子供を人手をかけずに育てるとどうなるか
このコーナーでは、本を読んでいて個人的に面白いと思った実験を紹介していこうと思う。
ホスピタリズム
子供というものは元気ハツラツで旺盛な好奇心と探求心があるものだ。
次々と言葉を覚え、様々な行動も覚えていく。興味を持ったことへの関心や活動は留まるところを知らない。
しかしそんな活発なはずの子供でも、ある環境下に置かれると無気力となり、何事にも無関心な子供になってしまう。
それをホスピタリズムという。
―――ホスピタリズム(Hospitalism)とは、乳幼児期に、何らかの事情により長期に渡って親から離され施設に入所した場合にでてくる情緒的な障害や身体的な発育の遅れなどを総称して言うものである。 「施設病」「施設症」と言うこともある。(wikipediaより引用)
そして、そのホスピタリズムについてアメリカの精神分析家のスピッツが行った興味深い実験があるので、紹介する。
スピッツと聞くと多くの人はバンドのスピッツを思い出すだろう。これを読んだ皆さまは友達との間でスピッツの話になった時に、「あーあのスピッツね!」とこの精神分析家のスピッツの話を出してみてほしい。きっと嫌なやつだろ思われるだろう。
著しい発達の遅れ
ホスピタリズムの特徴には他にも心身の発達が著しく遅れるといったことがある。家庭で育てられた子供はほとんどが10カ月で座ることができるようになる。そして2歳にもなると大体の子供が歩くことができるようになる。だが、テヘランの孤児院では2歳になってもその65%はまだ座ることができず、4歳児の85%は歩行ができなかった、という。
こうしたものは何か遺伝的な欠陥があるのではないか、と思うかもしれない。だが、決してそうではないということが色々な研究から確かめられた。
改善されない不調
そもそもホスピタリズムという現象は、施設に収容されている子供の死亡率が家庭で育てられた子供に比べ、明らかに高いといったことで注目されはじめた。
はじめは原因もわからなかったが、多くの施設児は風邪になり、それが悪化して肺炎をおこして死ぬということが多かったため、風邪に対する措置がとられることとなった。
だが事態は一向に改善されず、そのことをきっかけにその原因を突き止めるべく様々な学者により様々な研究が行われたのだ。
その研究のひとつに、スピッツの研究がある。
スピッツの実験
スピッツの研究は、一般家庭児と他2か所の施設児を生後4か月頃から観察するといったものだった。
この他2か所の施設は全く対照的なものであり、片方は医療をはじめとした施設としての設備は整えられているが、子供の世話をする看護婦は子供10人に対して1人であった。そしてもう片方は施設の設備は貧弱なものであるが、看護婦は豊富に配置されており、さらにそこに母親も参加するといったものだった。
しばらく観察すると、この2か所の施設の子供たちの発達の具合は大きく違っていった。
後者の施設児はすべてその後家庭児と変わらず健全な発達をしていったのだが、前者の施設児はそうはいかなかった。
人手のない施設児の悪夢
前者の施設では観察開始後2年間で91人中34人が死亡した。医療体制が整っていたにもかかわらず、だ。また、発達検査をしてみると重度の知的障害と同程度であった。
言語発達の遅れも著しく、2~4歳までの間で50%が2語だけ喋ることができるようになり、30%は全く話すこともできなかった。他にも無関心などの情緒障害、身体的な発達にも著しい遅れがみられた。
スピッツの結論
これらのことから、スピッツは「母親あるいはそれにかわる人の愛情に基づく養護は非常に重要である。それが奪われることがホスピタリズムを引き起こすのだ」と結論付けた。こうしたことから、子供の発達には母親の愛情の重要性が注目され始めることとなった。
……だが、上の結論を否定するわけではないのだが、その後また別な考え方が出てきた。‟母親の愛情に基づく行動”とはなんなのか、といった考え方だ。
それに関してはまた別な機会に書けたらと思う。
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参考文献
「知的好奇心-人間は怠け者なのか?」中公文庫(1973)著 波多野 誼余夫, 稲垣 佳世子
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