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ビジネス雑誌の記事タイトル変遷からリーダーシップの変遷を読み解く

組織と個人の関係性についてジェネレーションギャップがあるよね、という社内の会話をきっかけに、ビジネス雑誌の記事タイトルにもとづいて人材・組織関連のキーワードの変遷をたどってみました。

対象にしたのは、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の1993年1月号~2020年9月号のバックナンバー全278号。1990年代のHBRは季刊や隔月発行だったこともあるようで、バックナンバー数は年数に比して少しだけ少なくなっています。
今回は特集名と記事タイトルを分析の対象にしています。テキストマイニングにはKH CoderとRを使用しました。

ご参考まで、記事タイトルの取得方法はこちらの記事でご紹介してます。

仮説:副業時代の今、個人主義が強まっているのではないか?

ここ数年に注目されたビジネス書やビジネスキーワードは、ティール組織だったり、OKR、ナラティブ、デザイン思考、マインドフルネス、VUCA、アウトプットなど。コロナ禍を受けたリモートワーク推進とニューノーマルに向けた取り組みも注目され、ますます「個人の力」が重視されるようになってきているように感じます。

「個人」に注目が集まるなか、組織やチーム、コミュニティとの関係性がどのように扱われてきたのかを、ビジネス雑誌の特集から読み解けないかと思ったのが今回の分析の動機です。

事前の予想では、個人の技術やスキル、人材開発にフォーカスが移動しているのではないかと思っていたのですが、実際に分析してみたら個人主義の内向きのイメージではなく、よりオープンになっていくビジネスシーンを感じることができる結果になりました。

HBRの記事傾向

まずは記事タイトルデータの概観です。

全278号の特集・記事タイトルは、合計11,172語で構成されていました。
そのうち、重複を排除すると2,266語となりました。

KH Coderで抽出語リストの上位を表示させてみるとこんな感じです。
※このランキングは、記事の傾向をつかむために品詞を名詞、サ変名詞、動詞、形容動詞などに限定しています。

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語の分布はこんな感じでプロットされます。2,266語の中でも特定の語が繰り返し使用されている傾向が見られます。
※こちらは品詞の限定をかけていません。出現回数が200を超える語があるのは、助動詞や助詞などがカウントされているためと思われます。

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同じデータについて、Rでもテキストマイニングを行い、ワードクラウドを作成してみました。
ビジネス雑誌だけあって、戦略と経営がひときわ目を引きます。

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今回、分析の対象としたいリーダーシップや組織、チームといった言葉も並んでいます。

ワードクラウドは直感的にどんなキーワードが文章に含まれているのかわかるのですが、キーワードがどんな言葉と一緒に、どんなシーンで使われているのかを知るためには、共起ネットワークや対応分析を行います。

刊行年代をキーに、共起ネットワークを作成してみたのがこちらです。

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各年代に特徴的な語が表示されているのですが、それらを「顧客」「戦略」「経営」「マネジメント」「価値」「マーケティング」「企業」などの言葉が共通のテーマとなってつないでいるのを見てとることができます。

ところで90年代前半の記事テーマは、以降の年代と共通するキーワードが少ないように見えますが、これは対象となるバックナンバーの数が少なかったことによります。

93年、94年の2か年だけが対象となり、記事本数が少なく限られたテキストでの分析となったために、他の年代との傾向の違いが大きく見えている可能性があります。
2020年についても同様です。

組織とリーダーシップはどのように扱われてきたか?

KH Coderには、いくつかの語について文章ごとの出現傾向を集計、グラフ化できる「クロス集計」の機能があります。

この機能を使って、組織やリーダーシップに関係しそうなキーワードの出現傾向をグラフ化してみました。

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ざっくりとした傾向ですが、この30年ほどのうちに、マネジメントからリーダーシップ、そしてチームにテーマが移ってきているように見えます。

一方で「組織」という語は継続して使用されてきているのですが、リーダーシップにフォーカスが当たると相対的に影に隠れるようにも思えるのは穿ちすぎでしょうか。

個人の時代ということで、専門性が注目されることもあるかと思っていたのですが、意外に「プロフェッショナル」という語は00年代前半にだけ見られる傾向でした。

この分析では、あらかじめ「リーダー」と「リーダーシップ」「トップ」を「リーダーシップ」を代表語として集計するなど、コーディングルールを決めて行っているので、このルールの影響が多少出ている可能性はあります。

それでも、マネジメント→リーダーシップ→チーム への変遷は実感的にも納得がいくものに思えます。

リーダーシップとチームの文脈

さらにマネジメントとリーダーシップ、チーム/チームワークが、どのような文脈で語られてきたのかを共起ネットワークにしてみました。

まずは「マネジメント」の共起ネットワークです。

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「組織」「経営」をはじめ、企業内のシステムや制度など、組織運営に関わる語が連なっているのがわかります。

対して、「リーダーシップ」の共起ネットワークはこちら。

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社会やCSRなど、幾分か社外への視点がうかがえます。
また、「優れる」「支える」「活かす」などの動詞とのつながりもあり、リーダーシップが内包する影響力や変化を促す性質が現れているように思います。

マネジメントの共起ネットワークに出現する語が、やや固定的な状況を示す名詞が多かったのとは異なる傾向です。

最後に、「チーム」の共起ネットワークはこのようになりました。

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図の中心付近には「チームワーク」の語もあるのですが、いずれにせよ固有名詞とのつながりが多いのが特徴です。

特定の組織や個人に学ぼうという趣旨の記事が多かったのかもしれません。
アスリートやコメディなど、従来のビジネス領域以外のキーワードも現れ、学びの幅が広がっているようにも思います。

まとめ

当初は組織運営から個人スキルへのキーワード変遷を想定していたのですが、分析してみると組織対個人ではなく、企業内から社会への視野の広がりを感じさせる結果となりました。

適当な分析なのでキーワードの抽出の仕方など、粗はいっぱいあります。
特にコーディングルールなど、設定の仕方で結果が大きく変化する部分もあるので、ご参考までにご覧ください。

今回は手軽にビジネス雑誌からキーワードを抽出したのですが、一誌だけではどうしても編集バイアスが大きくなります。
本当に社会全体の傾向をつかもうとするのであれば、新聞や書籍タイトルなどを対象にしたほうが良いのだろうと思います。

<参考>
この分析には、下記のリンクと書籍を参考にさせていただきました。


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