるけれど、曲ごとにディジュリドゥのキーが変わっていて。キーが変わると、不思議と体がふっと浮くような感じになったり、逆に落ち着くようになったり。CD版は、再生ボタンをポンと押してもらえれば、1時間、集中して作業してもらうのにちょうど良いと思う」

加えて、配信版では2曲追加されただけでなく、曲の分数を2倍に伸ばした40分版も存在する。

「40分という長さには理由があって。禅のイベントに出演したときに知ったんだけど――1炷(ちゅう)の長さ、つまり、坐禅を組むときの長さが40分なんです。これは、線香1本が燃え尽きる時間と同じで。そのイメージで、集中する要素は変わらないけれど、より禅に近い、心を落ち着かせるときに聴いてもらいたいと思って」

Chapter.5:
8.23「JUNGLE FESTIVAL」に向けて


3種の形態を使い分けながら、音楽活動を続けていこうと考えているGOMA。8月23日には、神田明神ホールにて『JUNGLE FESTIVAL 2024』が開催される(現在、チケットはSOLD OUT)。先日、惜しまれながらも最後の開催となった「頂 -ITADAKI- THE FINAL」(24年6月)でも、そのハイライトとなるような演奏を行ったGOMAだが、自身のホームとなる「JUNGLE FESTIVAL」は、どのようなものになるのだろうか。

「基本的には、リズム隊の演奏が固まっているGJRSが土台になるかな。その上に、新しい要素を乗せていこうと思っています。例えば、ひとつのライブの中で、GJRSのリズムセクションだけとか、逆にソロだけとか、ホーンが参加するパートがあるような。それらをひとつのSHOWとしてまとめて行ければと思います。これまでは、ひたすら上げることしか考えてなかったけれど、今は、もうちょっとバラエティに富んだことをやりたい。そう思うようになったのは、舞台に参加したことも大きいし、ディジュリドゥという民族楽器を使って、ひたすら盛り上がって発散! みたいものではなくて、芸術の域まで高められたら、という思いになってきましたね」

そうしたライブへの考え方の変化には、今後の音楽活動の中で追求していく上での指針にも繋がっている。

「ふたつのユニットとソロ、3軸ある音楽活動もそうだし、アキヲくんとの別れもそうだし、そこからPro Toolsを覚えたこともそうだけど――パッチワークでも良いからすべてをひとつに繋げていきたいっていう思いがある。具体的に言えば、事故前と、事故後の人生を、かな。シリアスな過去があっても、それが作品になった途端にポジティブなものに変換されるという経験をずっとしてきていて。今回の展覧会もそうだけど、感謝の声が届くと、それだけで肯定されたような気分になるんだよね。それが音楽をしていることや、絵を描いていることの理由として一番自然かもしれない。そう今は思っています」
 
(文・森樹)

GOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTION 20th Anniversary
『JUNGLE FESTIVAL2024』
日程:2024年8月23日(金)
時間:OPEN18:00 START 19:00
会場:神田明神ホール
   東京都千代田区外神田2-16-2 神田明神文化交流館2F
出演:GOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTION
チケット:予定枚数終了いたしました
主催:JUNGLE MUSIC 協力:LSDエンジニアリング OFFICE1102
問合せ:mail@gomaweb.net
https://gomaweb.net/

GOMA/プロフィール
オーストラリア先住民族の伝統楽器「ディジュリドゥ」の奏者・画家
現在までに15枚のオリジナルアルバムを発表
年に一回のペースで個展を開催

■リリース情報
GOMA & The Jungle Rhythm Section『GJRS 20th』
配信・発売日:2024 年 8 月 9 日(金)
レーベル:JUNGLE MUSIC

トラックリスト:1.One Groove 20th 2.Tik Tok 3.Amigo 4.Saboten 5.Tropical


GOMA HomeWorksHomeworks』
配信・発売日:2024 年 8 月 16 日(金)
レーベル:JUNGLE MUSIC

トラックリスト:1.Conmigo ver. 1 2.Overtone rockers 3.Mezcal
4.Tribal disco 5.Conmigo ver. 2 6.One Groove24 7.Conmigo extend

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?