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もし寝ているだけでお金が入ってきたら

#個人的面白い実験シリーズ


「寝ているだけでお金が入ってきたらな~」と思うことはないだろうか?

そこで今回は「感覚遮断」といった実験を紹介する。

これはカナダのマギル大学で心理学者のドナルド・ヘッブが行った実験だ。

その実験とは、男子大学生を集めて「仕事」をしてもらうというものだ。そして、その仕事とは1日で20ドルという高給なものだった。

そう聞くと、多くの人は「さぞ大変な仕事なんだろう」「危険な仕事なんだろう」などと思うかもしれない。しかし、この仕事の内容は「ベッドの上で1日中ゴロゴロするだけ」といったものだった。

もちろん部屋の温度なども快適なものに調節されており、ベッドも寝心地の良いものだ。

ただひとつ、この部屋では普段の生活とは大きく異なることがある。

それは‟被験者の感覚が遮断される”ことだ。

目には不透明なプラスチックのゴーグルをかけさせられ、なんとか光が認知できる程度となっている。耳にも耳栓がされ、周りの音が聞こえないようになっている。そして念を押してエアコンのヴォーンといったおとを一定で流し続ける。さらに手にも手袋をつけられ、その上から肘までをボール紙で包み込む。これは腕の曲げ伸ばしはできるが、手で直接物を触ることはできず、感覚的刺激を制限される。もちろん食事も自由に与えられ、トイレに行くのも自由だった。

しかし、何もしなくていいのだ。ただ寝ているだけ。ただ快適な部屋で寝ているだけで、毎日20ドルをもらえる。これは当時の一般的なアルバイトの2倍以上の給料である。こんないい仕事はないだろう。そう思う人もいるかもしれない。

だが、実験の結果は違った

被験者は「できるだけながくこの部屋にいてほしい」と言って集めたのだが、ほとんどの者が2,3日で部屋を出て行ってしまった。最高記録を出した人でも1週間程度で限界が来てしまった。

彼らは感覚を遮断された部屋で、まずは寝て時間を潰そうとした。しかしそれもこんなんになり、鼻歌を歌ってみたり、独り言を言ってみたり、両腕の筒を叩いてみたりした。何もない部屋で、何か変化を起こそうと努力をするのだ。しかし、大した刺激を獲られるわけでもない。

そしてさらに、なんと全員が何らかの幻覚を体験したのだ。

模様を見た人、人々の列を見た人、動物がジャングルの中を歩き回っているところを見た人、ドアの把手(実際は存在していない把手)を見て、その方に手を伸ばしたら、指先に静電気のショックを感じた人、人の話し声を聞いた人、オルゴールの音を聞いた人など、それぞれが様々な幻覚を体験した。

そして彼らは「たとえ賃金が安くとも、頭を使い身体を働かせられる仕事の方がいい。」と言って別の仕事に移って行ってしまった。


脳は常に変化を求める

これらからわかることは、脳は常に‟刺激(変化)を求めている”ということだ。脳は常に刺激を求めるために働く。

わかりやすいものでいうと、メトロノームの音だ。

メトロノームをずっと聞いていると、一定のリズムのはずが次第に違うテンポとして聞こえてきてしまう。これも脳が刺激を得るために情報を変化させることから起こる反応だ。

「寝ているだけでお金が入ってきたらな~」などと思うかもしれない。しかし、我々の脳はそれを許してはくれないのだ。



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参考文献

「知的好奇心-人間は怠け者なのか?」中公文庫(1973)波多野 誼余夫, 稲垣 佳世子


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