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配属ガチャに思うこと

配属ガチャなる言葉がクローズアップされている。
この件については、現在大学生の就職支援に関わっている者であり、かつ以前は企業で採用や教育に携わっていたものとしてひと言書き留めておきたいと思う。

以前から新卒で採用された若者の早期の退職は問題になっていたのだけれど、最近は希望する部署へ配属されなかった、配属先の上司と合わないとの理由で電光石火辞めてしまう若者が多いそうだ。

少し前に見たテレビでは、配属ガチャで辞めたというちょっと強気な美人がインタビューに堂々と答えていた。
「面接のときに希望を出しておいたのに(希望する部署に配属されず)このままこの会社にいたのでは、私が希望するキャリアが築けないから即刻辞めました。」

テレビに出ていた彼女をどうこう言うつもりは無い。
大転換期を迎えている社会において、若い感性や発想力が必要な場面が多いことも充分理解している。
大変優秀な学生であり在学中に『希望するキャリア』のためにしっかり研究を行ない、それなりの経験を積んできた者が希望しない部署に配属をされて「これでは希望するキャリアが積めない」というのならそれは仕方がないことだし、会社の人事のほうに大いに問題がある。

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さて、これから言いたいことは「大変優秀な学生」に対してではないということをご理解いただきたい。私が噛みつきたいのは「フツーの大学生」が社会人になった人々と、その対応にあたふたする企業についてなのだ。

大学生の支援現場にいて、「やりたい仕事は何?」と就活生に問うと、多くの学生は企画、マーケティング、新商品開発、バイヤーなどと答える。
こちらが「どんな体験でも構いません。これまでに全く新しく作り上げた物事はありますか?(企画に近いことをやったことはあるのかな?)」と問うても答えは「ありません」がほとんど。
「なぜ新商品開発がしたいのですか?」「面白そうだから」「やってみたいから」(就職はお仕事体験じゃないんだけど)
「マーケティングの仕事内容は解っていますか?」「はい、マーケティングの授業を受けましたから解っています(解ってるから希望するんだろ?バカじゃねえの?オバサン)」
机上の空論だけじゃ実務ではどうにもならないのだけどね。

それから「希望を言ったのに、希望どおりの配属先ではなかった」という問題について。
若い人たちの相談に乗っていると、言葉の理解が非常に幼いことを感じる。
自分が伝えた言葉が稚拙でも言いたいことは言ったと思っているし、相手から聞いたことを100%理解していないことも多い。自分の都合の良い部分だけ切り取って受け取ってしまっている。コミュニケーション力が弱いのだ。
「入社したらやってみたい仕事は?」そりゃ面接官は聞くでしょう。でも聞いたことが必ず実現するとは限らない。しかも企画がやってみたいとは言うけれど具体的なプラン案が無しでは会社としてはコマルのです。それでも彼らは「希望は伝えた」と記憶してしまう。
また、「配属先の希望はどのくらい通りますか?」と学生が訊いたとしよう。企業もバカじゃないので「皆さんの希望と適性を適切に判断したうえで配属先は決めます」こう答えるはずだ。しかし彼らは自分の都合の良いように「企業は希望を受け入れてくれると言った」と判断してしまうのだ。

汗をかく営業や現場の仕事はやりたがらず、ちょっとカッコ良い企画だの新商品開発だのばかり希望されたってね、企業はそれだけでは回ってゆかない。企業だって学生の希望をすべてかなえていたら大変なことになる。そんなこともわからないのか?わからないのだ。

そして配属ガチャ防止策として、訳知り顔のコンサルのセンセイがおっしゃっている「新人のキャリアビジョンを重んじなさい。」ということ。これは現場にいる者からするとまったく現実的ではない。
キャリア開発について上司なり経営者と新人が話し合うことは重要だけれど、新人の言うなりになりなさいには大いに違和感がある。
自分のキャリアなど真剣に考えておらず、ただ楽して格好の良い仕事にありつきたいと考えている若者の我儘を、会社はすべて受け入れる筋合いは無いのだ。そんなことをしていたら、企業は立ち行かなくなってしまう。

昭和の御世から働いている者としては「新入社員になったら、もうお客さんじゃないんだよ」「いつまで受け身でいるつもり?自分の道は自分で切り拓けよ」「(希望をかなえたってどうせサッサと転職するんでしょ?)会社はあんたたちの踏み台ではないのだよ」
こうした言葉が喉元まででかかるのだけれど、それを言ってはおしまいの世の中になったのだろうな。
そうそう、新入社員の不満の中に「雑用ばかりやらされる。」というのもあった。
右も左も分からない新人の手始めの仕事は、雑用と決まっているのでは?雑用も出来ない人に重要な仕事は任せられないと、新人研修で堂々と言ってたっけ?これもご法度?

若者を甘やかすだけ甘やかして、教えるべき世の中の事は何も教えず世の中に放り出してしまう教育機関。そして社会人になっても甘えが続いてゆく、それで良いはずはない。
それでは大学生は(大学側を含めて)どうすればよいのか?受け入れる企業はどうすればよいのか?
まず、大学生はもっと勉強をするべきだ。机上の学びも大切だし、将来の自分を考えそのために必要な体験を自ら積むべきだと考える。これは4年間のすべてを就活に捧げろと言う意味ではない。自分のキャリアを真剣に考え、その実現のために今の自分に足りない知識やスキルを大学の学びの中や職業体験の中で積み重ねてゆくべきだ。
企業は人手不足だからと言って、やたらと若者に迎合して甘やかしてはならない。
自社の目指す方針をはっきりと就活生に伝え、これを実現するために欲しい人材の能力、知識はっきりと示すべきだ。それが無ければ採用はしないし、あなたの希望を叶えるために会社は存在しない。お互いがプラスになるのなら一緒に働きましょう。そのくらいの気概があってほしいと思う。

とにかく今どきの若者は、子どものころからお客様扱いをされて育っている。そのまま社会人になってもお客様として生きてゆけるような勘違いをしているのだ。
まずはそこから改めねばならない。

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