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靴下を編み、人に会いに行く

自分からお誘いして、だれかとごはんに行ったり、あそんだりするのが苦手だ。思えば、ずっと。

ありがたいことに、今でもあつまる大学や高校時代の仲間は、そんなわたしに声をかけて連れ出してくれている人たちなんだ。本当にありがたいこと。

会社では営業職だし、自分のお店でお客様とお話しするのも大好きで、得意だとさえ思う。けれど、プライベートは別。わたしなんかが誘っていいんだろうか、嫌がられやしないか、とか、そこまでの関係なのか、とか、そもそも面と向かって何時間も話すなんて、色々と見透かされそうで怖い、とか、今まで言葉にしたことはなかったけど、そういう後ろ向きの気持ちがあって、苦手なんだと思う。特に1対1は。

それに、大学時代に遠距離恋愛の彼氏ができてからというもの、夜は帰ってFacetimeをするし、週末は会えれば一緒に過ごすし、自分の友達と過ごす時間は(もともと少なかったけれど)さらに激減したと思う。限られたフリータイムに、誰と何をして過ごすのか、考える余地もなく、あたりまえに決まっていた優先順位。

でも、昔の友達、少しだけ知っている先輩、活躍を拝見して、ゆっくり話を聞いてみたいなと思っている知人などなど、本当は会いたいし、話をしたい人がたくさんいる。今年は、そういう人たちに自分から会いに行く年にしたいと思った。

それならあとは声をかけるだけなのだろうけど、やはり冒頭に挙げたような後ろ向きの気持ちは手強い。味方が要る。そんなとき、昨年のうちにFacebookに書いた「靴下編みます、欲しい人いますか」の投稿がわたしを連れ出してくれた。

自分も、家族も、必要な靴下の数なんてたかが知れているのに、わたしはひたすら靴下ばっかり編んでいて、それはお店で売っている毛糸のサンプルとしての役割もあるけれど、やっぱり靴下はだれかに履いてもらってこそ靴下だ。だから、誰かのために編んで、サンプルとしても少しお店に置かせてもらって、最後は誰かに履いてもらおうと思って投稿した。たくさんの友人が反応してくれた。何年も会っていないけれど、Facebookでお互い近況をちらっと知っているくらいの関係性の人たち。自分から、声をかけるにはちょっと勇気がいる人たち。わたしの編む毛糸の靴下に興味を持ってもらえたことは、小さな自信と、お誘いする(ことに躊躇している自分への)格好の口実となった。

そして第一弾。建築家のおしゃれな先輩。大学に入って1年目に、一緒に10日間イギリスに派遣された仲間。

建築家のお仕事はあまり知らないけれど、わたしの大好きな「せんだいメディアテーク」のような、骨組み?柱?が見えている建物なんかも作ってるのかな。ちょっと幾何学的な、透かし模様の靴下なんてどうかな。色は、白。カラフルなものよりも、シンプルなものをセンスよく履きこなしてくれそうな感じ。

イメージがよく沸いたので、まずはこの白い透かし編みの靴下を編ませてもらった。

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模様は、手元にあるレースパターンの本からイメージ似合うものを探した。靴下のサイズに合わせてパターンの繰り返しの数、靴下の目数を決める。あとは編む。ちょっとややこしすぎる模様だったし、編んでいるうちはもちゃもちゃと縮こまっているのであまり綺麗ではないんだけれど、編み終わって水通しすると見違えるようになった。
きっとお似合いだろうな、という靴下の完成。

仙台で毎月開いているポップアップショップでも何度か展示させてもらった。真っ白な透かし編みの靴下、いいわね、と気に入ってくださるお客様も多かったけれど、もちろんこれは先輩の靴下なのでお譲りはしない。こんなふうに、単色の糸も楽しいし、透かし編みにするのも良いですよね、というインスピレーションとして活躍してもらった。

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東京はいよいよ暖かい日が増えてきて、そろそろ靴下も渡さなければと思った先週、先輩にご連絡して、5年ぶりだかでお会いすることになった。
選んでくれたお店も素敵だった。センスの良い本屋に併設したカフェ。(近いうちにまたゆっくり本をみに行くつもり)

久しぶりにお会いしたうえ、元々ゆっくりお話したこともなかったけれど、建築も編み物も、お客様のために妥協せずに何かを作るしごとであり、一緒にイギリスでの濃い10日間を過ごした後にそれぞれスイスとフィンランドに留学した経験が背骨にあり、これからやってみたいこと、暮らしたい環境など、「良い」という感覚がとても近かったんだなということがわかった。お話しできて、本当に楽しかった。(肝心の靴下もとても気に入ってくれて、つぎの制作に活かして、とお代までいただいてしまった。)

何日もかけて靴下を編み、それが出来上がるころ、自分の勇気も出そろったころにお声をかける、というサイクルは、会いたい人に会いに行くだけの、簡単そうで私には難しいことに立ち向かうひとつの手段。本当に、編み物にはどこまでお世話になるのやら。

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と、ここまでは、数ヶ月後にこんなことになっているとはまだ知らなかった、2020年2月に書いていたこと。

その後、世界中がCOVID-19で大変なことになり、わたしはそんな中でも仙台の素敵な物件に出会い、これから毛糸屋をはじめようとしている。

ちょうど、この靴下をお渡しするためにお会いした際、仙台でお店をやりたいんだ、という話をしていた。まだ具体的に進める覚悟もなく、物件にも出会う前。でも、そうやって誰かに夢を話して、いいね!と言ってもらって、良いと思う感覚を共有できたのは、まぎれもなくその後のわたしの決断やアクションに影響を与えていたと思う。

そして、お店を始めることに決めた今、この建築家の先輩に色々と相談させてもらっている。絶対にいいお店になるよ、といつも励ましてくれて、経験も知識もない店舗作りをリードしてくださっている。本当に感謝。建築家って素敵なお仕事だなあ。

何より、同じ時に同じ街でそれぞれの時間を過ごしたもの同士、共通言語としての土地勘があったり、頼れる知り合いがいたり、これからのお互いの進む道にも確実につながるであろう一歩を一緒に踏み出すことができるのがとっても嬉しい。このお店作るのに携わったんだって、自慢してもらえるようなお店にしたいな。

靴下を編んで人に会いに行くプロジェクトも、亀の歩みですが続けていきます。

今回使用した糸はこちら:

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