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研究開発から異動して気付いた、他の部署でも活用できるスキル

 こんばんは、旧研究人材のイツキです。

 いきなりですが、研究開発職に就く人というのは、かなり研究開発という仕事そのものへのこだわりが強いことが多いです。

 企業で研究開発の職に就こうと思うと、一般的には修士以上の学歴が求められます。
 大学全入時代と呼ばれて久しいですが、その中で大学院まで行く人というのは「もっと学びたいことがある」もしくは「その後の人生で修士号/博士号を活用してキャリアを構築する」ことを早々に決め、小学校以上の長さの時間を大学で過ごそうとしている、ちょっと特殊な人達です。

 なので、就活の前から研究開発のような技術職を志望していて、それ以外に見向きもしなかった、という人が多いのです。

 一方で、研究職の方の中にはこんなことを思っている人もいるでしょう。

「果たして、自分は研究開発以外に何が出来るのか?」
「他の職種で応用できないスキルばかり身に着けているのではないか?」

 さて、大手企業の総合職であれば、研究開発で入社しようとなんだろうと「本人の知見を広げ成長を促す」「組織の新陳代謝を促す」という名目で部署異動が待っています。

 弊社だと、5%くらいは研究所一筋という方もいますが(ただし、それでも研究所内での異動は間違いなくあるので同一テーマばかりは扱わない)、基本的には一度は他部署に異動していきます。
 そして、戻って来ない人もそれなりの割合で存在します。

 どこまでが異動の射程距離にあるかは会社によってのカラーがあると思いますが(就活生のみなさんはOBや社員からちゃんと情報仕入れてくださいね)、研究開発から近い知財・品証・マーケあたりまでしか異動しない場合もあれば、工場でも営業でも海外駐在でもどこでもありの会社もあります。 
 ちなみに弊社は後者です。
 研究職からこんなにぶっ飛ばされると思ってなかったわマジで…

 企業であっても、研究開発の仕事は大学でのラボ生活の延長線上に近いところにあります。ですので研究員の多くが描くキャリアは、良く言えば一つのスキルを磨きあげる、悪く言えば研究しかない、と言えるでしょう。それ以外のスキルを身につけるには、本人の高い意識と努力が必要になります。

 私も例に漏れず、学部3年からラボ生活で、その後研究所に配属されてからの10年近くを研究員としてのキャリアでしか磨いてきませんでした。
(途中マーケティング的な研修に年単位で参加したことはありますが、本業としてマーケティングの仕事をしていない以上、これはキャリアとは呼べないでしょう)

 そんな私は、会計知識も営業知識も工場知識もないので何も出来ないのではないか……そう思っていました。
 実際今も、実務でわからないことは山のようになっており、ヒィヒィ言いながら周りの人に手助け頂いているのが現状ではあるのですが。

 ただ、そんな中でも
「あれ、意外にこういうことって研究開発で身についた強みかも?」
 という部分があることにも気付きました。

 そんなわけで「今後研究開発以外のキャリアに進むことも視野にあるけど、自分に研究以外の武器があるのかな……」と悩んでいる方に、実は日々の仕事の中で以下のようなスキルが磨かれているよ、という話をします。

1) プレゼン力

 意外かもしれませんがこれはガチです。なんたって、場数を踏んでいる数が違う。

 学生時代から学会発表(しかも結構な確率で英語だったりもするでしょう)をし、会社に入っても研究成果の発表のためにPowerPointをいじり倒し、ボロクソにレビューされてきた皆さんのスライド作成能力とプレゼンした回数は、他の部署ではなかなか得難い経験です。

 ポイントはボロクソにレビューされるということで、研究職の皆さんって基本「この試験系自体おかしくないか」とか「その結果からこの考察にはならなくないか」という疑いの目で他人のプレゼン見るじゃないですか(偏見)。

 しかし他人のプレゼンに合理的な批判の目を向けられる自体が、意外に他部署ではない事だったりします。

 私が全部署見た感じだと、要点やストーリーがわかりやすく、聴衆を意識したスライドを作れるのはマーケと研究開発くらいかなと思っています。

 これは、スライドを作るときに悩んだ経験と、作った枚数と、発表回数の純然たる差かなと感じます。

 そしてプレゼン力が高いと、まとめの仕事が回ってきます。特にJTCであれば、未だに上の世代はパソコン自体が苦手な人も多いので、自分をアピールする良い機会になるでしょう。

 逆にもし研究職にありながらそういう場面を避けてきたのであれば、今からでもプレゼンの機会があれば名乗り上げてみてください。他の部署では、そもそもプレゼンの機会が与えられない可能性すらあるのです。

 これは役得だと思って、ぜひ。

2) 仮説立案→検証のサイクルに慣れている

 これは普通だと思うかもしれませんが、意外に特殊技能です。
 というか、営業や生産でこれが出来る人はエース格です。

 PDCAPDCAとうるさく言われますが、私が経企に来て感じたのは
「たいていの人が前提を置いた議論が出来ない、仮説を設定出来ない」
 ということでした。

 具体的な例を挙げてみましょう。

「生産キャパが100あるが、今AとBに50ずつ振り分けている。
 仮にこれをAに100振り分けた時に、生産上どういう不具合が起きるか」

 みたいな話をしたときに

「いや、Bは◎◎ってお客様がいるから止められないでしょ」

 みたいなことを言ってくる人は、結構多い。

 今キャパの話をしていることに対して関係ないことを言っているということもそうですし、「極論で仮説を設定し、そこから現在の課題を探ってみる」という検証プロセスをこの人の中では放棄しているわけですね。
 別に実際にBを止めるなんて言ってないにもかかわらず、この人の中では止まることになってしまっている。日本語力の問題かもしれませんが。

