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留守番、自分の家ではない家で待っている。
一人で過ごす時間がどのようなものであったのか忘れてしまった。
どこかの窓から、規則的に話す声が聞こえてきている。
日本の言葉ではない声と、
勢いよく流れ出す水。
見上げると木の葉が揺れて光が差し込む。
目を落とせば、影が遊んでいる。菱形の明かりが影の間を行ったり、来たりしている。
二人でベンチに座って、見知らぬ人たちが重なり・離れていくのを眺めていた。
私たちに予定なんてものはなかったので、そのまま陽は暮れていった。
青々とした藤棚の蔓が風に揺れてカタカタと鳴り、羽虫がぶんぶんと対抗していたけれど、綺麗だねと言っていつまでもそこから離れることはなかった。

私はまだ、そこに座っている。
—-
死んでいく美しい日々はもう、戻らない。

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