 加えて言えば、失敗に慣れていることが多いこともある意味強みです。

 以前こんなツイートをしましたが、生産の人とかは特に「基本安定稼働している」ので「まれに起きるエラーに対応する」という仕事スタイルなのです。

 一方研究は「10回トライする」→「なんか1回上手くいったわ」みたいな世界ですよね。ある意味、失敗慣れしている。

 実は「失敗することが前提で考えられる」のは強みでもあります。
 なぜかというと、失敗を前提に考えるということは、頭の中で事前にいくつか選択肢を描くことが出来るという作業を同時に行っているからです。

 特に経営やマーケティングといった部署は、不確定な未来に向かって暗中模索の中決断していくことが仕事になります。

 明確な答えはないか、あるいは複数存在することさえあります。そんな環境は、研究者の戦ってきたフィールドと近しいと言えるでしょう。

3) 物事の抽象化・構造化が得意

 2)と重なる部分もあるのですが、物事の抽象化というのは研究開発活動の中で育まれるスキルの一つだと思います。これは私も、上司から言われるまで全く意識してなかったのですが。

 おそらく人生において「もっと具体的に言って」と言われることは誰しもが経験していると思います。また人によっては「君の話は抽象的過ぎる」と言われたこともあるのではないでしょうか。私はもっぱらでしたが。

 ただ世の中はなんとなく「具体的に言う/やること」が善で、抽象的な捉え方を悪とは言わないものの良しとしない風潮があるように思います。

 なぜそうなるかというと、「具体化するほど考える範囲が狭くなり、わかりやすくなるから」です。

 人間広い範囲を捉えて選択肢を与えられ過ぎると、考えるストレス・決めるストレスがかかります。

 「磯野、野球しようぜー!」と言ってくれる中島が集めた友達はみんな野球道具を持ってくるでしょうが、「磯野、スポーツしようぜ!」と言ってくるような中島が集めてくるメンバーには悩んだ末に槍投げの道具を持ってくる奴が現れる。帰れ。

 しかし、実際に物事の問題解決を考える場面においてはしばしば物事を抽象化する必要があります。
 
 なぜかと言うと、具体化しすぎた個別案件は、他のものへの応用が効きにくいからです。

 「抽象化」はもしかしたら聞き慣れないワードかもしれません。これだけでひと記事書ける内容ですが、端的に言うと「個別の事例からその要素を大枠で捉え、まとめること」です。すごーく簡単に図に示すと以下の通り。

超ざっくりした抽象化と課題化の概念図

 前置きが長くなりましたが、研究者の強みはここにあります。なぜなら、研究活動というのはそれ自体が物事を「抽象化」する仕事だからです。
 正確には、抽象化と具体化を往復する仕事ですね。

 この思考方法自体が、多分慣れる慣れないがあるんだと思います。なので「お前の話は抽象的でわかりにくい」と言われたときには、謝りつつも「お、でも抽象化は出来ているのか」と思っておきましょう。
 単に自分の話がわかりづらいだけかもしれませんが。

4) 物事を客観視するレベルが高い

 一生懸命考えた仮説を基に実験計画を組み上げたが、何度実験しても出てきた結果は元の仮説には当てはまりそうにない――

 こんな経験はもうあるあるオブあるあるで、そんなときに研究者であればどう考えるでしょうか。

「あー、ワイの仮説が間違ってたんやー。こういう結果ということはこういうことかな?」とまた別の仮説を組み上げるでしょう。
 少なくとも、実験結果を捻じ曲げることはしないと思います。

 事実は事実、結果は結果。

 前述した「失敗慣れ」もあるのかもしれませんが、元の仮説にこだわりすぎて結果を捻じ曲げた見方をする人間を、研究者はひどく嫌悪します。
 
 例えば、有意差は出てないのに「優位傾向がある」とか言っちゃう人。R^2=0.3をそんな言い方する???

 ところがまぁ、実社会はそんな人で溢れてたりします。

 想いが強すぎると、明らかな下落トレンドを「横ばい」と言い張る人がいます。明らかな製造キャパオーバーの依頼をして「工場のやる気が足りない」とか言う人がいるわけです。
 その量、作るのに1日27時間必要だぜ。

 出てきたものに対して基本的にフラットかつドライに読み取って考察する。
 実験ではなく人間関係が絡んだやり取りの場合、これは敵を作ることもあります。しかし、誰に対してもそうであれば、それは信頼となるでしょう。この能力を正しく使うことは、それだけ稀有だからです。

 そして研究職のある意味いいところですが、部署としてのしがらみが薄いというのはあります。

 営業出身だったり生産出身だったりする経営層の方は、元居た部署に甘かったり、あるいは必要以上に辛辣だったりします。
 その点、研究出身だとそういったものとは無縁なので、さらにフラットに物事を見ることが出来るでしょう(悲しいかな、研究畑がいかに経営の外縁にいるのかという話でもあるのですが)。

 スキルというと「簿記」とか「英語」とかなんかそういったものを浮かべがちですが、僕が今この部署にいて強みとして感じるのは以上の4点です。

 周りからは結構物珍しい感じで言われることが多いですが、僕は「研究所にいる人だとみんなこんなもんじゃない?」と結構大真面目に思っています。

 ただ、こうした強みっていうのはやっぱり研究にある程度しっかり向き合ってきた、正しいお作法を学んできたからというのはあると思います。

 ですので、前向きに研究の仕事に打ち込んでいれば、その考え方自体が別のところで活かせることもあるよ、というのを今回のまとめにしたいと思います。


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